第六話:揺れ動く花







  斉藤が帰ってきてからというもの、

 は何ごともなく……?隊務をこなしていた。



 元々補佐と言っても、お茶汲みといった小姓の仕事も兼任しているので、

 ほとんど斉藤の側から離れることもなく、

 たまに副長などに書類を届けに行くくらいだった。



 何かあるとすれば、それは数日後にまた斉藤が留守にする、

 ということで……



 ―また置いてきぼりなんだろうなぁ



 とは小さく溜め息をついた。



 と、そこに……



 「!沖田先生見なかったか?」



 同室の補佐である時枝嵐士が現れた。



 「嵐士……いや、見てないよ。

  たぶんまた神谷さんと一緒にいるんじゃないかな?」



 またいなくなったのあの人?と苦笑しながら聞くと、

 嵐士もあの人の考えていることはわからないよ。と苦笑した。



 「そうか、ありがとう。

  ちなみに、はこんなところで何をしてるんだ?

  斉藤先生についていなくていいのか?」



 それがさも当然であるかのように嵐士が問う。



 ―確かに斉藤とは一緒にいることの方が多いのだが……



 「四六始終一緒、ってわけでもないよ。

  嵐士だって沖田先生のところより、

  土方副長のところにいることの方が多いだろう?」



 またもやが苦笑気味に答えると、嵐士も同感だ。と肯定した。



 「沖田先生の場合、一か所に停まっていることの方が少ないから。

  副長のところの方が一々届ける手間も省けるし、仕事もはかどって楽なんだ。」



 「確かに…」



 ―効率のことを考えると一理ある。



 と、頷いた。



 しかしにとっては、気の短い土方と一緒にいることの方が大変である。

 とてもじゃないが、効率を考慮しても真似出来ることではない。



 「ということで、暇してるなら探すの手伝って。」



 満面の笑みで勧誘する嵐士を前に、の拒否権はもはや存在なかった。



 「わかりました。手伝わさせていただきます」




 表情の裏に隠された黒いモノを感じとり、降参と両手を上げ、

 縁側の端からゆっくりと立ち上がった。



 「……まず、あの二人がいきそうな所といえば―」



 まず思いつくのは『稽古場』



 しかしあの二人がいるのならもう少し騒がしいはず……。



 声も聞こえないようなので違うようだ。



 「どこかへ出かけた、とか?」


 「……ありうるな」



 ―行くとすれば甘味屋か。



 とりあえず二人は門番に聞きに行ってみることにした。



 はふと前を歩く嵐士に疑問をなげかけた。




 「そういえば沖田先生には一体何の用で……?」



 聞いても良いことだったか、言ってしまってから少々後悔するが、

 その声に振り返った嵐士は別段気にする様子もなかった。



 「正確には土方副長が、ね。『呼んでこい』とさ。

  本当にあの人は人使い荒いよ……」



 溜め息まじりにそう言いながらも、その表情は驚くほど柔らかかった。



 「……嵐士?」


 「ん?」



 ―無意識だったのかもしれない。



 あまりの驚きに、つい名前を呼んでしまった。

 けれど、そこには聞いてはいけない壁のようなものが存在しているように感じた。



 「いや、なんでもない、って沖田先生!神谷さん!」



 目的の人物を見つけ、が声を発した。



 「捜しましたよ二人とも」


 「さん、一体どうしたんですか?」



 近寄ると、丁度先程二人を見つけた地点からは

 死角になったところに、斉藤の姿もあった。



 「か……」


 「先生もいらしたんですか」



 ―珍しい。と少々目を見開く。



 「あぁ、件の用で少しな」


 「……そうですか。私は嵐士の手伝いで二人を捜しに。」


 「時枝?」



 その名に反応し、歩いてようやく追いついた嵐士が口を開いた。



 「えぇ、かく言う私も副長の命令でして

  『沖田を呼んでこい』とのこでした。」


 「私、ですか?」



 沖田が自分を指差し確認する。



 「はい。すこぶる機嫌が悪かったのですが、

  先生何かやらかしましたか?」



 その言葉に嵐士・斉藤・神谷も疑いの視線を沖田に向けた。



 「えぇ!?私、何かしましたか!?」



 身に覚えがない、と真面目に大きく首を振る。



 「……冗談です先生。

  どうやら今度の大阪へ下る件のことでお話があるようですよ?

  できれば斉藤先生も、と。

  の所にいなかったのでどうしようかと思っていたんですが、

  手間が省けました。」



 スラスラと満面の笑みでことを述べる嵐士に、

 そこにいた者たちが何も言えなかったのは言うまでもない。



 ―上司を真顔でからかう辺り、その腹黒さが十分伺えた。



 その後一言二言話したあと、土方の元へ向かうべく

 嵐士はくるりと踵を返し、それに沖田も続いた。



 神谷も一礼するとどこかへとかけていき、

 その場には斉藤との二人が残された。



 「…、大阪へ下るのにはお前も来い。」


 「へっ?」



 思いもしていなかった言葉には目を丸くした。



 「少しばかり厄介なことでな、腕の立つ者が数名必要らしい。

  ……準備を怠るなよ?」


 「はいっ……!!」



 不敵な笑みを浮かべそう言うと、

 斉藤も嵐士と沖田の向かった先へと踵を返した。



 その姿をはしばらく見つめ、見えなくなった頃にようやくその場を離れた。














 ―そして向かったのは自室



 ゆっくりと襖を閉めるとはぺたんと座り込んだ。




 「……先程まで悩んでいた私が、馬鹿みたいじゃないか。」



 そうぽつりと呟き、両手で頬を抑えた。



 ……そう、自分はつい先ほど。

 嵐士と会う前までは斉藤が留守にすることに気落ちしており、

 まさか自分が行くことになるとは思ってもいなかったのだ。



 「『腕の立つ者が必要』か…」



 その言葉によって斉藤に自分が認められているのだと、

 再認識できたのだから、自然と顔が緩んでくるのも仕方が無いかもしれない。



 「……先生の期待を裏切るわけにはいかない。」



 目を閉じ一呼吸置くと、気持ちを落ち着かせゆっくりと立ち上がった。



 「…私は『 』だ。それ以外の何者でもない。」



 ―それはまるで自分を保つための呪であるかのように……。



 何度か言い聞かせるように呟くと、は大刀と脇差しを手に取った。





 ―その顔、鬼の如く















 ―翌日



 どういうわけか、芹沢局長の強い推し(我儘)もあって、

 神谷さんも同伴することとなった。



 ……それに関しては一見、問題のないように見えるが、

 それが小さな歪みとなり、とある騒動の発端となろうとは

 このとき誰もが予想していなかった。



 もちろんその中心人物となる本人でさえも…。






 ―『人殺し』






 ―そして舞台は大阪へと移った。











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