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第壱話:小さな蕾・後 沖田に引きずられて来た場所には先程形容されていた通りの ゛小さい人″がそこにはいた。 相手は藤堂さんらしく、お互い竹刀を構えていた。 「あ〜、なんとか間に合いましたね。」 そう言って嬉しそうな顔を浮かべる沖田に は一つの疑問が浮かんだ。 「沖田先生。そんなに興味があるんなら、 先生がやれば良かったんじゃないですか? わざわざ私の相手をするくらいならですね…」 そう言いかけたを沖田は笑顔で制した。 「確かに彼に興味はありますけど、私が相手したのでは駄目なんですよ。 それにこの機会を逃したら、また何時さんと試合出来るか わからないでしょう? ですから、私は見ている側でいいんですよ。」 …なんだかすごく自分勝手な言い訳に聞こえなくもないが。 打ち合いの様子を見ていれば、その言葉の意味を大体理解できた。 「…確かに先生では相手になりませんね。 速さでいっても沖田先生は負けませんし…技術もまだ荒削りですね、彼。 磨けば光る原石、といったところですか?」 沖田の考えていることがわかりは苦笑した。 打たれまくっているのに一向にめげない彼が、 どこかの誰かさんとダブって見えたのだ。 と、そこに芹沢・近藤・新見三局長と土方副長が現れた。 沖田が二言三言話すと、彼らもこちらに気付き、 芹沢が真っ先にに話しかけてきた。 「おぉ、ではないか!今日も変わらず美しいな。」 その言葉にも苦笑するしかない。 会う度にそう言われ、否定すると謙遜していると、勘違いされるのだから質が悪い。 なので否定も肯定もせず笑ってやり過ごすのが一番良いことを は学習していた。 と、隣りにいた近藤と目が合い、今度は近藤が口を開いた。 「君は今日も稽古かね?本当に精が出るなぁ。 ところでめぼしい者はいたか?」 それを聞いた沖田と土方は『ぷっ…!』と笑い、 あきらかにから目をそらした。 近藤はその様子に疑問符を浮かべ、はこめかみをヒクヒクと引きつらせた。 「…何かあったのか?」 そう聞いた近藤に沖田はたまらず事の詳細をすべて話してしまった。 それを聞いた近藤は、災難だったな。 とに労わりの言葉をかけたが、その目元はやはり笑っていた。 大爆笑していた沖田には本当に腹が立つ。しかし直属でないとはいえ、仮にも上司だ。 怒鳴りつける訳にもいかず話を戻すと、 彼らは゛小さい人″と藤堂の試合をようやく見始めた。 しかし先程と展開は相変わらず。打たれ放題だ。 それでもめげないで立ち向かっていく。 ―彼もがんばるなぁ…と関心していると、 その゛小さい人″の面が転んだ拍子にとれて、その顔が露になった。 どうやら本人は熱中しているため、面が取れているのにも気付いていないようだ。 周りにいた者たちは、その秀麗な容姿に誰もが感嘆の息をもらした。 先ほどののときもそうであったが、ここの隊士たちとは毎日顔を合わせているので、 この少年よりも見惚れていた人数は少ないだろう。 「なんと美しい若衆じゃ…!」 そう呟いたのは芹沢局長だった。 それに反するように言葉を発したのは土方で… 「―まだ童じゃねぇか。」 とぼやいたが、少年が美形であることを否定しないあたり 彼も同感のようであった。 と、藤堂がその少年に押されはじめた。 「どうしたんです、藤堂さん?」 沖田が不思議そうに問い掛けると… 「バカ!あんなかわいい顔に打ち込めるかよっ!」 少々顔を赤らめて藤堂は言い返した。 と、少年がまた攻撃を仕掛けてくる。 そこを沖田が割り込み、喉に手を突きつけ牽制し、勢いを止めた。 「―打たずとも動きを止めることはできますね。」 「ま…参りました!」 結局、そこは沖田が試合を終わらせることで、双方怪我なく至った。 と、沖田が何かを思い出したかのように口を開いた。 「時に、付かぬ事をお聞きしますが、以前どこかでお会いしませんでしたか?」 「いっ、いいえ!一度も!!」 …もし相手が女なら、口説き文句のように聞こえるその言葉に、 少年は即座に否定した。 はそれに微かな疑問を感じたが、気のせいだろうと軽く流し、 二人の会話を引き続き聞く。 「そうですかねぇ…?」 沖田も疑問符を浮かべていたが、また思い出したように「あぁ!」と言った。 「わかった!先達て見た春画本にあなたとよく似た…」 その言葉にガクリと肩を落とし、 聞いていた少年も顔を真っ赤に染めていた。 「総司っ!!」 藤堂が急いで止めに入るが、沖田はまるでその意味に気付いていないようだ。 「あれ?藤堂さん見ませんでした?原田さんが買って来たやつ」 「バカ!!真っ赤になってるじゃないか。ウブなわっぱをからかうなよ!」 そう言って沖田を止める藤堂にも同感と頷いた。 するとそこで―「わっぱではありません!」と反論が返ってきた。 それを聞いた芹沢が、機嫌よさそうに質問を投げかけた。 「わはははは!威勢がいいのう、気にいった!! その方の名はなんと申す。身分・年齢は?」 「神谷清三郎。京に住んで五年になりますが、 父は元江戸府内直参の臣、私は次男坊にあたります。歳は18!」 ―18歳…? その言葉に少々引っかかる。 どうやら土方もそうだったらしく、 「嘘を付け、いいとこ12・3だろう。話しにならん帰れわっぱ。」 しっしっと手をやり、もう用無しといった感じだ。 それにムカついたのか、ムキになって言い返してきた。 「わっぱではありません!歳だってもう15で…」 「ほう、15か…。」 ―墓穴を掘った。 少年は口を手で押さえ、しまった!という顔をする。 それを聞いた土方もしてやったり、という顔をしていた。 ―私もそれをやられたら、確実にムカつくなぁ…… やられた神谷には、多少なりとも同情を禁じえないが、 嘘をついたことにはやはり問題がある。 「 わっぱには変わらんな。まだ声変もしとらん、その様子じゃ。」 「しかし直参というと、父御は将軍家直属の家臣であらされるのか?」 芹沢に次いで近藤が聞いた質問に、彼は表情を曇らせた。 「いえ、故あってとうに浪人の身。その父もこの春に亡くなりました…。」 手が震えている辺り、どうやら本当のことのようだ。 芹沢も心を打たれたらしく、 「採用じゃ!」 などと言っている。 「それはどういう理屈か。」 と、土方がこめかみを引きつらせながら問いただす。 しかし、それももはや芹沢の耳には届かぬらしく、 「私は近藤氏に話しておる!」 と土方をあしらった。 それに土方が怒り、今にも芹沢に飛び付きそうな勢いだ。 近藤がなんとかそれを食い止め、芹沢に返答するのも兼ねて土方に言った。 「まぁまぁ土方君、良いではないか。採用しよう。何しろ元直参だ。」 宥めるように言ったそれが土方には逆効果だったのか、声を荒立てて… 「証拠もないのに信じるのか!?そんな家柄の者がどうして…」 「お待ち下さい!」 土方の言葉に神谷が制止の声を上げた。 「壬生浪士組は家柄・身分に関わりなく 尽忠報国の志ある者を募ると聞いて参りました! …確かに私は元服前の未熟者ですが、志だけなら誰にも負けぬつもりです! 評議なさるなら、私の身分ではなく志を評じていただきたく存じます!」 そう言い切ると、その強い意志を表した瞳で土方を真っ直ぐに見た。 「―ふん、言うじゃねぇか。…総司!」 意地の悪い笑みを浮かべたままではあるが、その顔はどこか嬉しそうっあった。 「はい?」 沖田が返事をすると、土方は踵を返した。 「当分はお前の下に置け。わっぱの扱いはお前の得意だからな。」 ―それはつまり… 「神谷清三郎、合格だ。」 その言葉に一同の顔も綻んだ。 「有り難き幸せにございます!!」 そう言って頭を下げる彼は本当に嬉しそうだった。 「よかったな。」 「ありがとうございます!!」 …こうして゛小さい人″こと神谷清三郎は入隊することとなった。 しかしそれはこの物語のほんの序章であり、 これから巻き起こる数々の事件の役者が一人増えたに過ぎない。 そしてこの神谷清三郎との出会いが、 これからのの運命をも大きく変えていくことを、本人もまだ知らない。 Back Menu Next |