とある晩の黒崎家のお茶の間…。
『ボハハハハーッ!!』
「…ぶら霊?」
―はじまりはそんなこと。
ACT9:夢うつつの花
毎月2回。のお泊りが遊子法典により定められていた。
よくご飯を頂くにとっては、頭が上がらない遊子の法典は絶対なのである。
―そして今日はそののお泊りの日だった。
晩ご飯の後、お風呂を先に借り出てきてみると、
一心と遊子がかじりつくようにテレビを見ていた。
そんなに面白い番組がやっているのかと思い目線をずらせば、
一護とカリンは興味無さげに食卓テーブルでジュースを飲んでいる。
―まぁ、いつもの光景と言えばそうなんだけど…。
とりあえず食卓テーブルの方に行き、コップにジュースを注ぐとカリンの横に座った。
―そして冒頭文に戻る。
「姉は見て来なくていいの?」
カリンがをうかがうように見た。
「ん?どうして?」
「いや、だって……」
言いにくそうにするカリンに一護が付け足した。
「お前あぁいうテンション高いの好きだろ?」
その言葉にはキョトンとした。
「……あー、あれはちょっと、苦手、かな?」
「……珍しいな」
「うん、でも嫌いじゃないよ。ほら『ボハハハハーッ』」
腕を交差させてやって見せるに、一護とカリンはうさん臭そうな顔をした。
「うわぁ、傷つくよその反応。」
交差させた手をダラリと下ろすと、口元にコップを当てた。
「ビィイビョーバ!」(イイよーだ!)
拗ねた子供のような行動をするに一護も呆れた。
「ガキかお前は!」
「ビョーベ、ババビュービョビャイビョバビベェブビョー」(どーせ、まだ15歳のガキですよー)
はッ!と鼻で笑うに一護のこめかみがピクリと動いた。
「っテメェ…!!」
勢いよく立ち上がろうとした瞬間、それを遮るように遊子の盛大な声が響き渡った。
「あーーーッ!!」
『!?』
「何だよ?デカい声出すなよ遊子!!」
「……一体何事?」
も驚いてコップから口を離し、そちらを見れば、
遊子が感きわまって目に涙を浮かべているではないか。
「じ……次週の『ぶら霊』が…!!空座町に…!!」
「…は?」
「…へ?」
一護と、二人の変な声が黒崎家の茶の間に静かに響いた。
―翌日の学校
と一護の二人がそろって登校すると、思わぬ人物からの思わぬ挨拶で出迎えられた。
「ボハハハハーッ!!」
『……』
「あれ?リアクション薄いなあ、黒崎君、ちゃん。
もしかして何だかわかんない?コレ」
その人物こそ天然100%井上織姫その人である。
「ぶ…『ぶら霊』!」
「正式名称『ぶらり霊場突撃の旅』」
一護が答えたのでは補足してみた。
「あったり!!それでは二人ともご一緒に!ボハハ……」
と、嬉しそうにやろうとする織姫を止めたのは、幼馴染みのたつきだった。
「はいはいはい。ボハハーは私が付き合ってあげるから!」
「…た、たつきちゃん?なに!?なに!?なんで!?」
強制連行を見守りつつ、はその行動を理解した。
……たつきはきっと一護を庇ったのだろう、と。
幼馴染みなだけに一護がああ言う番組が嫌いなことはもちろん知っている。
―昔からそういう所、優しかったからね……。
は心の中で小さく笑った。
しばらくして、そこに啓吾と水色の二人が現れた。
「よっ!一護!!」
「あ、おはよ。」
そう挨拶すると……
『ボハハハハーッ!!』
『……』
そのときの一護との心境は見事にハモっていた。
―……正直ウザい。
「……」
横では無言でチャドまでやるのだから始末に終えない。
は深く溜め息をつくと、そのまま無視して自分の席に座った。
「あっ!コラ!!」
「…安眠妨害したら、啓吾でも許さないからネ?」
「は…ハヒっ!」
不機嫌丸出しでが伏せると、その矛先は自然と一護へと向かった。
「!自分だけ逃げっ……」
そんな抗議の声もサラリと聞き流し、は目を瞑った。
「行かねぇよ!!」
という一護の声も頭の片隅で聞こえた気がしたが、意識はほとんど沈みかけており、
は静かに眠りについた。
―ここはドコ?
ゆっくりと目を開ければ、眩い光が差し込んで来る。
「ん…眩し……」
そう小さく呟き、目の前に手をかざした。
「……もう起きたのか?」
「―え……?」
よくよく考えるとここは布団の上で、自分は先ほどまで教室にいたはずだった。
その声に驚き、思いがけず身体を起こそうするが……
身体に鈍い痛みが走り、強制的に布団へと押し戻されてしまう。
「無理、するなよ?まだ朝も早いからな。」
その声の主は苦笑気味に言った。
―この声は……
「…… さん」
無意識のうちに彼の名前を呼んでいたらしい。
彼が白い光の中に現れるが、逆光でその顔は見えない。
「眠るまで側にいるから安心しろ」
その声色はとても優しく、何故だか無条件で安心できた。
「……おやすみ」
大きな手のひらが両目を覆い、その温度が心地良かった。
「……愛してる」
その一言が異常なまでに嬉しかった。
―ここはドコ?
次に目を開けると、今度は薄暗かった。
部屋はその時代を思わせる古めかしい趣があり、中央には囲炉裏がある。
その程よい暖かさが眠気を誘った。
すると後ろからバタン!という勢いよく戸を開く音が聞こえる。
「―ただいま!」
その声の主はまだ幼い子供だった。
ゆっくりと振り替えると、夕陽が戸から差し込み、
その小さな存在の背中をオレンジ色に照らしていた。
「……おかえりなさい、 」
また自然と言葉が漏れた。
少年の色素の薄い髪が光に当たりキラキラと輝き、それが無性に愛しく思えてならなかった。
「母さん、今日の晩飯は?」
その言葉に小さな悪戯心が芽生えた。
「……あら、あなたの分はないわよ?」
少々遅く帰って来たことを自覚し、そのことに負い目もあったのか、
少年の表情こそ見えないが顔をこわ張らせたのがわかる。
「クスッ…ほら、早く手を洗ってきなさい。」
「ーっ母さん!!」
からかわれたことが分かり、少年は抗議の声をあげた。
それがまた可愛くてしょうがなくて、気付かれないように小さく微笑んだ。
―まるでそれは、自分が自分では無いような感覚だった。
―私が『母さん』?
…ということは、彼は息子なのだろうか?
―プツリ…と、突然意識はそこで途絶えてしてしまった。
しかし、そのとき感じた気持ちは間違いなく本物だった。
そしてまたゆっくりと意識が浮上を始めた。
「おい、いい加減起きろよ!」
一護の声が頭に響く。
「……おはよう一護。って、ここ教室?」
ぼんやりとする意識を起こすと、そこは見慣れた教室だった。
「は?何言ってんだよ。もう昼だぞ?」
呆れ気味に言われ、は時計を確認した。
「…もしかして朝から4時間も爆睡してた?」
「あぁ、それこそ死んだように眠ってたな。」
それを聞いた瞬間、は勢いよく立ち上がった。
「なんで起こしてくれなかったのさー!!」
「何度起こそうとしても、テメェが起きなかったんだよ!!」
―自業自得だ。
と溜め息をつく一護には小さく肩を落とした。
「…これだから一護は」
「何だよそのいかにも俺が“使えねぇ奴”みたいな言い方は!」
一護は額に血管を浮かべていた。
「……根本的にカルシウムが足りてないよね。」
「いい度胸じゃねぇかコノヤロウ!」
一護がキレた。
そしていつもの追っかけっこが始まる。
―ちなみに昼休み終了まで残り30分。
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