ACT8:決意の先に
雨が降りしきる中、はゆっくりと目を開けた。
ぼんやりとする頭の中では、今ここにいたるまでの一連の出来事が回想されていた。
自分の正体が金髪の女性…つまり死神であったことにそれほどの驚きはなかった。
それは改めて一護が死神であったことに対する驚きの方が、圧倒的に強かったからだ。
地毛が金髪だったこともあり、すんなりと受け入れる自分がそこにいた。
重たい体を起こし、水溜まりを覗きこめば銀色の髪が現れる。
そこにいたのは間違いなく、一護の幼馴染みで高校1年生の『 』だった。
―夢だったのだろうか…?
ふと、そんな疑問が頭を過ぎるが、鮮明な記憶がそれをすぐに否定させた。
「…戻らないと」
一心には一応会ったが、真咲への墓参りはちゃんとしてはいないことに気付き、
は彼女の墓のある方へと歩き始めた。
―雨に濡れるその姿は、小さな子供がまるで泣くのを我慢するかのように、
どこか頼りなく痛ましかった。
いつの間にか雨が止み、は墓前に立っていた。
「……真咲さん、ごめんね。」
呟かれたそれは弱々しく、小さく握られた拳は震えていた。
「……何も、してあげられなかった。
あなたはきっと…そんなことは、少しも望んでなんかいなかっただろうけど。
私は……後悔ばかり、して…います。」
一度言葉を区切り、は大きく息を吸った。
「あなたの笑顔が、優しさが、すべてが大好きでした!
もちろん今もそれは変わりません。本当に、ありがとう…!!」
勢いよく下げられた頭の下からは、一筋の涙が零れていた。
「私は…笑えるようになりました。」
涙を拭き取り顔を上げると、は穏やかな笑顔を浮かべた。
「後悔は、これで終わりにします。」
もう一度頭を下げると、は一護たちの元へと向かった。
「―遅ェ!!」
会って一言めがその言葉だった。
「あははっ…ごめん!」
「『ごめん!』で済むなら警察いらねぇ!!」
予想通り。一護のお怒りがを待っていた。
「遊子たちを探してたらー、いつの間にか道に迷ってー、気付いたら雨がさぁー…。
今まで雨宿りしてたんだヨー?」
「語尾を延ばすな!第一雨宿りしてた割にはびしょ濡れじゃねぇか!!
Tシャツも透けてる…って少しは女の恥じらいを持て!!」
顔を真っ赤にして怒る一護にはニヤリと笑った。
「一護のエッチぃ、ムッツリスケベぇ〜。もしかして欲情しちゃった?」
「っ!!誰がするかっ!!」
さらに顔を真っ赤にして怒鳴り散らす一護が、は面白くてしょうがなかった。
「一護もお年頃の男の子なんだねぇ……あ、真咲さんに報告し忘れた!」
「んなこと報告すんな!!」
「じゃぁ明日啓吾に要・報告かな。『祝!一護も<男は狼なのよ〜>記念』でも……」
「だぁーっ!!いい加減にしやがれ!!そんなに説教されたいのか!?」
「げっ…!」
「よぉーし。お前の気持ちはよくわかった!たっぷり説教してやる!覚悟しやがれ…!!」
「一護サンご乱心〜!!?」
その後、遊子の助けが入るまでの約1時間。
は正座で説教され続けていたという…。
真咲の墓参りがおわり、黒崎一家とはそこを後にした。
一護の、住職さんもビックリな説教により、帰宅予定時間を多少(?)過ぎたのは、
本当に予定外の出来事であった。
は用事があると言って黒崎一家とは途中で別れ、とある場所へと向かった。
―落ち込んでいるとばかり思っていたんだけどなぁ…。
ふと、は小さく笑った。
真咲が死んだ事実は、それくらい衝撃的なことだったから。
そのことで、一護に更なる負担をかけたのは自分だ。
―だから少し負い目があったんだけど…、心配いらなかったみたいだ。
「一護も成長してるんだなぁ」
泣いていたのがついこの間のように思えてならなかった。
「…次は、私の番か。」
―『用事』とはとある人物に会う事を指していた。
そして、その向かった先は今時珍しい木造の古めかしい建物。
「……一応、久しぶり…かな?」
眼前には『浦原商店』という文字が書かれている。
深く息を吐くと、落ち着いた足取りでその建物へと入った。
「…喜助、いますか?」
中を見渡せば、そこには赤い髪の男の子がいた。
「誰だあんた。店長の客か?」
その不遜な態度に、何故かは懐かしさを覚えた。
「うん、一応…客かな?『』が来た。
と、言ってもらえればわかると思うんだけど……」
自信なさげに言うに、少年は訝しげな表情をするが「わかった」と頷き立ち上がる。
すると彼の後ろにあった障子が開き、目的の人物である喜助が現れた。
「お久しぶりっスね…。封印、解けちゃったんすか。」
喜助が切なげに笑った。
―ここに来た。ということはつまりそういうことなのだ。
「うん…、どうしても『力』が必要だったんだ。後悔は、していない。」
真っ直ぐと喜助を見据えるに、喜助は帽子を押さえた。
「そうデスカ。で、今日はその報告に?」
「いや…『朽木ルキア』彼女についてと、現在の尸魂界の状況を教えてもらおうと思って」
喜助は言葉に詰まった。
「…記憶、すべて戻りました?」
その質問には目を見開くが、すぐさま納得し首を横に振った。
「残念ながら。一番大切な所が抜け落ちたまま……のようだ。
大切なヒトが誰だったのか、名前さえ出てこない。」
それに喜助は顔を歪ませた。
「すいませんね……私の施した封印が中途半端に効いたせいです。」
「無理をいったのはこっちだから。それより……」
「なんスか?」
の視線は、先ほどの赤い髪の少年を捕らえていた。
「この子の名前は?」
「へっ?」
「だから、なーまーえーっ」
「……ジン太っスけど?」
不思議そうに言う喜助には嬉しそうに笑った。
「ジン太?うん、なんでだろう気に入ったっ!その生意気そうな顔が特に」
「はっ?何言ってんだテメェ」
不機嫌な顔をするジン太にはジリジリと間合いを詰めた。
「テメェじゃなくて。または『さん』でも可。」
「はぁ?意味わかんねぇーよ!?……っグエッ!!」
騒ぐジン太を尻目に、は頭をワシャワシャと力強く撫でる。
「さん、あなた……」
喜助が何かを言おうとするが、小さく首を振り言うのをやめた。
「店長助けろよっ!!」
ジン太の助け声に喜助は苦笑した。
「あー、さんそれくらいにしてやって下さいネ」
「ん。了解」
パッと手を離すと、喜助の背後へそそくさと逃げて行った。
「……もしかして嫌われちゃった?」
「照れてるだけっスよ。」
「……本当に?」
チラリと見れば目が合った。
が、すぐにそらされてしまった。
しかしその後すぐにまた視線を感じ、嫌われていないことはなんとなくわかった。
―…不思議と、ホッとする自分がそこにいた。
このときはまだ、それが好意から来るものだと信じて疑わなかったから。
―だから……
それが何を意味するかを後に知ることになるとは、想像もしていなかった…。
―小さな影と、優しい手と、白銀に輝く記憶
それは彼女にとって何よりも大切だったモノ…。
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