ACT7:フラッシュバック
一護への言い訳を考えながら歩いていると、遠くで笛の音が聞こえた。
これは一心が毎年鳴らしている集合の合図だ。
「あ…今年は鳥?」
毎年変わる笛を思い出し、は一人苦笑した。
「一心さんも頑張るなぁ…」
と、ぞくりと悪寒が全身を走り抜けた。
「―っ…!?」
―この感じは……!
あの夜感じたものと同じだ。
「―!!みんなはっ!?」
嫌な胸騒ぎにさらなる不安を覚え、はその場から一気に駆け出した。
長い雑木林を抜け、出たところは墓場。
辺りを見回すと、少し離れたところに一心がいた。
「一心さんっ!!」
「おっ!か?来るの遅いぞー!!遊子とカリンはまだ来てないがな!」
「一護は!?」
「何か血相変えていなくなったぞ?」
「……っじゃぁ一緒に捜してくる!!」
「おぅ!気をつけてな。天気が崩れそうだから早く帰って来いよ。」
「わかった!」
嫌な感じのする方へ、はまた走り出した。
心臓の音がうるさいくらいドクドクいっている。
息が苦しい。
―お願いだから…間に合って!
『……何に?』
―3人のところへ、助けないと……!
『今の主に何ができる?』
―わからない。でも助けたい……!
そのためだったら彼らの『楯』になってもいい。
『そうまでして何故助けたい?』
―『家族』だからだよ。
大切な……それ以上でも以下でもない存在。
『……力がほしいか?そのことに後悔はせぬか?』
―しない。
ここで何も出来なかったら、それこそ後悔する。
今、必要なのは彼らを助けられるだけの力だ。
『フン……主は、変わらぬな。
よかろう。
我名を呼べ!』
―名前……?
『知っているはずだ。
我は主のために存在し、主の力となるべく在るのだから。』
―存在……力……。
『では改めて名乗ろう。
主よ、違えることなく呼べ。我名は……』
その瞬間、は覚醒した。
「『月霞む天に嘶け!!!!』」
その声はまるで自分のものではないように聞こえた。
―そして
頭の中を膨大な映像が駆け巡り、それが収納されていく。
「っあ…!!っ……うっ……っ!…」
―頭が痛かった。
目許が熱くなり、涙が次から次へと頬を伝った。
―痛い
―苦しい
―哀しい
―空しい
―切ない
―嬉しい
―……愛しい
様々な感情がを支配し、交錯する。
その中でも、一番最近強く感じた感情は
『悲しみ』
真咲を失ったことに対する、自分への憤りと相手に対する憎しみ。
やりきれなさと強い……後悔。
―それはまるで途切れていた記憶のパズルがはまっていくように……。
そして、最もその中に深く刻みこまれていたのは
誰かを慈しむ『愛情』だった。
大切な誰かへと捧げた愛情。
それがの中にしっかりと存在していた。
―あなたはは誰……?
それはわからない。すべてがまだ不完全なのだ。
『時がくればわかることだ』
頭の奥でそう声が響いた。
「……大切な、誰か。」
それは…黒崎家の人々ではないような気がした。
確かに彼らは大切なのだが、何かが違うのだ。
―わからない……。
は思考を止め、精神を統一した。
記憶の回想が一時止み、今すべきことに集中する。
―……そう、今すべきことは一護たちを助けること。
もしかしたら、あのときのように一護が戦って
倒してしまっているかもしれない。
それでも、何故一護が戦っているのか聞かなければいけない。
『何故死神になっているのか』を。
はゆっくりと立上がり、斬魄刀を握りなおした。
そしてその斬魄刀に自分を映し出せば、その姿は先ほどとはまるで違っていた。
長いストレートの金髪に、青い瞳。
幼さを一切捨てた、完全な女性の姿がそこにあった。
―これが……自分。
不思議と驚きは湧いてこなかった。
ふと気づけば、いつの間にか雨が降り始めていた。
魂魄の抜けた体を木の根元によしかからせ、
は静かにその場からいなくなった。
―『グランドフィッシャー』それが虚の名前だった。
崖の下では一護が死覇装を着て、大きな斬魄刀で応戦していた。
予想していた通りの現状に、は目を細める。
「……っあれは!?」
人の姿を象った人形のようなモノ。
その姿は……
「真咲……さん…」
―……体が震えた。
それは決して雨に濡れたからでも、恐怖したわけでもない。
普段、滅多に表われることのない“激情”がその正体だった。
一護がその擬態と共に貫かれ、の中で何かが弾けた。
「……許さない。」
静かなる怒りが沸々と湧き上がる。
一瞬にして距離を詰めては言った。
「その汚い口を閉じろ」と。
グランドフィッシャーがこちらに気付き、隙ができた。
……一瞬の出来事だった。
の斬魄刀がグランドフィッシャーに突き刺さり、
腕と胴体半分を切り落とした。
「ウギャァァァァーーー!!!!うでが…腕がわしの体がァァーー!!」
そんな虚を冷めた目では見ていた。
逆に、今にも倒れてしまいそうな一護を見れば、
一護もようやくこちらに気付いたらしく、息も絶え絶えに言った。
「あんたは……?」
「名乗るほどの者じゃない。」
は小さな声で簡潔に言った。
「一護!!」
すると、それをかき消すように『転校生の朽木ルキア』が現れた。
それに反応するように、頭にまた新たな映像が駆け巡る。
その映像の中に、ピッタリと当てはまる人物がいた。
「朽木……ルキア…」
それは無意識のうちに出た言葉だった。
「!!?」
先ほどまで一護を心配していた顔が、強張るのがわかった。
「そうか、貴女が一護に……」
「―後ろだ!!」
―…ちっ!
何かを言いかけただったが、ギリギリのところで攻撃をかわした。
一護は頬を掠り、よろめく体を膝を着いて踏み止どめた。
「油断したな。」
動揺して気を配ることを一瞬忘れていたは、
忌々しそうにグランドフィッシャーを睨み付けた。
「ひひ……小僧、おまえは初めてわしの姿を見た時に問うたな…。
この“擬似餌”は、わしの一部か?と。
つまり“本体はおまえか?”と問うたな…。」
遠回しな言い方には眉間にしわを寄せた。
「その問いに答えよう。
……答えは否!!
どちらも本体だ!!!」
その言葉にはまた小さく舌打ちをした。
―冷静さを欠いた時点で自分の負けだったな。と。
「どちらか片方が傷付けば、もう片方に逃げ込むだけのこと!
そして今こちらの体に逃げ込んだわしを……
お前は最早斬ることはできん!!」
「…てめぇ…ッ」
一護が前に出ようとするがルキアがそれを止めた。
「……覚えておきなさい。」
一瞬にしてグランドフィッシャーの背後にまわり、は言った。
「あなたは“逃げ切れた”のではなく“見逃がされた”ということを」
そしてはグランドフィッシャーの片足を切り落とした。
「ギャァァァァーー!!!」
「貴女を倒すのは私じゃない。
『黒崎一護』
彼だ。」
グランドフィッシャーが醜い叫び声を上げながら逃げて行く。
それをは冷めた目で見たあと、ゆっくり一護たちを振り返った。
「……っ!何で逃がした!?
あんたがっ倒さねぇなら俺が……!!」
傷だらけの体を無理やり動かそうとして、ルキアがまた止めに入った。
「やめろ!一護!!」
「そうだね、やめときなよ。」
「…っせぇ!!あんたにはっ……関係ェねぇ!!」
「確かに……私が倒すのは簡単だよ。けれど、きっと君は納得しない。」
「……っ!!俺はっ、まだ戦え…」
「……君は弱いよ。
だから、もっと…もっと、強くなることができる。」
「……っお…れは、負け…た…」
「いや、間違いなく君の勝ちだよ。」
のその言葉と共に一護は倒れた。
「一護!!」
ルキアが抱きとめ、一護を支える。
「……力尽きたか。」
半分困ったようには呟いた。
「あなたは……」
言いかけたルキアの口をは手で塞いだ。
「……私のことは秘密。名前も、存在も。」
「何故……?」
「色々と事情が、ね。
それより朽木さん、一人でこの傷全部治療できる?」
その問いにルキアはしばらく悩んだあと、困ったように首を振った。
「そう、なら少し手伝うよ。
久しぶりだけど、多分何もしないよりはマシだから。」
一護が目を覚ます前に早々と治療をし終えると、は立ち上がった。
「あとは一人でなんとかなるね?」
「あの……っ!」
「……気をつけて。そして無理はしないこと。」
微かに微笑むその表情は、何故か哀しみを帯びていた。
「じゃぁね……」
―そして…ルキアが現世で彼女の姿を見たのは、これが最後だった。
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