ACT31:絶望を君に
「―…藍染!!!!」
の駆け付けたその場には、負傷し戦線を離脱した者以外のほとんどの者たちが揃っていた。
突然現れたという存在に、顔見知りの者たちは目を見開いて驚き、
初対面の者たちは敵か味方か判断が付かぬため、いつでも動けるよう警戒態勢をとった。
―反逆者は藍染惣右介、市丸ギン、東仙要の三名。
3人はそれぞれすでに動きを封じられた状態でそこにいた。
「―おや?これはまた懐かしい顔だ。」
笑みを浮かべる藍染には表情を険しくした。
「藍染、どうして…」
キツく握り締められたその右手には、しっかりとが握られている。
「随分とご立腹のようだね?」
「…何が言いたい」
張り詰めた空気をどか楽しんでいる節のある藍染に、は違和感を覚えた。
「まぁ、怒るのも当然だろう……君は昔から身内を大切にしているからね。
―それが実の息子ともなればその思いも一入かな?」
『息子』その単語を出してきた藍染に、は驚愕に目を見開いた。
「―っ藍染まさか知って…!!」
「フフ…そんなに驚くこともないだろう?少し調べればわかることだ。」
二人にしか分からぬ会話に、周りはついていけない。
「ともかく、最後に君に会えて良かった。
この尸魂界を離れるにあたって唯一、君のことは気掛かりだったんだ。」
「な、にを……」
さらに困惑するを尻目に、藍染は饒舌なまでに語り始めた。
「この退屈な日々の中で、君はとても興味深い存在だった。
何度どん底に突き落とされても這い上がってくる君。
その姿は実に滑稽で…反吐が出た。」
サーッとの顔から血の気が引いた。
「まぁだからこそ暇潰しには丁度良かったと言えたが。
いじめ過ぎたのか…君はある日突然離隊し、この瀞霊廷から姿を消してしまった。
探すのには少々苦労させられたよ。」
―『大丈夫かい?』
あの時、そう言った言葉は偽りだったというのか。
「あぁ、そうそう。
手を煩わされた腹癒せにあの時、実験中の虚を差向けたのも失敗だったな。
折角見つけたのに、まさかあんなにあっさりと、
今度は尸魂界自体から消えるなんて思わなかった。」
「…差し、向けた……失敗…?」
の顔色はいつの間にか死人のように青白くなっており、肩は小刻みにカタカタと震えていた。
「君がいない間は実に退屈だったよ。
あぁもう少し早く帰ってきてくれていたら、一緒に連れていったんだが。
そう、これでも君の能力は高く評価しているんだ。
その行動を逐一把握する必要性を感じるくらいに、ね。」
まるで己の玩具だと言わんばかりの言動の数々に、周囲の者たちは言葉を無くした。
ただわかるのは…の日常を目茶苦茶にし、
その存在を追いやった張本人は愛染だということだ。
「ふ、っざけ……」
「ふざけてなどいないさ。私としては至極真面目に言ってるんだ。」
「私、は…私は……っ!!」
「そう、それだよ。
君の能力も捨て難いが、何より…私は君の顔が絶望で歪む瞬間が一番好きなんだ。
いい餞別になったな。」
―プツリ…との中で何かが切れる音がした。
「―うぁ…あぁあああぁああぁぁ!!!!!!」
ガクリとその膝が崩れ落ちる。
「―!?」
慌てて駆け寄った浮竹がそれを正面から支えた。
「壊れた、か。まぁ期待通りかな」
「藍染っ…!!」
「…ああすまない、時間だ。」
その言葉とともに、突如として空から光が降りてきた。
―反膜(ネガレオン)
虚が同族を助けるときに放つ光。
空に開いた穴には大虚がウジャウジャとひしめいていた。
「残念だ…君のその絶望に歪んだ表情をもう暫く眺めていたかった。」
「―っ………!!」
涙を流し続けるを浮竹はキツく抱き締めた。
それは藍染からを守るように。
またの視界に藍染が入ってしまわないように。
「…何の為に、何の為にこんなことを!!」
「それは今回のことかな?それとものことだろうか?」
「っ……!」
馬鹿にしたような切り返しに浮竹はギリリと奥歯を噛み締めた。
「のことに関しては単なる暇潰しさ。
私が求めるものは一つ……高みを求めて」
「地に墜ちたか、藍染…!」
「…傲りが過ぎるぞ浮竹。最初から誰も天に立ってなどいない。
君も、僕も、神すらも。
だがその耐え難い天の座の空白も終わる。
これからは……
私が天に立つ。」
髪をかき上げ、外した眼鏡をその手で砕いた。
「さようなら、さようなら死神の諸君、そしてさようなら旅禍の少年。
人間にしては、君は実に面白かった。」
尸魂界から去って行くその姿を、死神たちはただ黙って見ていることしか出来なかった。
「十四郎…ごめ、なさ…い…」
浮竹の腕の中では意識を失った。
「…」
浮竹は大切に、大切にその存在を抱きしめた。
「…………」
もう立ち上がることさえ出来ない一護が、掠れた声でその名を呼んだ。
―の、の過去に何があったのか知らない。
けれど、が泣く姿を一護は今まで見たことがなかった。
―そのが泣いている。
何もしてやることの出来ない自分が悔しかった。
―あぁ自分たちは如何に無力か。
傷ついたモノ、失ったもモノはあまりにも多かった。
―何故……
今はその言葉を紡ぐことしかできない。
「浮竹……」
京楽がその側に歩み寄った。
「念のため…救護所に連れて行こうと思う…」
「ああ、そうした方がいい。卯ノ花隊長なら受け入れてくれるだろう。」
二人はコクリと頷き合う。
「あ、あの…待って下さい!」
そこへ織姫が慌てたように声をかけた。
「えっと、君は旅禍の…」
「はっはい、そうです!あの、ちゃ…さんは…?」
織姫の問いに二人は不思議な顔をした。
しかし、京楽はふと思い出したように声を上げた。
「あぁ、そういえば……そうだったね。
は大丈夫だよ。
念のため救護所に連れて行くけど、そこの隊長とは親しい間柄だし安心していい。」
織姫の肩を安心させるように優しく叩いた。
「…それじゃあ俺は先に行くよ。」
をもう一度抱え直すと、浮竹はその場からいなくなった。
そして京楽も、ゆっくりとその場を後にした。
「ちゃん…」
織姫はギュッと拳を握ると、その場から背を向け一護の元へと駆けた。
何も出来なかったと一度、後悔したからこそ、自分にできることをしよう。
そう思ったから―
―こうして、とても長かった一日にようやく幕が下りた。
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