ACT29:絆
轟音が鳴り響く荒野。京楽、浮竹、の三人のは依然として斬魄刀を握っていた。
幾度となく立ち向かい斬撃を放つ。
そしてそれが躱され反撃にされる前に次の者が斬りかかる。
それを何度も繰り返し、危ういところは退く。
―守るための戦い。
それを徹底的にやってのけていた。
「やれやれ…せっかくの色男が台無しだ」
京楽が疲れたように息を吐いた。
土埃に汚れた死伯装やこめかみから滴る血。
確かにあちこちボロボロの状態である。
しかしそれは京楽に限ったことではなく、浮竹・も似たり寄ったりな姿だ。
「……京楽」
「…まだまだ元気なようね。」
あまりにも緊張感のない言葉に、二人は飽きれて小さく溜め息をつく。
京楽のそれが、少しでも余裕に見せるための軽口だということはわかっているが…。
昔から何度も繰り返しているやりとりのため、ついつい口を挟んでしまう。
「…それにしても重國様の強さは相変わらず反則ね」
「同感。本当、昔から容赦ないよ…」
「おいおい…」
京楽を非難していた割に、も不満が溜まったのか愚痴を言い始めた。
唯一、浮竹だけが苦笑しつつも制止する。
「十四郎は昔から優等生過ぎ。こんな時くらい同意しないと」
今度は何故か浮竹に文句を言い始めた。
「優等生って…それほどではなかったと思うが…」
「うーん、僕も…学院時代分厚い猫被ってたには負けると思うけど。」
そんな京楽の余計な一言に、は口をわずかに引きつらせた。
「…何春水、嫌味?」
「お、落ち着け…!」
―先ほどまでのシリアスな雰囲気はどこへやら。
段々と会話が逸れていっていることに、本人たちは気付いていない。
「―ぺいっ!!」
―ビクリ!と元柳斎の一喝に三人は動きを止めた。
「進歩がないのぉ主ら…。自らの行動を精々後悔するがよい」
突き放すような視線と物言い。終いには遠回しにけなされる始末。
……当たっているので、反論できないのが痛い。
気まずい雰囲気に包まれる中…
「――……!!」
はハッとしてある方向を振り返った。
同じく京楽、浮竹も目を見開いてそちらを見る。
「一護……」
「驚いた…あの旅禍の少年…」
「一護が勝った…!!」
は京楽の言葉を遮って噛み締めるように言った。
「まさか隊長格が破れようとは…」
一方、元柳斎の表情は険しく歪む。
一護があの朽木白夜を倒した。その事実には触発されたように拳を握る。
「―こちらも負けていられないかな…」
―元来自分は負けず嫌いなのだ。
は決意したようにゆっくりと視線を元柳斎へと向けた。
「申し訳ございません重國様…」
は深々と頭を下げ謝罪した。
「今更謝もうても遅いわ!」
「いえ、そうではなく……」
怒鳴りつけてくる元柳斎にニコリとほほ笑み返した。
「私は、こんな所で阿呆みたくくたばっている暇なんてないんです。
ですから邪魔しないで下さい。」
きっぱりと言い放つに、もう迷いはなかった。
「、君昔より随分口が悪くなったね…」
「そうか?俺は全然気にならないぞ」
冷や汗を流す京楽を尻目に浮竹は変わらず笑顔だ。
「はいはい、そんな感想は必要ありません」
三人が揃うといつもこんな調子で、を吹っ切らせた要因の一つというのも、
このやりとりのおかげに他ならない。
「どうする京楽。が本気になったみたいだぞ?」
「そりゃぁ付き合うしかないじゃないか。僕たちに選択権は昔からないからねぇ」
―本当に、困った。と苦笑する京楽と『どうする?』などと
聞いておきながら、すでに心を決めていた浮竹。
二人は視線を交えると、当然とばかりにの両脇を固めた。
「二人とも……馬鹿よねぇ」
―何も言わずに消えたを普通に受け入れてしまっているのだから。
本来、責められても恨まれてもは文句の言えない立場である。
―彼らがそれをしないのは…
「今更、さ…」
―離隊と失踪。
その事実は彼らにとって何よりも衝撃的だった。
何も知らせられず、一方的に突き付けられた別れ。
変わらないと思っていた日々の崩壊、ふって沸いた空虚。
―この時、彼らははじめて隊長になったことを後悔した。
口では友などと言っておきながら、忙しさを理由に彼女の異変に気付けなかった自分を恥じた。
―あれから何年が経っただろうか。
ふとしたときに、幾度となく悩んだ。
それでも答えが出ることはなくて、結局…
『さようなら』
と言われていないのだから、彼女はいつか帰って来るのではないか。
という根拠のない結論に落ち着いた。
誰が聞いても明らかに自分を慰めるためのソレ。
―それでも、その可能性を信じたかった。
だから―
今目の前にいるが、こうして元気でいてくれることが嬉しかった。
もちろん聞きたいことは山程あるが、それはあとでゆっくり聞くこととしよう。
―お願いだから逃げるなよ。
その思いを胸に…
―双極の丘
奮戦の末、見事一護が勝利を治めた。
しかし、限界を超えたためかフラリとよろめき、一護は倒れそうになる。
―ゴチン!
「あいた!」
「………」
「ご…ごめんね黒崎くん大丈夫!?
あたし石頭でごめんね!!受け止めようとしたんだけど…」
「井上!?」
そこへ駆け付けたのは、少し離れた所からずっと戦いを見守っていた織姫たち。
「…何だ。血まみれの割には意外と元気そうじゃないか、黒崎」
「石田!チャド!!岩鷲!!誰だ!?」
「イヤ…いーっスゆ俺は無視してくれて」
再会の喜びからか、何とか気力が復活したようだ。
地面には倒れたままだが、その表情は穏やかだ。
「…みんな無事だったんだな…良かった…」
「無事ではないけどね。
君のやられっぷりに比べればみんな無傷みたいなもんさ。」
石田の嫌味な一言。
しかし、遠回しな気遣いが込められているのがとても彼らしい。
「…井上は?ケガ無えか…?」
「え?あ…あたし!?あたしなんて全然!!あたしなんて全然役に立ってないに。
石田くんが守ってくれたり他の死神さんが守ってくれたりして!
更木さんがおんぶしてくれたりして!
だから全然…全然危なくなんかなくて…ただ…
…ただ黒崎くんのことが…ずっと心配だっただけで…」
そう言う織姫の瞳には涙が溜まっていた。
「ごめんね黒崎くん…守ってあげられなくて…
ありがとう黒崎くん…生きててくれて…
黒崎くんが…無事でよかった…」
―こんなにも心配されてたのかと驚く半面、
勝つことができて…生きてて良かったと心から思えた。
「…ありがとう…井上……」
「―そういえば黒崎、さんは…?」
応急処置を受けている一護に、ふと石田が聞いた。
「?…あぁ悪ィ、途中までは確かにここに居たんだけど…」
先に朽木白夜と戦いを始めてしまっていた一護は残念ながら
そちらに気を配っている余裕がなかった。
「ちゃん…」
織姫の表情が不安気に歪んだ。
「…なら大丈夫だきっと。」
「え…?」
「根拠はねぇんだけどさ…あいつはきっと負けない」
「黒崎…」
―『手を出すな』
と言わんばかりに、不敵に笑ったを一護はただ信じていた。
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