―さぁ、行こう
ACT28:刃を抜け
向かう先はただ一つ。
―それは過去から現在を紡ぐために。
荒れ果てた野。
一見、何の変哲もの無い殺風景な所だが、しかし。
現在、非常に危険な場所となろうとしていた。
が向かう先は、その、今まさに戦いが始まろうとしている場所だ。
危険だということはもちろん百も承知だが、
何しろそこに居るはずの人々に用事があるのだから、それを顧みている余裕などない。
霊圧の中心に近づくにつれて、心臓はドキドキと脈を速めていく。
しかし足は鉛の重りを付けているかのように重い。
―たまらなく…怖いのだ。
誰よりも尊敬する義父の口から、否定、失望、拒絶などの言葉が放たれるるのが。
―何を今更、とも思う。
だけれど、どこかで何かを期待する気持ちがあるのだ。
―『愚か者』
そんな言葉にさえ懐かしさを覚えた。
色々なことを含めて…。
ただ、思いが交錯する―
は彼らをようやく視界に捕らえた。
そして、懐かしい声が耳に届く。
「…女に弱く振舞いは軽薄じゃが、
思慮深く誰よりも真実を見通すことに長けておった春水。
体は弱いが寛厚で人望厚く、常に皆の中心にあった十四郎。
そしてここには居らぬが…人付き合いが苦手で問題を起こしがちだが、
誰よりも学ぶことに対し貪欲で鍛練に真摯であった。
思えば昔から、おぬしら三人の力は飛び抜けとった。
ひとたび戦いとなれば、その力たるや超軼絶塵。
同輩にも先達にも並ぶ者無し。
おぬしら二人は力を磨き、儂自らが創った学院からの初めての隊長となった。
自慢じゃった、我が子の様に。
信じとった、意気は違えど歩む道は同じであると。
―痛恨なり 」
はその言葉に、わずかだが躊躇した。
痛いほど、その思いが伝わって来たからだ。
―けれど、それを止めないわけにはいかない。
二人が戦うことを望んでいるわけがないからだ。
―そう、掛け違えただけ。
まだ収拾が付かなくなる前だ。
―自分が行っても何も変わらないかもしれない。
けれど、大切な人たちが傷つけ合うのを黙って見ていられるほど、
自分の現状を割切っているわけではないのだ。
それをただ静観しなければ得られない平穏など、欲しくもない。
―もう、後悔はしない。
利き足にグッと力を込め思いっきり踏込んだ。
その勢いではその場に割り込む。
「君は…」
「さっきの…」
の登場に反応を見せたのは京楽・浮竹の二人。
さすがに元柳斎は自分たちの所へ急速に近付いて来る霊圧に気付いていたようだ。
反応らしい反応は、片眉をわずかに持ち上げたのみ。
しかしは元柳斎に怯むことなく、ただ真っ直ぐに見据えていた。
わずかに滲み出ている霊圧からでも、その圧倒的なまでの強さが嫌でも分かる。
そんな山本元柳斎重國を前に、護廷十三隊に所属する死神たちの内、
何人くらいがこうして毅然と立っていられるだろうか。
「お主は……」
愛弟子への怒りからか、双極の丘では後から駆け付けて来たの存在を
あまり気に止めていなかったようだ。
―当然だろう。
遠目だったこともあるにはあるが、同じ旅禍の一護と比べると見るからに劣る霊圧。
取るに足らない存在として認知したに違いない。
―無論、はそれが狙いだった。
しかし現在、突如としてこの場に現れ、元柳斎の霊圧をものともせず、
真っ直ぐに伸ばされた背筋と凛とした姿。
そしてその霊圧に内在するわずかな違和感。
それを間近でそれを目の当たりにした元柳斎は目を見開いた。
「今まで何処に居ったのか…。
久々に名を呼んだせいかのぉ?まさか主まで事に荷担しておろうとは…」
その声色は、怒りよりも哀しさを帯びているようだった。
「お久しぶりです、重國様…」
はただ深々と頭を下げた。
「その姿は如何ようか?儂の記憶が正しければ…拾うた頃の主を思い出す。」
「…はい、この姿はお言葉の通り16になります。」
そう言いながら、は胸元から首飾りを取り出し首から外した。
すると眩い光がを覆う。
「―このような形で再会の誓いを果たすこと、どうかお許し下さい。」
金色の長い髪がさらさらと風に揺れた。
「―っ!!」
「……」
浮竹と京楽がその名を呼ぶ。
「変わらぬのぉ…」
「重國様こそ…」
それは養親と養子の束の間ともいえる懐古。
最後に顔を合わせてから、一体どれほどの年月が流れただろうか。
姿形は変わらない。けれど何かが擦れ違ってしまっている…
「二人に多少遅れはしたが、学院初の女隊長に就任。
事情により離隊…しばらくして消息不明。
問質したいことは山程あるが…よ。
今度の件、いくら主と言えど弁解は訊かぬ。」
元柳斎の杖が斬魄刀へと変わり、今、目の前で鞘から抜かれた。
「―何も言うな。最早問答は埒も無し。抜け」
研ぎ澄まされた鋭い目が、明確に拒絶の意を示す。
の表情は悲哀を帯び、苦しげに歪む。
すると痺れを切らしてか、間を置かず抜き身の刀が3人を襲った。
「―!」
「―っ…!」
急いで後ろへ、二人の隣りへ並ぶように跳んだ。
「…どういうつもりじゃ、おぬしら」
元柳斎の鋭い眼光が3人に向けられる。
「斬魄刀も解放せずにこの儂と戦う気か?」
その視線はどこまでも冷たい。
「…どうしても戦わなくちゃダメなのかい、山じい…」
京楽が困ったように言った。
「黙れ、教えた筈じゃ。正義をゆるがせにする者を儂は許さぬ、と」
「自分の正義を貫けと教えてくれたのもあんたさ、山じい」
「何のための正義か、守るべき大切なモノを教えてくれたのもあなたです、重國様…」
「その為に力をつけろと教えてくれたのも貴方です、先生…!」
三人が必死に元柳斎に訴える。しかし…
「戯けるな。世界の正義を蔑ろにしてまで、通すべき己の正義などない。」
三人の言葉を一蹴し、彼は聞く耳を持たない。
「ならば世界の正義とは何ですか、元柳斎先生!」
浮竹がやり切れない声で叫んだ。
「…聞き分けがないのう…言うたじゃろ。問答は終いじゃ…いくぞ」
白い羽織がゆっくりと宙を舞う。
―誰も、それを望んでなどいないのに。
「万象一切灰燼と為せ『流刃若火』」
凄まじい熱気が斬魄刀から沸き上がり、辺りに立ち込める。
―何時以来だろう…その姿を目にするのは。
3人が同じく感じるソレは深く重い畏怖の感情。
隊長となってから、久しく感じることなどなかったソレ。
―全斬魄刀中、最高の攻撃力を誇る炎熱系最強最古の斬魄刀…
『流刃若火』
始解にしてその圧倒的なまでの強さが身に染みるようにわかる。
は震えそうになる身体を諌めるように、グッと奥歯を噛締めた。
「おぬしらも早う刀を解かんか。抗いもせず、灰となるのを潔しとは思うまい」
「…仕方ないね。」
京楽は早々に諦めたようだった。
―それも当然だろう。
始解をした元柳斎を相手に、斬魄刀無しに戦うなど自殺行為だ。
死んでしまっては、話し合うことすら出来ない。
先ほどから浮竹が、に何かを訴えるような視線を向けていたが、
それに構っている暇さえなくなってしまった。
「…言いたいことはお互い沢山あるだろうけど、今は我慢だ。」
京楽が真剣な声で言った。
「―いくかァ浮竹」
「…ああ」
「もいいかい?」
「ええ…」
三人が一斉に斬魄刀に手を掛けた。
「波悉く我が盾となれ、雷悉く我が刃となれ!『双魚理』」
「花風みだれて花神啼き、天風みだれて天魔嗤う『花天狂骨』」
「月霞む天に嘶け『』」
その場の霊圧が一気に跳ね上がった。
―尸魂界全土にただ二つのみ、二刀一対の斬魄刀『双魚理』と『花天狂骨』
―銀色に輝く薙刀型、流水系と氷雪系の能力を合わせ持つ特異な斬魄刀『』
見るのも久しいそれらが整然と横一列に並んだ。
心なしか、元柳斎の目がどこか愉快そうに細められた。
「…変わっとらんのう昔と」
「…そいつはどうも」
「…覚悟は良いのか」
「何時でも」
「…いくぞ」
「…はい」
そして四人が一斉に動いた。
―信念を貫くための戦い。
こうして刀を交える日が来るとは…誰も予想してはいなかっただろう。
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