ACT27:向合う視線






阿散井がルキアを抱えて走り出したところで、一・二・四番隊の副隊長がこちらに迫ってきた。



はちらりと一護に視線をやり…

―手、出さないでね?という意味を込めて不敵に笑った。



「―三人がかりでも足りないよ?」



銀色の髪を靡かせ、も瞬時にそちらへと駆け出した。



「一番隊副隊長・雀部長次郎、二番隊副隊長・大前田希千代、……四番隊副隊長・虎徹勇音」



その名をまるで確認作業のように呼びながら、斬魄刀も使わず次々と一撃で沈めていく。


ただ、勇音に関してはの良心がわずかに痛んだため、

多少なりとも手加減がしてあったけれど。


その的確かつ素早く放たれる一撃一撃は、間違いなく副隊長が躱せる代物ではない。



「―うん…?」



素早く移動してくる気配を感じ、はそちらを何気なく振り替える。



「―六番隊隊長・朽木白夜―」



繰り出された斬撃を、受け止めることなくスラリと躱す。



「―貴様、何者だ?」



鋭い視線がを捕らえていた。



「何者でもいいんじゃない?

 そんな事実、朽木家の坊ちゃんにはどうでもいいことでしょう?」



張り詰めた雰囲気とは裏腹に、はカラカラと笑った。



「それにさ。刃を向ける相手、間違ってるよ?」



その言葉とともに、は一歩後ろへと下がった。



―そしてそれに寸分の狂いもないタイミングで



彼、朽木白夜の元へ 躊躇なく攻撃を仕掛けた者がいた。



―ガキンッ…!!



金属のぶつかり合う音が、その場に鋭く響き渡る。



「―黒崎一護……」


「はっ!よそ見すんなよ!」



そう言って、一撃、二撃と二人は刀を交えていく。



「…何故だ。何故貴様は…何度もルキアを助けようとする……」



「…こっちが訊きてえよ。あんたはルキアの兄貴だろ。

 なんであんたはルキアを助けねえんだ!」



その一護の叱咤は、の耳にも届いた。



『…俺は兄貴だから。妹を守るのは当たり前だろう?』



―それが一護の持論だから。



「―朽木白夜は一護に任せて大丈夫。あとは……」



の視線の先、そこには二番隊隊長である砕蜂がいる。



「あの人は遅刻、かなぁ…?」



溜め息混じりに、は一歩前へと踏み出した。



浮竹と共に駆け込んで来た、十三番隊・三席の二人。

そのうちの女の方が、倒れている副隊長の元へ駆け寄ろうとした。



「―あぁ、もう……!」



―状況というものを少しは考えて欲しい。



今、何かしらの行動を起こせば、この場にいる隊長格の標的となる。

それが目に見えてわかっているというのに。



止めようとしていた男の方があっという間に吹き飛ばされた。

浮竹が砕蜂へ、静止の声を放って駆け寄ろうとする。



しかしそれは、総隊長である山本元柳斎の手によって阻まれた。



―重國様……



それを見ていたはわずかに唇をかんだ。



―しかし感傷に浸っている暇はないのだと、自分に活を入れすぐさま駆け出す。







「―弱い者イジメは良くないですよ。砕蜂隊長?」



砕蜂の攻撃を食らって倒れた彼女を庇い、その足蹴りを素早く弾いた。

不意打ちとはいえ、攻撃を弾かれた砕蜂は不愉快そうに舌打ちする。



「―清音!」



少し離れたところから、浮竹の声が聞こえた。



部下思いな彼のことだ。

きっと彼女のことを相当心配しているのだろう。



様子が気になって、ちらりとそちらを見てみれば、

同じくそこにいた八番隊隊長の京楽春水と目が合った。



それには、思いがけず固まってしまう。



―春、水……。



口がそう無意識に動いた。



―彼は気付いたのだろうか?



一瞬、目を丸くしたように見えた。



―うーん…バレちゃったかなぁ……



ずば抜けて勘がいい彼のことだ。

見た目が多少幼くともが『誰』なのか気付いてしまいそうだ。



こちらに向かって一瞬、ほほ笑んだかと思うと…



「よォし仕方ない!!それじゃ、いっちょ逃げるとしようか浮竹!!!」


「な……」



浮竹の肩をガシリと掴み、勢いよく双極の丘の絶壁を飛び降りた。



「…春水…」



それを同じくして、山本元柳斎の気配も丘から消えた。











―あぁ……



それは偶然、だった。

当初の予定では八割の確率で、山本元柳斎の相手はがする算段でいた。



けれど、彼ら二人が処刑阻止に加わることによって、今、

その役目が確実な形で彼の愛弟子である二人へと移った。



―思えば、昔からいつもそうだった。



が辛いと思ったことを意図せず、あっさりと引き受けてくれるのだ。

今回も、彼らはいつの間にかの役目を、何も言わずにかっさらっていってしまった。



―どうしてなのだろう。



京楽はその思慮深さから。

浮竹はありのままの自然体から。



彼らに感謝してもし足りないほどの思いがにはあった。



そして…総隊長である山本元柳斎重國にも。



幼い頃、は死神であった両親を亡くした。



頼る当てもなく、流魂街を這いずり回っていた所を、

わざわざ部下の娘だったという理由だけで捜し出し、保護。

養女にし、死神にまでしてくれた人。



―恩を感じないわけがない。



はそんな彼らが変わらず好きだと、この尸魂界を再び訪れることで気付いた。













―だから……。



がぐったりとしている清音を抱えながら、

砕蜂からひたすら攻撃を躱しつつ距離をとっていると……



「―来た。」



待っていた人物の気配に、は口端を持ち上げた。



「貴様何を笑って…!」



距離を急激に詰めて来ていた砕蜂は、言いかけてハッとした。

物凄いスピードで自分に迫って来る気配に気付いたのだ。



慌てて体勢を整えようとしたが、時すでに遅く、彼女は空中に投げ出されていた。



「―さて、あとは…」



砕蜂を夜一が連れて行き、この場に残った者の大半が怪我人だけとなった。



少し離れたところでは、一護と朽木白夜の激しい攻防戦。

早く移動させた方がいいと、が視線を向けた先には四番隊隊長・卯ノ花烈がいた。



「…卯ノ花隊長、そのお力を少しお借りしてもよろしいですか?」



のその言葉に、卯ノ花はゆっくりと頷いた。



「えぇ、構いません。

 私も今から向かいたい所ができましたので、救護所までお運びしましょう。」



あっさりと了承してくれたことに、は小さく安堵する。



「助かります。」



「礼など要りません。

 この場に倒れているのは護廷十三隊の者ばかり…

 私たち四番隊が治療するのは当然のことです。


 ―それよりも、さん…いえ……『あなた』は……」



「―あぁ、やっぱり気付いていましたか?」



は卯ノ花を見つめたまま、曖昧に笑った。



「では、やはり……」


「見た目はかなり幼いですが、間違いなく私です。」



銀髪を示しながら、もう一度笑い返した。



「それでは尚更、ですね。

 私はあなたの頼みを、昔から断れません。どうぞお任せ下さい」



「ありがとう…烈」



「いいえ、何があろうと『お友達』ですとあの時、約束いたしましたから。

 当然のことです。」



―まだ『友達』と、彼女は呼んでくれるのか。



は胸が詰まった。



「れつ…」


「これが終わったら、一緒にお茶をいたしましょうね?」



「っ………」



―ここに帰って来ることはもうないだろう。



それが頭に過ぎり、は咄嗟に背を向けた。



その返事を返すことへの拒否を示したのだ。





「私は、私たちは、いつまでも待っています……さん…」





―嘘でも…『うん』と頷くことが、この時のには出来なかった。














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