ACT24:愛しき人へ






「へぇ…友達、ね。」



沈黙を破ったのは、十一番隊第五席の綾瀬川弓親だった。

何か含むように言ったかと思うと、を品定めするようにジロジロと見てきた。



「……それが何か?」



―このオカッパめ……。



も、内心では悪態をつくものの、決して表には出さない。



「僕、君のこと知ってるよ。四番隊の永久平隊員だろ?

 あまりにも美しくない話だから、逆に印象強くてね。」



その言葉に、部屋にいた数名が反応を見せた。



「あぁ?少し前に噂になってた奴か?『四番隊の中でも最弱候補』とかいわれてた…」



斑目が片眉を上げて問うた。



「そっ。でも実は、席官を倒せるほどの実力を隠し持ってた…とか。

 事実、倒された席官が居るみたいだけど真相は闇の中……なかなか面白いだろう?」



綾瀬川にそう言われても、は全く面白くない。

むしろかなり心外だ。

ちなみに正面にいる更木は、まったく興味が無さそうだったが。



「―…第一、現世の存在である彼女と、死神である君がどうやって知り合ったのか。

 事と次第によっては……」



「少し、黙りやがれ」



更木が面倒臭そうに口を開いた。



「テメェも一護の仲間。それに間違いがなければ何でもいい。」


「―間違いなんてあるわけないですよ。」



その言葉に、はニヤリと口端を上げた。



―純粋に強さを求めるがゆえ…か。



理屈ではなく、本能で動く人種だ。

そんな更木のことを、は嫌いではなかった。



「フン…面白ぇ……」



そう言った更木の肩に乗っているやちるも、どこか楽しげな表情をしていた。



「私のことは、今話さずともいずれわかります。

 貴方がたを害すつもりは全くない。それは私という存在に懸けて、保証します。」



綾瀬川を見据えては言い切った。



「いずれ…ね。」


「はい、いずれ……」



その言葉に、綾瀬川も納得したらしい。

いや、正しくはこれから徹底的に観察する側に回るのだろう。


面白い玩具を見つけた子供のような、好奇心に溢れた表情をしていた。

























―その晩……



は大きな霊圧の衝突を感じていた。



「……冬、獅郎?」



―間違いない、誰かと戦っている…。



嫌な予感がし、は無意識の内に隊舎を飛び出していた。



「一体誰が……!」



不安は募る一方で……








―たどり着いた先。



そこには日番谷以外にも4名ほど、人影があった。


それはもよく知る人物で…



「…乱菊…ギン……、桃…」



元部下とその幼馴染み。

家族だった女の子。


そしてもう一人は三番隊副隊長、吉良イヅル。



―これは一体、どういう……。



この場を去ったギンと吉良。

その一点を…睨み付ける冬獅郎と、悲しそうに見つめる乱菊。

倒れている桃……。



頭は混乱するばかりだった。



―しかし今は、軽率な行動で自分が怪しまれるわけにはいかない。



ここに来た時点で、十分軽率ではあったが……

今日、十一番隊で取り付けた約束を無駄にするわけにはいかないのだ。



倒れている桃を抱え、移動を始めた二人に気付かれないよう、はそっとその場を離れた。




























―眠れない



懐かしい顔を見たせいだろうか。

無償に“彼”に会いたくなった。











―十三番隊・隊主室『雨乾堂』



「―……やるしかないな。」


「―何を?」



浮竹は、突然聞こえた声に勢いよく振り向いた。



「今日は、随分と無理したみたいね……。顔色が良くないわ。」



月明りに照らされ、浮き上がって来た姿。

それは女性特有の曲線を明確にし、薄い色素を持つ髪を一層輝かせた。



「―……これは、夢か…?」



浮竹が震える声で尋ねた。



「うん、そうだよ……これは夢。

 だから頬を抓って覚醒するなんて邪推なこと…しないで、ね?」



はゆっくりと歩み寄ると、浮竹の隣りに座った。



「…そんなこと、できるわけないさ。俺は、お前に…に、ずっと……」


「―それ以上は言わないで。」


……?」



浮竹の頬に手を当て、目をジッと見つめた。



「たとえ夢でも、会うのはきっとこれが最後だから……」


「っどうしてだ!?俺は……!!」



「好きだよ…愛してる。そんな言葉じゃ足りないくらいに――

 だから側には居られない……ごめんね。」



「嫌だ!君はまた…!!また…俺の側から、居なくなるのか……?」



「私が居なくても……十四郎には、慕ってくれる人たちが沢山…居るでしょう?」


「お前の代わりなんて、居るわけがないだろう…!?」



「フフッ…十四郎は変わらないね。そう言ってくれるだけで、私は十分…だよ?」



―不覚にも、泣きそうになってしまった。



「ダメなんだ…、君でなくては。頼むから…」



の決意も、覚悟も、今一瞬の内に、崩れてしまいそうだった。


だから、本当は、一生明かすつもりなどなかったことを口にしてしまった。



「……最後だから…最後だから、特別に、教えてあげるわ。」


「…何を…」



「―子供が、できたの。」



「こ…ども…?」


「そう、十四郎と私の……」



浮竹の顔が目を真ん丸に見開いた状態のまま、静止した。



「あの頃の私は…余裕がなかったの。みんな温かくて、優しかった。


 けれど、それが重かった…。


 隊長という名の重圧、女ということに対して蔑み、流魂街出身への批判、

 重國様の名に恥じぬ振舞い…。


 中傷・批判よりも、みんなの期待に応えられているか、不安でしかたがなかった。

 子供が出来たときは、もう、逃げることしか頭になかったの。」



その声は絞り出されたように掠れていた。



「俺は…何も……何も、してやれなかったのか…?」



「そうじゃない。私が、私が気付けなかったの。

 大切なモノを見失って、一人閉じこもって、呆れるくらい臆病だった。

 誰も傷付けない方法を選んだつもりが、それが実は自分が一番傷付かない方法で、

 それで満足していたのよ…。


 だからきっとあれは、天罰だった。」



「……



「こんな女、さっさと見限った方が正解だよ?

 十四郎には、可愛らしくて、真っ直ぐな女の子の方が似合ってる。」



「それは……」



「子供のことは、心配しないで。

 私も大して一緒には居て上げられなかったけど、あの子は今、しっかり一人で歩いているもの。」



「名前、は……」



「『とうしろう』それ以上は教えない。

 父親については何も話してはいないから、安心して…」



はおもむろに立上がり、浮竹に背を向けた。



「…夢の時間も、もう…お終い……」


「……



ふわりと、は浮竹に後ろから抱き締められた。





「―結婚しよう。」




突然の言葉に、は固まった。



―今、自分が何を言われたのか、わからなかった。



「責任をとるとか、もちろんそう言うのじゃない。俺はが好きだ。

 だから俺と一生、一緒にいてくれ……」



―何を言っているのだろう、この人は。



私が先ほど、別れを告げたのを、聞いていなかったのだろうか。



それは現在大きく高鳴る鼓動とはあまりにも裏腹で……。



「そうだ!一人っ子じゃ寂しいだろうから、兄弟も作ろうな?」



ついには家族設計まで立て始めた。


ハッと現状を思い出したは、身体を反転させ、浮竹の胸板をつっぱねた。



「何っ、考えて……!!」


「あぁ、そうか…これは夢、だったな。うーん、俺、何やってるんだろうなぁ……」



その言葉に、今度は胸がズキリと傷んだ。



「まぁ、本番前の予行演習だな。夢とはいえを前にするとやっぱり緊張するしなー…」



―お願いだから、もう……



「夢でも現実でも俺の気持ちは変わらない。いつか、探し出してみせるからな?」



―これ以上は……



「愛してる、……」



そして唇に柔らかい感触が降りてきた。



―……十四郎……。



時間にしてみればそれは、ほんの一時だった。



しかし、今の二人にはそれで十分だったのだ。



の目からは一筋の涙がこぼれ落ちる。



「私も……」



の口がそう動いたのを見届けると、そこで浮竹の意識は途切れた。







―私は、その言葉を聞けただけで……幸せだよ。














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