ACT22:救う






はあちこちで霊圧の衝突を感じていた。



―しかしまだ、助けに行くことはできない。



にはやるべきことがある。


先ほど、三番隊の隊長・副隊長がやってきて、

重傷を負った六番隊副隊長・阿散井恋次の治療を頼まれた。



―何故、三番隊なのか。



普通ならば直属の上司である六番隊隊長・朽木白夜が来るはずだが…。


彼が部下を目の前にして、何と言ったかは容易に想像がついたため、

そこはあえて考えるのをやめた。


それより気になるのは――



市丸 ギン



……いや、は、彼を知っていた。


昔、隊長をやっていた頃、まだ平隊員ではあったが、乱菊を通じても顔見知りであった。



―飄々とした性格は、何一つ変わってはいないようであったが…。



あの目は何か企んでいるような、そんな怪しげな色を孕んでいた。


昔から何を考えているのかわからない節はあったが、

これほどまでに影を落としてはいなかったはずだ。



―彼に一体、何が……?



はこの時、言い知れぬ胸騒ぎを覚えた。


























―そして、それは現実のモノとなった。



翌日の昼頃…



四番隊宿舎に集められた数名の隊員たちに、驚くべきことが伝えられた。



「―三番隊並びに五番隊、両副隊長が牢にて拘置となりました。そのお世話を頼みます。」


「―さんは、現在同じく拘置中の六番隊、阿散井副隊長をお願いします。」



「はい」



隊長の卯ノ花から、直々に指示を下された。



「本当ならば、山田七席と共に頼みたいところなのですが……」



その言葉の後に続く内容は、言われなくともわかる。

はただ、無言で頷いた。


















「失礼しまーす。」



先程、看守にも声をかけ、は中へと入った。



―六番隊・拘禁牢



「―隔離せよ。」



首の珠をまた一つ割り、この空間を隔離した。

といっても、看守側にはちゃんと治療している様子は見えるため、問題はない。



―話し声さえ隔離できればよいのだから。



「―怪我の具合はどうですか?」



は阿散井の顔を覗き込んだ。



「お前、どっかで見たこと……」


「―あぁ!そう言えばルキアの牢で会いましたね。」



軽く、偶然を装ってみた。



「……あいつと、仲良いのか?」



「まぁそれなりに。下の名前で呼び合うくらいには。

 ……あ、嫉妬はしないで下さいね?貴方ほどではないですから」



は楽しそうに笑う。



「……お前、変な奴だな。」


「あはは、何故かよく言われます。

 四番隊のです。一応はじめまして、阿散井副隊長。」



包帯を外しつつ、改めて自己紹介をする。



「あ、あぁ…俺は……」


「クスクス、ちゃんと知ってますよ。六番隊の副隊長さん」



―天然なんだろうか?



は面白そうに阿散井を見た。



「ルキアの幼馴染で同期、でしたよね?」



のその言葉に、阿散井は少々驚いたようにを見た。



「…あいつ、そんなことまで話したのか?」


「いいえ、話してないですよ?」



ニヤリと、は口端を持ち上げる。

すると、ハッとしたように彼の眉間に皺が寄った。



「……っテメェ、一体…!」


「あぁ、まだ動かないで下さいね。

 傷口、開きますから……全く、一護も容赦ないですよねー?」



半ば呆れながら治療しつつ、当の阿散井を見れば、彼は目を丸くしてを凝視していた。



「一護……だと?」


「あ、名前知ってたんですか?」


「黒崎、一護……あのオレンジ頭の…」


「そうそれ!蜜柑色の苺ちゃんです!

 これで話がしやすくなりましたねー。あ、ちなみに戦ってみてどうでした?」



の問いに、阿散井は警戒心を露にした。



「……テメェ何者だ。」


ですって。さっきも言いましたよね?」


「っざけんな!」


「ふざけてませんよ。」



は表情をムッとさせた。



「――いいですか?

 私が何のためにここに治療しに来たと思ってるんです?

 そりゃぁ今回のこの治療は隊長の命令ですけど。

 それもこれも、今の私の行動はすべてルキア救出のためですよ。


 一護との関係とかは話せば長くなるんで、また後で話しますが、

 貴方の存在はルキア救出に欠かせないんです。

 私が全力で治すので、大人しくさっさと治されて下さい。」



完璧口調がモードのは、キレた阿散井をあっという間に畳み掛けた。



「……何で、俺がルキアを助けに行くって…」


「あ、ごめんなさい。貴方が斬魄刀と話してるの聞いてました。」



あっさりとネタばらしをするに、阿散井も一瞬呆然としてしまう。



「……そうかよ。」


「はい。なので私が良いと言うまでおとなしく治療されてて下さいね。」



コクリと頷くのを確認すると、はほほ笑み返した。



―阿散井の方は、とりあえずこれでいいかな。



は次にやるべきことを考えた。

































―阿散井の治療を終えた次の日



「今日は特に霊圧のぶつかり方が、酷い……」



はポツリと呟いた。



「これは……」



―……間違いなく一護だ。



それと、これは確か十一番隊隊長の更木。

この二人がぶつかっているのか…。と、は眉間に皺を寄せた。



そしてまた別のところでは、チャド。

対するのは……

微かではあるが、この霊圧は……



「春水……」



誰にも聞こえないほど小さな声でその名を呼んだ。


こちらに戻ってきてからはまだ、一度もその顔を見ていない。

しかしたった二年と少しとはいえ、この姿形は着実にへと近付いているのだ。

バレるのも時間の問題かもしれない。


そう物思いに耽っていた矢先。



「っ!?……消え…た…?」



―他の霊圧と比べて、はっきりと、力強いくらいしっかり感じていたチャドの霊圧が、

 急に途絶えた。



「―っいや!まだ、本当に微かに……」



―相手はあの春水。



どうやっても勝つのは無理だろう、ということは、

二人の霊圧が近付きはじめたあたりからわかっていたことだ。


しかし、いくら旅禍とはいえすぐ殺すことはない、とは踏んでいた。

それはが信頼を寄せる旧友の一人、京楽春水。

その人となりをよく知っているからこそ、だ。



―そして、救護室で先ほど耳にした……



『五番隊隊長・藍染惣右介の死』



聞いたときは自分の耳を疑ったが、どうやら間違いないようだ。


『殺害』による死。


明らかな他者の手による沈黙。



各隊長格への通達は、現在、裏挺隊が駆け回っているようだ。



ともかく、現段階でこの真相を解明するには、旅禍の存在が不可欠。



―こんなことになるとは、思ってもみなかったけれど……。



死んでしまった藍染には、かける言葉も見つからない。

昔からの顔馴染みだっただけに、助けられなかったことだけが悔やまれた。



―ごめん……藍染。



殺害現場や死亡時刻などの、詳しい情報は聞き及んではいないが、

その壁にはべっとりと血が付いていたらしい。



「一体誰が……」



ただの平隊員であるには、検討もつかない。



―藍染は決して恨まれるような人物ではなかったから…。



喪失感がを襲う。


けれど、今のには立ち止まっている暇など無い。

感傷に浸る暇さえ惜しいのだ。


とても酷い言い方だが、これでまず、そう簡単に殺される可能性が無くなったことだけは言える。

重要参考人、としてより確実な命の保証が出来上がったのだ。



様々な感情が交錯する中、は不安定な精神を何とか落ち着かせ、

今度は一護の方へ意識をやった。



「『更木』『剣八』か……」



―『更木』北流魂街80地区。

最も深い闇の底…



―『剣八』

代々護廷十三隊で最も戦いを好み、最も多くの敵を殺してきた者に与えられる通り名…。

その意味は『幾度斬り殺されても、絶対に倒れない』



―二人の霊圧が消えた。



それと同時には卯ノ花の元へと詰め寄った。



「―隊長!」


「……えぇ、わかっています。しかし現在、他の隊員たちは手が空きません。

 緊急を要するため、私と勇音が出ましょう。

 しかし、もう少し準備に時間がかかります。

 阿散井副隊長を治療したばかりで疲れているとは思いますが…

 さん、先に行ってくれますね?」


「―はい!」



は一礼するとすぐさまその現場へと走った。



「っ……二人とも霊圧が弱々しい!」



誰もいないことをいいことに、は平隊員にはありえない速度で走っていた。


本当なら瞬歩を使いたいところだが、さすがにそれはまずい。

歯を食いしばりながら、疼く手足を押さえつつようやくその場所が見えて来た。


と、一瞬…黒い影がの前を過ぎる。



「―…夜一さん」


「遅くなってすまなかったの、。一護は儂にまかせろ。」


「……お願いします。」



深々と頭を下げ、は更木の元へと向かった。



―今、一護が捕まるわけにはいかないのだ。



にできることは、ない。

せめて、怪我の具合だけでもみたかったが……

夜一に任せておけば大丈夫だと言い聞かせるしかなかった。



そしてもう一人の重傷者……



「―っ容体は!?」



が駆けつけた先、大きな身体が横たわるそこは、血で赤く染まっていた。

隣りには副隊長の草鹿やちる。

血の気が引いたように顔は青白かった。



「……剣ちゃん…」


「草鹿副隊長!」



―ダメだ……聞こえていない。



茫然自失とした表情は、この子にとって彼がどれだけ大切な存在なのかがうかがえた。



「っ貴女が、しっかりしなくてどうするんですか!私が今から治療に入ります!

 もうすぐ卯ノ花隊長も来てくれます!絶対に助けてみせますから!!

 それまで貴女が彼をこちら側に引き止めてください!!」



その言葉が届いたのか、目に、光が戻ってきた。



「そこでしっかり見ていて下さいね?」


「う、ん……」



―失わせるものか。



やちるの姿が、あの子や、昔の一護を思い出させた。



―絶対に死なせない。



それは、助けられなかった真咲や、藍染への償いだったのかもしれない。














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