ACT21:開宴
―しばらくして…・・・
「……話がちょっと切れたり飛んだりして分かり辛かったかもしれないけど、
同一人物だってことは理解してもらえたかな?」
はぐるリとと全員を見渡した。
「―時間もそんなに無いしね、私の話はとりあえずここでお終い!
あとは夜一さんの突入の心得をじっくり聞いてよー。それじゃっ!」
勢いよく立上がると、は一護たちに背を向けた。
「―えっ!?あっ!ちゃん!ちょっ、ちょっと待って!!どこに行くの?」
織姫が慌てて呼び止めると、がピタリと立ち止まった。
「……どこにって?それはまぁ当然、瀞霊廷に戻るんだけど……」
キョトンとした顔で織姫を見返した。
「一緒には行けないの……?」
どこか不安そうな表情で、を伺うように織姫が見上げた。
「一緒に、か……。
そうだね、行きたいのは山々なんだけど…。
これでも一応護挺十三隊の一員だから。
一緒にいる所を見られたらちょーっと不味いかなぁ……」
「そっか…」
「ごめんね?織姫。
まだ少し調べたいことが少しあってね、
今、怪しまれて身動きがとれなくなるわけにはいかないんだ。」
は一瞬、何かに思いを馳せるような顔をした。
それを見逃さなかった織姫は、かすかに息を呑む。
「……ううん、私の方こそごめんね!我儘言っちゃって…」
「そんなことないよ。
元々、調べ終えたらそっちに合流するつもりだったし。その時はよろしく頼むね!」
そう言ってさっと空鶴と夜一に目配せすると、は足早にその場を去って行った。
一同は、それを黙って静かに見送る。
「―……あいつ、何をあんなに急いでるんだ?」
ふと、一護が不思議そうに口を開いた。
「さぁ…?でもさんは平とはいえ護挺十三隊所属の死神なわけだし、
僕たちとは別に、色々とやることがあるんじゃないか?」
「へぇー…あいつも大変なんだなー」
「ムッ…」
そんな一護と石田の会話に、茶渡も頷く。
しかし、織姫だけは未だ、どこか不安そうだった。
―そう、彼らは気付いていない。
が急いだ、本当の理由を。
―今回話した事実は、彼女が歩んできた物語の、まだほんの一部。
もうすぐ……
―狂った歯車が、壊れる。
―瀞霊挺内
瀞霊挺に戻ったはある建物の屋根の上に居た。
空鶴に出て来る前に聞いておいた予定の時間だと、もうそろそろのはずだ。
「ここからが一番見やすいはず……」
は軽い物見遊山気分で、体育座りをしつつ待ち構えていた。
そしてゆっくりと顔を上げ、空を仰いだ。
「―あ、来た。」
瀞霊挺を覆う霊壁の一ヵ所。
そこへ急速に光る球体が近づいて来る。
「さすが空鶴、ぴったし。」
その言葉と同時に、球体が勢いよく霊壁に衝突した。
「おー!……って…あ、れ?」
それはいまだに白い光を帯び、バチバチと火花を散らせている。
―確か、貫通、するんじゃなかったっけ?
「……なっ!まさか失敗…!?」
それはグニャグニャと次第に歪んでいき、
消滅とまではいかないだろうが、今にも破裂しそうだ。
―無理か……!?
もしこれで、一護たちが駄目になった場合。
それはが考えていた中でも最悪のシナリオだ。
―たった一人ででも、助ける覚悟はある。
けれど、それに成功率が比例して来るわけでは、決してない。
―気持ちだけで乗り切れることには限界がある。
失敗する確率が、一気に跳ね上がることは変わらない。
…だからこそ、そうならないことを祈りつつ、は必死に空の一点をただ黙って見つめていた。
しかし、またもや予想外の事が起きた。
歪んでいくそれは、次第に分裂していき、それぞれ四方に飛び散っていくではないか。
「ったくどんだけ驚かせられればいいのさ……!」
本当に面倒臭いことになった。と、は頭を抱えた。
―とにかく、落ち着いて考えよう。
予想外の事態に苛立ちを隠せず、小さく舌打ちをする。
いくら頑張ってもの身体は一つしかないのだ。
当然、現在追跡できる方向は一つしかない。
とりあえず懸命に霊圧を探り、誰と誰が一緒に居るのかを確認してみる。
―夜一さんと誰かが一緒にいてくれさえすれば、
少なくともその数名だけはこの騒ぎの中見つかる可能性が低くなる。
のだが。……この予想外の展開からいくと、確率的に難しいかもしれない。
「どうしよっかなぁ……」
少々途方に暮れてしまう。
下では、死神たちが落下地点に向け殺到しているに違いない。
―単身行くのは上策ではない、か…。それなら……
「しっかり公務に励むしかないだろうねー。」
この緊急事態に呑気に休暇を満喫していては、怪しいだろう。それに……
―この先、彼らが平隊員や席官に負けるようでは、ルキア救出など話にならない。
それでは結局、足手まといにしかならないのだから。
見捨てるわけではないが、戦力外のものは早めに戦線を離脱させた方がいいだろう。
―もちろん、タダでは殺られないことを推定しての話、だけど。
旅禍だろうと、まぁ色々と話を聞く必要がある。
場合によっては、戦闘によって負傷した怪我を見ることもあるのだ。
―自然、行き着く先は四番隊。
確率はあまりにも低いが、今はそれを利用する他ない。
―粗方事が片付いた後、隙を見て逃がす。
「死なないでね、みんな……」
―ただひたすら信じ、そう願っている。
今、それしかできない情けない自分に苛立ちを覚えつつ、胸元でギュッと拳を握った。
―四番隊・総合救護詰所
「―は……?」
そこでは、ついつい自分の耳を疑ってしまった。
「えーっと…山田七席が、旅禍の人質……ですか?」
いろんな意味を含め、はそれが聞き間違いであって欲しかった。
そして、それを実行した『旅禍』グループその1と
マヌケな上司に言ってやりたいことが山程できた瞬間だった。
これからのことを思うと頭痛がするのは、気のせいではない。
「…伊江村三席、私はこれからどうすれば……?」
ちょうど詰所の方へ戻ってきていた三席を捕まえ、指示を仰いだ。
微妙に哀れみの目で見られた気がするのも、の見間違いではないだろう。
―どうやら他の同僚は他の救護班に割り振られたようだが……。
「―仕方がない。緊急処置として私の補佐を頼む。
これから召集された副隊長方の元へ被害報告へ行くため、付いて来たまえ。」
「了解しました。」
―瓢箪から独楽……かな。
どん底まで沈んでいたの気分が、ちょっとだけ浮上した。
入れ替わりの多かった副隊長格は、名前は知っていてもその顔を知らない者が多い。
確認しておく価値はある。
静々と後ろに着いて行き、あっという間に副隊長控え室にたどり着く。
現場復帰したはいいものの、もあまり現状を把握できていないため、
話し始めた伊江村の声に注意深く耳を傾ける。
「……十一番隊第三席・斑目一角様、同じく第五席・綾瀬川弓親様…
以上二名の上位席官が重傷のため、戦線を離脱なさいました…!」
―……三席と五席か。
十一番隊は戦闘派集団。結果としては上々かなぁ……
ただ、どの程度、負傷しているのかが問題だ。
ちなみにどちらかは一護が戦って倒したに違いない、とは推測している。
―何故なら、真っ先に見つかる馬鹿は一護しかいない。
と単純に考えているからだ。
―ヒトの忠告も聞かないアホだしね。
幼馴染に対してあまりにヒドイ言いようだが、まぁそれもまた幼馴染だからこそだ。
真っ直ぐ過ぎるのも困り者だな、とは内心いつも苦笑していた。
「各部隊の詳細な被害状況については、現在調査中です。
……ただ、十一番隊につきましては…
ほぼ壊滅状態であるとの報告が入っています…」
「十一番隊が…!」
「そんな…」
「…侵入から数時間でそこまで被害が出るか…」
と、が思考に耽っているのを他所に、副隊長たちがどよめいた。
「現在確認されている旅禍は三名…
うち二名は、我が四番隊の隊員一名を人質にとり、中央へ移動中との情報もあります…」
と、そこでサングラスのヤ○○っぽい、ガラの悪い人相の人……。
―これで、私より年下なんて詐欺だよね。
と、が思ったのはまた別だが。
その張本人、七番隊・副隊長の射場が口を開いた。
「実を言うと、ウチの四席もしばく前から応答がないんよ。
多分やられとるんじゃと思うけぇ、西の20あたりを調べたってくれぇや」
「四席…っていうと慈楼坊じゃないの?『鎌鼬』の」
―乱菊……。
は見知った人物の声に、顔をわずかに歪めた。
ただそれは、この非常に混乱した状況の中では、本当に些細な変化だった。
だから誰も、それに気づくことなど無かった。
「…ジ丹坊の弟か!?あいつまでやられちまったのかよ?」
「…一体どうなってるんだ…!」
「入ってきたのはどんな連中だよ…?」
動揺する副隊長たちを、はただ冷静に見つめていた。
―その場から阿散井恋次がいなくなったのも、当然のように。
それは、ルキアを救出のための最善策を見出すための布石。
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