ACT18:天の邪鬼の優しさ
「あ、ここだ。」
が声を上げ見上げたその先。
『そこだ』と一発でわかるオブジェは今回、人の腕が二本突き出たものだった。
「今回のテーマは一体……」
にとってはさり気なく、毎回気になる点だった。
「普通と言えば普通、なのかもしれないけど……」
ついついそちらに集中してしまい、一瞬だが目的を忘れそうになる。
「あ、いけない、いけない!
気を取り直して……うん、一護たちは元気にしてるかなぁ?」
鼻歌混じりに機嫌良くオブジェを潜る。
と、そこで待ち構えていたのは志波家に仕える双子の兄弟、金彦と銀彦だった。
「―殿!いえ、失礼しました殿!主共々大変お待ち申しておりました!」
「夜一殿から話は聞いております故、ささっ!こちらへどうぞ!」
相も変わらず息の合った二人に、はふっと笑みをこぼした。
「二人とも久しぶりだね、元気にしてた?今回のオブジェも随分と力作だねぇ……」
少し振り返って再度それを見上げた。
「今、一護たちは?」
「下に居りまする」
「そっか、じゃぁ今のうちに変装解いておいた方がいいかな?」
ぶつぶつと呟いて右手で黒い頭を触った。
「……あ、それと金彦銀彦!」
と、が思い出したように口を開く。
「別に呼び方はでもでもどちらでも構わないよ。
どちらも『私』に変わりはないし。」
―どちらも大切な人が与えてくれた『私』を示す名前だから。
「呼びやすい方でよろしくー!」
『すみませぬ』とユニゾンで謝られ、は一瞬だが驚いたように目を瞬かせた。
しかしすぐにその言葉の意を理解し、苦笑を漏らす。
「こっちも紛らわしくてごめんね?」
そんな会話をしつつ、空鶴がいるらしい家の裏手側に回った。
すると、むき出しの大きな煙突が立つ所へと案内された。
『様がご到着なされました!』
二人の真っ直ぐな声が辺りに響く。
そしてそれに負けないくらい大きく、懐かしい声がの耳の鼓膜を刺激した。
「―よぉ、待ってたぜ!」
腰に手を当て、仁王立ちで待ち構えていたのは、紛れもなく『志波空鶴』その人だった。
少々見上げるような位置でその人物を確認すると、自然と口元に笑みが浮かんだ。
「久しぶりだね空鶴、元気そうで何よりだよ。」
男気溢れるその姿が酷く懐かしい。
「お前もな。夜一から話は聞いてるぜ!……本当に転生しちまったんだなぁ。
言われなきゃわかんなかなかったぜ。」
ケラケラと楽観的に笑う空鶴は、彼女らしいと言えば彼女らしい。
「これでも一応『人間』だからね?
霊圧の質とかは……まぁ多少なりとも変わるよ。
実際、結論から言えば失敗なんだけど。―それより空鶴」
その一言で、先ほどの和やかな雰囲気が消え去り、緊張感が漂った。
「……なんだ?」
空鶴が重々しく聞き返し、が紡がたその一言は―。
「お腹空かない?」
「……っ!!」
空鶴のこめかみにピキッと青筋が立った。
「ちょっと急なことだったから、ご飯食べ損なっちゃってさぁ……。
えーっ、題しまして『突撃!志波家の晩ご飯☆』リポーターはでお送りします!
なぁんちゃってー。……あれっ、だっダメだった?」
見上げた先、空鶴の顔は般若の如く。
それはそれは恐ろしい形相だったそうな。
「―こんのボケナスっ!少しは場の空気を読みやがれ!!」
鋭い蹴りが跳んで来たところを寸前で躱し、一歩飛び退いて距離を置いた。
「うわっ危なっ!いやこれはちょっと場を和ませるための冗談……って!ぐほっ!!」
弁解の余地もなく、一気に距離を詰めてきた空鶴から鉄拳を貰った。
「時と場所を弁えろっつってんだよ!ぁあ?」
フラリとよろけたは、頭を抑えてしゃがみ込んだ。
「り、了解……」
衝撃で、声を出すのもやっとのようだった。
そんなの姿に溜め息をつきつつ、空鶴は一転して真面目な顔になった。
「……あいつに会う覚悟は決まったのか?」
俯いたまま、は顔を上げずにぽつりと言った。
「わからない……」
その言葉に空鶴は珍しく動揺し、怒鳴る。
「っ!テメェ……」
「自分でも呆れるくらい女々しいと思うよ。
現世で、自分なりに覚悟も決めてきたつもりだった。
……でもね。やっぱり思い出にするには『近過ぎる』んだ。
尸魂界に関わっている限りは、どう足掻いても無理だって気付いたんだ。だから……」
ゆっくりと立ち上がり、真っ直ぐに空を見据えた。
「逃げるのは止めにした。正面から向き合って、今までのことを伝えようと思う。
……例えダメでもさ、ちゃんと受け止めようと思う。
それが…『』の、私の、けじめだと思うんだ。」
穏やかに笑うの表情は実にすっきりとしていた。
「実際に会って、自分がどうなるかなんて、
自分のことなのに全く想像つかないんだけどね……」
うーん、と唸るに、空鶴は呆れたように笑った。
「……そういうもんか?いや、そういうもんだな。」
が説明することなく、一人で納得してしまった。
「お前変わったな……。いいだろう、その答えで納得しといてやるよ。」
「うん…ありがとう空鶴。」
話が一段落つき、金彦と銀彦が現れた。
「それじゃぁ今度はこっちの番だな。」
空鶴が砲台の台座に座り、口を開いた。
「あの餓鬼供だが、今はとりあえず地下にいる。」
『地下』と聞いて思わず苦笑しそうになるが、なんとか踏み止どまる。
「それって、もしかして霊珠核で障壁作る特訓?」
とりあえず思い当たることを口にしてみた。
「そうだ。と言っても、今はあのオレンジの小僧以外飯食ってるだろうから、
まずそっちに行けよ。」
「空鶴は?」
「俺はこれから準備が有んだよ。だから金彦銀彦に案内させるから先行ってろ。」
シッシッと追い払うような仕草をとる空鶴に苦笑する。
「わかったよ。それじゃぁ有り難くご飯いただきます。」
「……結局それかよ。」
空鶴がガクリと肩を落とす姿を認めてから、は飄々とその場を去った。
『先にそっちに行け』というのは、遠回しに『飯を食べに行け』と言っているのだ。
怒ってはいたもののの発言内容を否定していたわけではない。
この計らいはさり気ない空鶴の心遣いである。
それはとても分かり難い言い方ではあるが…。
金彦銀彦に頼んだあたり、それが空鶴の照れ隠しだと気付いているのは秘密である。
―数分後
空鶴の命令によって金彦銀彦の二人に案内される。
そして着いた先…部屋の襖の前。
―やっぱり、第一印象はインパクト第一だよねー。
と、勝手に自己完結して、即行動に移した。
スパーン!と勢いよく襖を開けて、開口一番……
「ご飯ーっ!!」
『!!!!』
突然の来訪者に中に居た者たちは一斉に振り返った。
「あ、ついでに久しぶり!」
「っえ、えー!?っ、ちゃん……!!?」
「さん!?」
「……!!?」
『なんでここに!?』
予想通りの反応に、はしてやったりと口角を上げた。
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