―尸魂界
そこに一人の死神が降り立った。
ACT15:偽りの顔
―四番隊隊舎・隊長室
「、2年の長期任務及び半年の休暇より只今戻りました。」
目の前には、隊長の卯ノ花と副隊長の虎徹。
久しく見ていなかったからだろうか?
未練も執着も元からないが、昔馴染に通じて感じる懐かしさがあった。
「思ったいたより早かったですね。」
卯ノ花が穏やかに笑った。
「はい。思っていたより任務が早く終わりましたので、1年の休暇は十分満喫できました。」
報告書を机に提出しは続けた。
「私の短慮によりご迷惑をおかけしたこと、改めてお詫び申し上げます。
申し訳ありませんでした。」
勢い良く頭を下げるに虎徹は慌てた。
「え、えっとさん!?う……卯ノ花隊長!!」
「そのことならば、もう良いでしょう。元々、非があったのはあちらなのですから。
謹慎の替わりに長期任務を引き受け、それを無事完了したことですべて終わったのですよ。」
そう言ってまたほほ笑むと、手元の報告書に判を押した。
「お疲れ様でした。明日より、またよろしくお願いしますね。」
「はい、精一杯勤めさせていただきます。」
もう一度深く礼をすると、は隊長室を後にした。
『 』
四番隊所属、第十四上級救護班の平隊員。
見た目は有りきたな黒目黒髪。
……まさかそれがウィッグとカラコンによる変装だとは、誰も気付かないわけだが。
数年前にちょっとした不祥事を起こした以外は、
特に目立つこともない極々普通の死神である。
……そう、表向きは。
真央霊術院に入ってから3年目。
三回生にあるまじき、その卓越した鬼道センスにより、鬼道衆からの引き抜きが来たのだ。
斬術がほとんどダメであっても良い。
例え始解ができなくとも、という特例でのことであったが、しかし。
それはあまりにも偏り過ぎている、という反対の声もあり、
最終的には、更にずば抜けていた治療能力から四番隊に配属されることとなった。
なので、配属の異動はもちろん『死神』として不完全であることを理由に、
席官になることこそないものの、治療における四番隊隊長からの信頼は非常に厚かった。
……真実を言えばそれさえもの策略だ。
事実、斬術はもちろん斬魄刀の始解だって当然できる。
『早く死神になれて、かつ、ずっと平隊士でいる方法』
昇進しないようワザとできないフリをしているだけである。
ただ、別の意味で同じ平隊員の中では有名であった。
『永遠の四番隊平隊員』として…。
ともかく、その人懐っこい性格のおかげで人間関係にはあまり苦労していない。
現世から無事任務を終え帰還し、隊長室への廊下を歩いているときも、
長期任務から帰還したに『おかえり!』と声をかけて行く者がほとんどだった。
騙していることにわずかな罪悪感を感じつつ、は一人、廊下を歩いていた。
「……一護」
脳裏に過ぎるのは現世で出会った一人の少年。
―約2週間後、が現世に戻ったときに彼は期待に応えてくれているだろうか?
ふと、そんな思いが胸を締め付けた。
一緒にいた時間はほんのわずか……。
けれど彼にとって、朽木ルキアという存在は『大切なモノを護る力』を与えてくれた大きな存在。
―だから、その彼女を助けるのにそれ以上の理由はいらないのかもしれない…。
どこまでも真っ直ぐで、短気で、意外と面倒見の良い彼は、
本当に太陽のように熱く眩しい奴だ。(決して本人は認めないが)
―正直、そんなことを考えている自分にも笑ってしまう。
「―……さーん!」
物思いにふけっているところへ、また一人へと声をかける者がいた。
妙に耳に残る……そう、聞き覚えのある声には首を軽く捻って振り返った。
「山田七席……」
が所属する第十四救護班の班長である。
「お帰りなさいっさん。わ〜、本当に久しぶりですねぇ」
ニコニコと笑みを浮かべながら話す上司は、以前となんら変わることない。
むしろ更にどこか抜けてしまったのではないだろうか。
と、変な心配をしてしまうほどのマイペース振りだった。
「…はい、これからまたよろしくお願いします」
丁寧にお辞儀をし、も笑い返した。
もちろん動揺した雰囲気は微塵も見せずに。
「いえ、こちらこそです。さんが復帰してくれると、僕も大変心強いです!」
えへへ……と照れながら頭を掻く、その頼りなさ気なその姿に、
上司としての威厳はもちろん皆無である。
―けれど……
「そう言っていただけると、私も嬉しいです。」
―だからこそ彼に好感が持てるのかもしれない。
「それでは、私はこれで。
正式には明日からなので、今日は早々にお暇させていただきます。」
もう一度花太郎に頭を下げると、はその場を立ち去った。
―…ここは変わらないな。
とある建物の屋根の上。
そこに座り込んで小さく息をつくと、ゆっくり目を閉じた。
―まずは情報収集かな?
「隊長・副隊長格の入れ替わり、かぁ……」
霊圧を探り、それはすでに確認済みである。
「副隊長の変更が多いなぁ。若手に優秀な者が増えるのは良いことだけれど……」
―斬魄刀の能力がわからないのは痛い。
「ルキアが囚われているのは六番隊の牢。
ここの副隊長はちょっとしたキーマンになりそうかな。
えーっと、確かあばら……阿散屋?なんか違うな。
あー……そうだ、阿散井!『阿散井 恋次』
特徴は真っ赤な髪と刺青。ルキアとは顔見知りみたいだし『要チェックやでー!!』」
フンフンと現世で見た漫画のキャラクターの物まねしつつ、
恋次の現在地を確認し、今度は別の霊圧を探る。
「十番隊隊長は、稀代の天才児……か。
特徴は銀色の髪、容貌はまだ子供……名前は『日番谷冬獅郎』ねぇ……」
その名をもう一度確認するように小さく呟いた。
「すごいなぁ……最年少隊長だって。
十一番隊副隊長の草鹿やちるも幼い子供だけど、隊長ともなるとその比じゃないよ、ねぇ……」
―本当に、参ったなぁ……。
と仰向けに倒れ込みながら、手のひらで目許を覆った。
「ルキアの所属は十三番隊……あいつのところ。いいかげん、覚悟を決めないとね……」
胸元を握り締めながら、自嘲気味に笑った。
「できれば刃を向けたくない……というのは私の我儘かな?」
―現在の立場は違えど、心は変わらない。
それが今の『私』
―彼の人に刃を向けるのが怖い。
その感情は死神になる前の自分からは、考えられない感情だったろう。
―けれど私は所詮……
「裏切り者でしかない。」
ココロが酷く軋んだ。
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