ACT14.5:長期任務の理由







―約2年前



ことの発端はその救護室でのことだった。



手を軽く打撲した二番隊の十席がの手当てを受けており、

斜め後ろにはその取巻きが2名ほど立っていた。



「っ痛ぇ……おい!もう少し丁寧にやれよ!!」



半ば言い掛かりをつけるように怒鳴られた。



「……すみません、後が詰まっているもので。」



実際、彼が言うほど雑な手当てをしているわけではないのだが、

それに対してムキに反論するのも面倒臭いためには軽く流した。



するとその男はその態度が気に食わなかったのだろう、フンと鼻で笑った。



「いいよなぁ四番隊は。大した戦いもせずに他人の後ろに隠れてるのが仕事だもんな?」



見下すような視線がに向けられた。



―……テメェ一回死んで来い。



心中、穏やかではないが……。

引きつった笑顔でそれに答え、手元に集中しようとする。



―うん、さっさと終わらせよう。



「っつーか、ここの隊長なんて虫も殺さないような顔して、

 本当に隊長なんて務まるのかって感じっすよね?」



取巻きの一人が便乗して暴言を吐いた。



「そうだよなー……

 けどさ隊長と言えば、八番隊隊長は女たらしで酒ばっか飲んでるオッサンだし、

 九番隊隊長は障害者、十二番隊隊長はキモイ顔した実験オタク……マジやってらんねぇよなー」



―…………。



「それを言うなら、十三番隊隊長に至っては馬鹿みたいに病弱だろ?

 そんなんで隊長が務まんのかよって感じじゃねぇ?

 さっさと辞めちまえばいいものを。そんなんだから副隊長が死んじまったんだって」


「『生命力吸われましたー』って?」


「ブッ!うわそれウケるし」



その一言で、は一気に冷めていく自分を感じた。



他の四番隊隊員も彼らに軽蔑の目を向けていたが、

それにさえ気づかないほどその言葉がの…いやの頭に焼き付いた。



「……何がわかる」

「はぁ?」


「貴方たちに…何がわかるのか、と言ってるんだよ。」

「何?今更キレちゃってんの?」



茶化すように3人が笑った。



「私のことはいいよ、別に。そう、百歩譲って…四番隊のことを理解してくれなくても構わない。

 たださ……たいした知りもしない他の人のことを蔑むことは許さないよ?」


「『許さない』ってなんだよ?俺らをボコるつもりか?たかが四番隊の平隊員ごときが?」


「斬魄刀でも使ってみるか?」


「っていうか使えんのかよ!?」


「それウケるし!」


「「「ギャハハハハハッ!!」」」



また笑いだす彼らに、も口の端を吊り上げて笑った。



「斬魄刀?いりませんよ。貴方々ごときに」



腰に差していた斬魄刀をあっさりと手放し、床の隅に置いた。



「なっ……!?」

「調子に乗ってんじゃねぇよ!!」



すると逆上してきた一人がに殴り掛かってきた。



「ふざけんなっ!!」

「別にふざけてないよ。」



ヒラリといとも簡単に躱すと、項に後ろ回し蹴りをキメた。



「うっ……!!」



あっという間に一人が床に倒れ、焦ったように残りの二人が斬魄刀を抜いてきた。



「後悔しやがれっ!!」

「するのはそっち。」



十席の斬魄刀の始解が解かれ、救護室に爆発音が響き渡った。



その音を聞き付けた人々がそこに群がり、辺りはさらに騒然とする。

中には隊長・副隊長も数名おり様子を伺っていた。



「これは一体……?」

「誰かが非常識にも斬魄刀を解放したようですね。」



部屋に踏み込むと、中の壁が所々崩れており、天井にも穴が開いていた。



「……えらく、派手にやったな。」



檜佐木が呆れたように呟いた。



「当事者は……」



乱菊が辺りを見回し、部屋の中にいる人々の視線を集めている人物を視線でとらえた。



「……女の子じゃないか。」



京楽が驚いたように声を上げ、皆の視線がそちらに注がれた。



さん!?」



勇音も驚いて声を上げ、急いでに駆け寄った。



「……虎徹、副隊長」


「あぁ大変!!額から血が出てる!

 早く手当てしないと……って!そもそもどうしてこんなことに……!?」



慌て過ぎて混乱しはじめる勇音を卯ノ花が制す。



「勇音、落ち着きなさい。事情は後で聞きます。とりあえず今は関係者を拘束してください」



の両手が乱菊によって塞がれた。



「……斬魄刀は?」

「そちらの壁際に。」



視線で場所を示し、檜佐木がそれを拾った。



床に倒れていた3人を四番隊の隊員が担架で運び出し、の額にも包帯が巻かれた。



「……話はあの3人からも聞きますが、どうしてこのようなことに?」



卯ノ花がの目を見た。



「簡単に言ってしまえば……私の短慮です。」



自嘲気味に笑うの表情は、その部屋の中でも何処か異質に見えた。



「……彼らは、その、さんが一人で?」



勇音の問いには一つコクリと頷く。



「斬魄刀も使わずに?」

「はい、必要ありませんでしたから。」



その返答には、その場に居た隊長・副隊長も微かに目を見開いた。

しかし、確かに斬魄刀は鞘に収められたまま、手元からは程遠い場所にあった。



「……そう、ですか。とりあえず詳しいことは後日にしましょう。

 松本副隊長、すみませんがそのまま勇音と共に牢への移送お願いします。」


「……はい。」



そしては両脇を副隊長に挟まれ、その部屋をあとにした。

























―数日後



は静かに牢屋で時を過ごしていた。



何をするわけではなく、椅子にジッと座ったまま、

まさにただひたすら、時の経過に身をゆだねているようだった。



「……隊長」



がゆっくりと目を開け正面を見ると、隣りには困ったような表情をした勇音の姿もあった。



「先日、例の二番隊十席並びに、隊員二人より話を聞きました。」



卯ノ花がを見つめて言った。



「……あなたが先に喧嘩を売ってきた、と。」



その言葉はどこか張り詰めたモノがあった。



「あなたの口から、その時のことを聴かせて下さい。」



それには静かに頷いた。



「私は、十席の怪我の手当てをしていました。

 まぁ何のことはない、軽い打撲だったのですが。

 私の手当ての態度が気に食わなかったのでしょう、十席は四番隊を蔑む発言をしました。」



そこでは一度言葉を切った。



「えっと、さんはそれで……?」



勇音がうかがうように問う。



「いえ、踏み止どまりましたよ。

 四番隊の存在意義をわかって下さらなくても、必要とされていることは事実ですから。

 私はそのことに誇りを持っていますし、他者に何を言われようともそれは揺るぎません。」


「では……」


「あのヒト方は本当にどうしようもない方たち、です。

 あろうことか、とある複数の隊長方を蔑む発言をされました……」


「彼らがですか?」


「はい。あまつさえ、亡き十三番隊副隊長までも引き合いに出されたので……」



は深々と溜め息をついた。しかしその握り締められた拳は、小さく震えていた。



「それで、手を出したのですか?」


「はい。しかし、言い訳のようになりますが、先に殴りかかってきたのはあちらです。

 怒りに我を忘れて、私もある程度の挑発はしましたが。

 斬魄刀を解放し、救護室を破壊したのもあちらです。

 私に罪がないとは言いませんが、建造物破損に関しては、

 一切責任を負う義務のないことを主張させていただきます。

 ……しかし私は相手に怪我を負わせましたから、その罪の責を問われることに異存はありません。

 怪我人に手を出すなど、四番隊隊員失格です。

 なので処罰は謹んでお受けする所存です。」



すべてを言い終え、は卯ノ花が口を開くのを待った。



「……わかりました。その話に偽りはない、と判断いたします。

 事の真相は、その場に居合わせた者たちからもすでに聴取し終え、

 内容はほぼ一致しております。

 ただ、怪我を負わせたことについては事実ですから、処断は追って下します。」


「…承知致しました。」



そして卯ノ花と勇音は退室し、はそこにまた一人残された。
























そして翌日下された処断



『現世にて虚おおよそ50体の魂送、及びその最大駐在期間を2年とする。』



その処断は周囲が思っていたよりも厳しいものだった。

どうやら例の二番隊隊士は中流階級の貴族出身だったらしく、裏から手が回されたようだ。



虚50体か、満2年現世駐在任務を全うするか。

それはある意味究極の選択であった。

十一番隊席官などからすれば余裕、某三席に至っては朝飯前のことだが、

その処断を受けるのは平隊員、しかも四番隊である。

万年平隊員のにはキツい処断であろう、と誰もが思った。

しかしこの処断が覆ることはなく、は現世へと下り立った。



『休暇気分で行って来ますよ』と。



周りの心配を余所に、溜まりに溜まった有給を奪いつつ、颯爽と現世へと降りたっていった。











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