ACT12:変わり行く空






―浦原商店のお茶の間



はのんびりとお茶をすすりながら喜助と話をしていた。



「そういえば、朽木さんの義骸は喜助作?」

「あ、気付きましたやっぱり?よく出来てるでしょう、アレ」


「……いろんな意味でね。さすがは技術開発局創立者。」



茶受けの煎餅を頬張りながら喜助を見た。



「……もう昔の話っスよ。それよりさん、記憶の方はどうです?」



話を切替えされて不満な表情を浮かべつつ、は小さく首を横に振った。



「大切……なんだろうねぇ、きっと。

 優しい声と手を持つ男の人と、小さな男の子が夢に出てきたよ。

 名前や顔はわからないけれど、当時の私が何よりも守りたかったのは、2人なんだろうね…。

 自分がその時、どれだけ幸せだったかよく伝わってきた……」



自然とそれを話すの目は優しくなった。



「歯痒い……ね。」



そのまま後ろにゆっくりと倒れ、天井を見つめた。



さん……」



喜助が名を呼ぶ声もどこか切なく、静かになった部屋に外で騒ぐジン太の声が聞こえた。



「……気長に行くよ、それしか無いしね。」



ヘラッと表情を崩し、頭の後ろで腕を組んだ。



「喜助、朽木さんが来た。」


「……みたいっスね。」



喜助が立上がり茶の間から出て行く。

も畳の上から起き上がると、お茶を片手に戸口に座り込んだ。



―ガラッ、と引き戸の開く音がし、喜助がすかさず口を開いた。



「おや、朽木さんじゃないスか!何か用スか……」



―白々しいなぁ、とは静かに茶をすする。



「あうッ!」



鈍い音が鳴り、喜助の声が聞こえたことから被害者は喜助のようだ。



「何が何か用スかだ!

 貴様が何度かけても応答せぬから、こちらから出向いたのではないか!」


「いや、すいませんね。

 こちらも最近何かと忙しくて、店空けることが多かったんスよ。」



その言葉に、は最近のことを振り返った。



“何かと忙しかった”理由の一因には、のことも多少なりと含まれている。



―悪いことをしたなぁ、と思いつつまたお茶をすすった。



と、そこでジン太が一護のことを聞き、ルキアが答えた。



「一護は……恐らく今頃はまた面倒に巻き込まれておる頃だろう。

 私が今日ここへ来た理由もそれだ。少し……訊きたいことがある。」



―あぁ、彼……かな。



「………何スか?」


「『滅却師』」


「久し振りに聞いたっスねぇ……」

「……久し振り?」



喜助のその言葉にルキアが反応した。



「まったく……懐かし居響きですな。」



テッサイが店の戸を閉め、話しに加わった。



「私などはもうかれこれ……200年もその名を聞いておりません。」

「200年…?どういうことだ?滅却師とは一体何なのだ!?」



喜助がゆっくりと口を開き、彼らのことを語り始めた。





―滅却師……

対虚戦に特化した退魔の眷属。

その信念ゆえに滅ばざるを得なかった……、肉親を慈しみ、同胞を大切にする、

ある意味最も人間らしい存在。



喜助の話しを聞きながら、は石田を思い出していた。



―彼は……大切な誰かを亡くしたのだろうか?



あの瞳には見覚えがあった。



「……つらい、ね。」



脳裏を過ぎるのは幼い日の記憶。



「―……!!」



一瞬にして張り詰めた空気が辺りを覆った。



―これはっ!?



ルキアの伝令神機が鳴っては切れ、そのうち鳴り止まなくなった。



「な……何だ、これは…!?虚の数がどんどん増えていく……!!」



は喜助に、戸越しで合図を送ると静かに立上がった。



「何だ…この空は?何だ…この乱れた魄動は?

 何だ……!?一体何が起こっているのだ……!?」



ルキアのその声は、怪しげに蠢く空へと響き渡った。






















「……惨いな。」



とある民家の屋根の上には居た。



―その姿は『死神』



淡い金の髪が風に揺れ、斬魄刀が左手にきらめく。

寄ってくる虚を斬魄刀で両断しつつ、は空を見上げた。



「……嫌な空気」



微かに目を細め空を睨み付ける。



「……さん、そろそろ行きましょうか。」



喜助が下で呼ぶのに応え、も下へと飛び下りた。



「……先にチャドのところへ」

「了解」



テッサイ、ウルル、ジン太を引き連れ5人は空き地へと向かった。















「……邪魔だよ」



倒れているチャドに群がる虚をは一瞬にして片付けた。



「……大丈夫?」



顔を覗き込むと、微かに意識はあるようだ。

の声に反応を見せた。



「お、生きてるな!頑丈な奴。」

「ジン太君……」



同じく覗き込んだジン太とウルルに苦笑しつつ、頭をあげた。



「テッサイさん、お願いします。」



テッサイが頷きチャドを担ぐ。



「次は井上さんスかね……」



喜助の言葉に今度はが頷くと、学校へと足を向けた。

















「織姫…たつき……」



横たわる二人に近寄り、安否を確認した。



「……良かった。」



地面に片膝をつき、織姫の髪を撫でた。



さん……大丈夫スか?」



「……っ大丈夫。それよりはやくみんなを…見つかったら大変だ。」



頷いて喜助が3人に指示を出す。

もその場から立上がると、千鶴や他の生徒たちの怪我の治療にあたった。



「……ごめんね。」



誰にも聞こえないくらい小さな声では呟いた。


























浦原商店に戻り、は死神の姿のままジン太たちとともに、店の外にいた。



連れて来たチャドと織姫に喜助が話し終わるのをただ静かに待っていた。



―私に……勇気を下さい。



“自分”を受け入れる勇気を。

“自分”に立ち向かう勇気を。

“自分”の大切な人を守れるように。



と、テッサイが店の中から出てきた。



の前に立つと4人は2列に、向かい合う形で整列した。



そして喜助も戸口に現れる。



「……よし、それじゃ行こうか。」



と、その背後を振り返り言った。





「ついて来ますか?」



―その覚悟があるのなら……



「見せて差し上げますよ。」



―世界の闇を……



「自分達で確かめるといい。」



―真実を……



「これからキミ達の踏み入れる世界を。」



―たとえ戻ることが出来なくても……



「……そして、キミ達の戦うべき敵をね。」


―…そう、知らなくてはならない。




















は喜助から織姫とチャドの二人を任せられ、少し離れたビル内にいた。



自己紹介もされぬまま、いきなり3人にされたため、場の空気はどこかぎこちなかった。



「……えーっと、一応はじめまして。私の名前は。二人は……」



―今は『』だから名前は……



「井上さんと茶渡君だよね?」



その問いに二人はコクリと頷いた。

それに少しホッと息をついていると、織姫が恐る恐るといった感じに口を開いた。



「あの……さんは黒崎くんと同じ『死神』なんですよね?」



その質問には少々考えるが、肯定した。



「……そうだよ。」

「じゃぁ、あの大きなのは……」



言葉を濁す織姫には小さく笑った。



「“黒くて大きな化物”かな?……あれは虚の中でも特別格だよ。

 『大虚―メノスグランデ―』ただの死神には倒せない代物だろうね……」



窓の外に見えるその異様な存在に、微かに目を細めた。



「……ところで二人とも、彼はちゃんと見えてる?」



一護を指差し二人を振り返れば、織姫はしっかりと頷き、茶渡は軽く首を振った。



「……俺には、掠れて見える。」



その答えには口許を緩めた。



「存在が確認できるのなら上出来。……二人とも、見て、よく考えるといいよ。

 自分たちの道を選ぶのはそれからでいい。」








―迷える子羊に手を差し延べたのは、本当に正しかったのだろうか?



 …それは偽善?












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