「補習、はじめるわよー?」
第五話:イラッと来る!(でも我慢)
―並盛中学校 2−A教室
そこでは今から補習が始まろうとしていた。
「1、2、3……」
―5、6人にといったところだろうか。
面倒くさそうに座っている生徒の顔を見回し、は苦笑した。
この補習は元々、前任の教員が行ったテストで点が悪かった生徒たちが集められたものだ。
テスト前から予めの点の悪かった者は補習と宣言されていたらしく、
それをが引き継いだのだった。
「……ん?獄寺、あなたは補習じゃないでしょう?」
ふと頭数が多いことに気づき、名前を確認する。
まだ完璧に覚えたわけではないが、銀色の頭は目立つのでそれが誰だかすぐに分かった。
「うるせえ!教師ごときが俺に口出しすんじゃねぇ!!」
「……あっそ。別に教室に居てもいいけど、邪魔はしないでね?」
「あぁ!?」
「あ、ついでに隣りの沢田とか山本に教えてあげなさい。」
「なんでテメェに指図されなきゃ……!!」
ひたすら反抗的な態度をとる獄寺。
普通の教師ならその迫力に恐れをなし、そのまま居座ることを許してしまうのだが、
は憮然とした態度で、さも当然のように言い返した。
「あのねぇ、ただそこに居るだけだったら置物と変わらないんだから少しは役に立ちなさい。
補習なんか、少しでも早く終わらせることに越したことはないでしょう?
沢田だってほら、こんな面倒くさいものさっさと終わらせて帰りたいでしょう?」
「え……えぇ!?俺ですか!?」
「うん、そう沢田。山本だって早く部活行きたいだろうし?」
「あはははは、やっぱりわかる?渋谷先生」
「テメッ山本!!」
突然ふられたことに動揺する沢田と、笑顔で正直に答えてしまう山本。
「私もさっさと終わらせたいから、お互い様ね。じゃぁサクサク始めるわよー」
「え?俺。聞かれた意味なし!!?」
ツッコミ体質なのだろう沢田の声が、教室に空しく響いた。
「―はーい、お疲れ様。」
補習を終え、帰っていく生徒の背中。
それを視線で見送ると、いまだ教室に残る生徒にそのまま視線を移した。
「……沢田たちで最後ね。」
とは言っても、すでに机の上を片付け帰る準備を始めているため、
あとは補習の課題プリントを回収するのみなのだが。
「渋谷先生ー。はい、これプリントな。」
「はいはい、沢田の分も一緒ね?お疲れ。」
渡されたプリンとをザッと確認し、OKを出した。
「よっしゃー!部活だ!」
補習から開放された山本は、水を得た魚のごとく、目を輝かせていた。
それに思わずは、―プッと噴き出してしまう。
「山本は本当に部活が好きねぇ……あ、違う野球が好きなのか。」
「もちろん!ちなみに先生は?」
「野球が、ってこと?それなら別に嫌いじゃないわよ。
むしろ弟が野球馬鹿だから、私の奢りでよくドームに観戦とか行くしね。」
「マジっ!?いいなぁ、弟さん!羨ましいー!!」
「あはは、ここにも野球馬鹿発見。
でも山本は、見てるより“する”方が好きなんじゃない?」
―違う?と試すような視線で見返すと、山本は僅かに目を見開いた。
「おぉー、当たり!渋谷先生、俺のことよく見てるのな?」
「いや、目がそう言ってるって。ほら、早く行きなさい。時間が勿体無いでしょう?」
「おっ、ヤバイ!サンキュー先生!今度よかったら練習見に来てな!」
「はいはい。行くときは顧問の先生に言っとくから。
さっさと青春してらっしゃい、野球少年!」
がヒラヒラと手を振り見送ると、山本は荷物を抱えて教室を駆け出ていった。
―本当に若いっていいわねぇ……
などと、少々年寄り臭いことを考えつつ、もようやく手元の荷物をまとめ始めた。
「チャオっす。」
「……リボーン」
誰もいなくなった教室。
そこに現れたのは、紛れもない赤ん坊。
否、先ほどまでこの場にいた沢田綱吉の家庭教師だった。
「今日もツナが世話になったみてーだな。」
「それは、仮にも教師ですから。」
リボーンから接触してくるときは、厄介ごとが絡んでいる場合が多い。
もちろんそれを経験からよーく知っているだ。
返答がどこか刺々しくなるのも、その警戒心ゆえであり、仕方が無い。
「で、今日は何の用?」
すでに放課後。
今日は一日、平穏なまま無事に終わると思っていた矢先のこと。
勘弁して欲してもらいたいというのが本音である。
「そう警戒するな。今日は本当にの顔を見るついでに、礼を言いに来ただけだぞ。」
「……嘘。」
このリボーンに限って、裏が全くないというのが逆に怪しい。怪しすぎる。
―明日は雨か、はたまた槍が降ってくるか。
は頬を引きつらせた。
「これからさらに騒がしくなるだろうからな。
……そのための根回しだと思えばいいゾ。用らしい用と言ったらそれくらいだな。」
「リボーン……?」
「アイツらはまだまだガキだからな。
それを分かっててセーブしてやれる人間が必要なんだ。」
「それは、ね。若気の至りは誰もが通る道だろうしね……」
「そういうことだ。お前の腕は信用できるしな。雲雀のことも含めて任せたゾ」
「……結局、最後の最後にオチがつくわけね。」
―正直、雲雀恭弥の相手は精神をすり減らされるのでしたくない。
しかしそれを訴えても、この家庭教師は聞いてなどくれない。
そんな、ある日の放課後のひとコマ。
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