第六話:体育祭来る!






 ―並盛中学校体育祭



準備に追われる毎日から、今日ようやく解放される。

そう思うと、はホッと息を吐いた。

当日である今日はもちろん忙しいのだが、しかし。

この並盛中には『風紀委員』がいる。

巷では保護者の観覧態度悪化などが騒がれているが、

この並盛中に限ってはその心配もいらなかった。

いつも苦労させられている側としては、珍しくも感謝したい気分だ。

風紀委員様様……いや、主にその大半を占める原因は委員長である雲雀だがら、委員長様様か。

ともかく、今のところは至って順調。

手元にあるプログラムと睨めっこをしつつ、グラウンドで繰り広げられている

競技の進み具合をのんびりと確認した。



あの風紀委員長様も、学校行事に関してまで『群れるな』とは言わないらしい。

―さすが学校大好き雲雀恭弥。

もはや公然の事実である彼の素晴らしき(一種過剰な)愛校精神。

その徹底振りはある種、不良であることを含めても尊敬に値する。

が、人間誰しも妥協できないことはある。

群れることを嫌う彼は、一度も人の多い会場の方には顔を見せていない。

まぁきっと、応接室などからしっかりと見ているだろう。

―あぁ、自分で結論付けておいて何だけれど、あまりにも彼らし過ぎる。

はその姿を思い浮かべて苦笑した。





















プログラムも丁度、昼休みに差し掛かろうとした頃。



「はぁっ!? 総大将が襲われた……!?」



時は少し前に逆上り、グラウンドにてC組の総大将が。

トイレにてB組の総大将が襲われたらしい。

しかも犯人は両方ともA組で、それを命令したのは1年の沢田綱吉だとか。

それを聞いたときはクラリと眩暈がした。



「裏で糸を引いてるのは間違いなくリボーンでしょう……!!」



―考えるまでもなく。

ここで午後の競技である棒倒しに問題が出てきてしまったため、

各チームの3年生代表を本部に集めるべく放送をかけた。

マイクのスイッチを切った後、は吐きたくもない溜め息を深く吐いた。











―そして思い出したくも無い、壮絶な話し合い。



「昼休み終了時に放送をかけます。それでは解散……」



どっと疲れが押し寄せた。

生徒たちはすでに保護者席へと散り散りになり、家族の元でご飯を食べている。

そんな穏やかな光景とは対照的に、どこかやつれているは、

この昼休みが終わった後のことを思うと頭痛がした。



姉ちゃーん!」

「……え?」



一瞬幻聴までしたかと思ったが、再度名前を呼ばれたことに驚いて振り返ると、

そこには見知った少年二人組が立っていた。



「お疲れ様です、さん」


「えっ、うそっ!? ゆーちゃん、健君まで。」



は二人を前に目を見開いた。



「えへへ、ビックリした?これお袋から弁当の差し入れね。」


「僕たちの分まで作ってくれたんで、一緒に食べようかと思って来たんですけど……」



―癒しだ。究極の癒し系がここにいる。

相当疲れていたらしい。はつい感動してしまった。

そう、まさに砂漠にオアシスを見つけた気分。



「本当に?えーっと、もうちょっと待っててもらってもいいかな?

 あともう少しで片付くと思うから!」


「了解!俺らは時間関係ないし、そんなに急がなくてもいいよ姉ちゃん。」


「じゃぁ、僕らはあそこら辺の木陰で待ってますから」


「うん。またあとでね!」



ヒラヒラと手を振り背を向けると、は残りの仕事を早く終わらせるべく

急いで校舎へと駆け出した。

















「お待たせ!」



木陰で涼んでいた二人にが声をかけた。



「お疲れ様ですさん」


「姉ちゃんお疲れ!」



―仕事を超特急で終わらせてきてよかった……!!

は心の中でガッツポーズをした。

いそいそと座り込み、さてお昼だ!と意気込んだところへ……



「A組の総大将が今度は毒もったぞ」


「おいコラー!!」



そんな声が耳に飛び込んで来た。



「毒って……?」


「気温も高いし、食中毒だよきっと。」



有利の疑問に村田が答えた。

ただそんな会話を繰り広げる二人を横目に、は絶句した。

あの沢田を中心とした、賑やかな集団が原因なのは一目瞭然。

裏の住人が当たり前のようにいる気がするのは……うん、気のせいだと思いたい。

単なる自分の目の錯覚だと。

しかしもう一度目を向けたその先には……



「あれって『毒サソリ』の……」



―ビアンキ?

日本人の中に顔立ちが違う外国人がいるのはとても目立つ。

しかも彼女は、裏でもそれなりに名の売れた人物だ。

いつの間にか保健室で居着いていたシャマルといい、

周囲が裏社会に毒されつつあるのを痛感した瞬間だった。

いっそ、開き直って生徒たちが死人が出ていないだけマシと考えるべきなのか……

故意に仕出来したことだけは確かだ。




というか根本的に。

裏の人間がこうもあっさり表の、しかもごくごく普通であるはずの学校行事に

関与していいものなのだろうか。

元から規格外の彼らに常識を説くのもどうかとは思うが、

平穏を願う身としては頭の痛い問題だった。



「あ、この出汁巻き玉子おいしい。」


「こっちの肉団子もイケるよ?」



そんな和やかな雰囲気を醸し出す二人が、魔王と大賢者なんていう

某国でもいちにを争う権力者だなんて、すっぽりと忘れてしまいそうなほどに。






















昼休みも終わり、は半ば投げやりに問題の審議結果について放送をかけた。



「お待たせしました。棒倒しの審議の結果を発表します。

 各代表の話し合いにより、今年の棒倒しは、A組対B・C合同チームとします!」



もうどうにでもなれ、と自棄を起こしていたのは言うまでもない。

殺気立つグラウンドをぼんやりと眺めていると、そこに黒い影が。



「あー……とうとう恭弥まで」



生徒を数人踏みつぶしながら、悠々と棒の頂上に座り込んでいた。

この時点で体育祭が無事終わることを願うのは無駄だと思い知った。



―『開始!!!』



その声と共に両チームが激しくぶつかった。

しかし数の差は歴然。

あっという間に沢田の足下にはB・Cチームの生徒が群がっていた。



「これはもうどうにも……」



これは団体競技であり、個人の力量がいかに抜きんでていようとも、

倍の数を覆すまでには至らない。

とうとうA組の棒が傾いた、その時……



「空中復活!!死ぬ気で棒倒しに勝ぁーつ!」



そう叫んだ沢田が、次々と生徒の上を飛び移り始めた。



「うおおおぉぉ!!」



そしていつの間にか騎馬に早変わり。



「地面につかなければ何でもありなわけ……?」



獄寺・山本・笹川兄の3名が沢田を乗せて、次々と生徒を蹴散らしていく光景に、

は呆気にとられていた。



すると……

あっさり仲間割れを起こし、自滅。

沢田が地面に投げ出されて決着がついてしまった。



静まり返る会場。

しかし……



「……結局こうなるわけね。」



目の前で始めた乱闘に、はガクリと肩を落とした。

現実逃避したい衝動にかられつつ、この事態の収集をどうつけようかと途方に暮れていた。



「なんだか並盛も物騒になったものだね、渋谷。」


「いやホント、今の中学生って過激だね。びっくりだよ」



の背後では、村田と有利がシミジミと言葉を交わし合っていた。

そんな二人もついこの間まで中学生だったというのに。



「あはははは……ゆーちゃん、健君。

 過激なのは極一部、本当に極々一部の生徒に限ってのことだから!

 だから普通の中学生に当て嵌めたらダメだからね!?」



―某仕込みトンファー使いとか、噛み殺すとか言っちゃう風紀委員長様とか

 ……うん、非一般中学生代表・雲雀恭弥とかね。

 あと、獄寺の爆発物も注意しなければいけないのだろうか。





の渇いた笑いは、爆音と怒声にかき消された。













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