守りゆく その想い ひたすら 鳴り響け
果てるまで せめて 強く
此の花 燃えゆく
第六夜:命
川中島の戦いにおいて勝利を納めた武田軍。
武田に降るかたちで上杉謙信は生かされることとなった。
武田軍・上杉軍ともに満身創痍の中、やはり敵総大将である上杉謙信は、
あの信玄の相手をしていただけに重傷である。
同じく、後からやってきた懐刀のくのいち・かすがも重傷で、
その相手をしていただろう佐助の苦労が見て取れた。
「…これはちょっと…ねぇ?」
主力がこの状態では、山賊に襲われたりでもしたら一溜まりもないだろう。
「お館様…少々お時間よろしいでしょうか」
「むぅっ、どうした?」
そこで見兼ねたが信玄に護衛の話を申し出た。
「主が上杉軍の護衛、とな…?」
「はい。お互い満身創痍とはいえ、やはり上杉軍方は総大将の謙信公が重傷ですから。
『この間』の幸村のようなことがあっては大事。
御館様、どうかこの話、お聞き入れ下さいませんか?」
「そうだのぅ…お主の腕は儂も信頼しておる。任せてよいか?」
「御意に。有り難く存じます。」
は頭を深々と下げた。
と、そこで幸村が慌てたように声を上げた。
「姉上!それなら某も!」
「あなたはこちらに残りなさい。」
は迷うことなくスッパリとその申し出を断った。
「なっ…!何故ですか!?」
「幸村がこちらにいては、今度は武田の軍が手薄になります。
今回はお館様も負傷しておられる。
こういう時こそ幸村、貴方がしっかりせねばいけないでしょう?」
「うっ…わ、分かり申した。」
おとなしく引き下がった幸村にこっそり安堵する。
本音を言えば、は暴れ足りないのである。
今川との戦ではほとんど幸村に持って行かれ、前回の徳川との戦は留守番。
今回も結局は佐助の代打で幸村のお守り役。
力が有り余るのは仕方がないといえよう。
―上杉軍の護衛として、戦うことが無いに越したことは無いのだが。
一応、当の上杉謙信にも承諾を得、両軍は帰路についた。
―そしてその道中
特に重傷のかすがに気を使いつつ、上杉軍一行は山道を進んでいた。
「かすが殿、傷は大丈夫ですか?」
が声をかけると、かすがは困ったように謙信を見た。
「…大丈夫なのですか?かすが」
「は、はい…大丈夫です…。…っ!
謙信様…も…申し訳ありません…私は、つるぎとしての役目を……」
どうやらずっとそのことを気にしていたらしい。俯くかすがに謙信は言った。
「よいのです。生きていただけで」
「謙信様…」
涙を零すかすがに、は再度手を差しのべた。
「主君にお仕えするのも、命あってのことですから。無理しないで下さいね。
お辛いようなら、私の馬にお乗り下さい。」
「……っすまない」
「お気になさらず。さぁ参りましょう、かすが殿。
上杉軍の皆様には、一刻も早い休養が必要でしょう。」
ちなみに内心では…
―ごめん、佐助…あなたの入る余地は無さそうよ。
と謝りつつ、は護衛として、より一層気を引き締めた。
前方に浅い川が見えはじめてきた頃。
複数……いや、半端ではない軍勢の気配を感じ、は眉を寄せた。
―あの派手な軍旗(大漁旗)は……!
見間違うことなど決してありえない。
……漁師が陸に上がって大漁旗を振りかざさない限りは。
「……伊達政宗!」
は小さくその名を呼んだ。
「Hey!アンタ軍神の上杉謙信じゃねぇか!?武田との戦帰りか?
俺らも今北条をヤってきた帰りだぜ!で、勝ったか!?負けたか!?」
楽しそうな様子の政宗とは対照的に、謙信の表情は険しい。
「早々に立ち去れ!!互いに戦で疲れておろう!?」
―…危惧が現実になったわね。
は目を細め様子を伺う。
―…トクン…と一つ、心臓が大きく脈打った。
「なーに言ってんだよ。お互いすぐにヤれる状況なんだぜ!?
しかも、どうせいつかヤり合うんだ。だったら『今』ヤろうぜ今!!
抜けよ、軍神・上杉 謙信!!」
「―……」
―まずいわね……。
「謙信様!!いけません!!先ほどの戦でお怪我を…」
「退きなさい、かすが。これは、あの男との約束ですから」
前に進み出る謙信に、今度はが行く手を防ぐ。
「…殿」
「おさがり下さい謙信公。私が参ります。」
「…すまないが、私には信玄との約束がある。ここは譲って頂きたい。」
「私にも御座います……お館様との約束が。
このようなことを危惧しての護衛、どうかお聞き入れ下さいませ。」
近くのかすがに目をやり一言。
「謙信公を見張っておいて下さいね?」
と言い、無理やり下がらせ、かすがに押しつけると、は川の中に入った。
その様子を伺っていた政宗は謙信が出てこないことに対し―
「―あぁ!?」
と、眉を吊り上げた。
「おいおい、こりゃぁ大将同士の死合いだぜ?いち武将がしゃしゃり出て来んな!」
面倒臭そうに刀の切っ先でを制した。
「それは貴公に言われずとも、重々承知しております。」
「Ha!ならさっさと退きやがれ!」
苛立たしげな眼光が政宗の目にちらつく。
…ふっとが息をはき、政宗を見返した。
「―出来かねます。」
「あぁ!?」
政宗の眉間の皺が深まった。
「主との約束がございますので。この場を退くことは出来ません。」
「………」
「こたびの戦、我が武田軍に軍配があがりました。
そして主が謙信公を生かし、私を護衛に任じた。
その意味、わかっていただけますでしょう?」
「…Ha!つまりテメェは上杉じゃなく、武田の狗っつーことかよ。
だから上杉の命令は聞かねぇ、と?」
「えぇ、ですから謙信公と手合わせしたくば、私を殺してからにしてくださいませ。」
「―言うじゃねぇか!上等だっ!!」
政宗が刀を構え、戦闘態勢に入った。
「謙信公、手出しは無用です。」
再度、念を押すように謙信を振り返った。
「しかし……!」
「僣越ながら私も武田の将、主からの命は絶対です。どうかお気遣い下さいますな。」
そう言っても直槍を構えた。
「奥州筆頭 伊達政宗…推して参る!」
「武田家家臣 真田昌幸が娘、……尋常に参ります。」
―そして、激しく金属がぶつかり合う音が辺りに響き渡った。
先に動いたのは政宗の方だ。
真っ直ぐに急所を狙って来た所を、が直槍で受け流す。
「……っ!」
―やはり力の差は否めない。
正面から受ければ確実に負けると瞬時に悟った。
間を置かずそのまま反動を利用し、直槍で間合いをとった。
「…まぁまぁだな。少しは楽しめるか」
と、腰に差していた刀をもう一本抜いた。
「本来…六爪流の御仁に言われても嬉しくない、ですね」
真顔のままじっと政宗を見据えた。
しかしその表情とは裏腹に、その心は決して穏やかではない。
―何なのだろう…この高揚感は…。
あの独眼から目を離すことができない。
それを振り切るように、次はが先に仕掛けた。
左脇狙いと見せかけて右肩に振り降ろす。
「へぇ…!速いな!」
「ちっ…!」
―頬を掠ったのみか。
政宗からの反撃を退け、脇に逸れると蹴りを繰り出す。
と、今度はの右腕に刀が掠った。
―っ厄介な……!!
後ろに回り込もうとするが、政宗の刀がそれを阻む。
「さすがは政宗公…といったところですか…」
「はっ!あんたも顔に似合わず随分とじゃじゃ馬だな!」
「笑止!!」
政宗が次々に繰り出していく斬撃をギリギリの所で躱していく。
しかし、その剣圧からか、小さな切傷があちこちに作られて行く。
「こんなもんか?」
「―っ刮目なさい!……『千両花火!!』」
「―くっ…!!」
政宗が寸前のところでガードするが、属性攻撃のため微かに火傷を負い、
陣羽織の一部が焼け焦げていた。
「ちっ…やるじゃねぇか!だがその技ぁ確か…」
「『真田幸村が使っていた』とおっしゃりたいのでしょう?」
がこの場には似合わないほど綺麗に微笑んだ。
「あの子と一番最初に槍で対峙したのは私です。この技を教えたのも私。
姉ですもの、何ら可笑いことはないでしょう。答えになりまして、政宗公?」
らしくもない、挑発的な言葉が口から零れた。
「…姉弟そろって俺を楽しませてくれるってぇのかい?OK…!!Come on kitty!!」
その一声からまた切合いが始まる。
しかし長期戦になれば、が不利になるのは間違いないだろう。
だからと言ってこの男が、そう簡単に引くとも、隙をみせるとも思えない。
―ならば……。
はある覚悟をした。
直槍の構えを右斜め下に構え、真っ直ぐに政宗を見据えた。
「―…『夢幻紫火炎』」
激しい水飛沫が上がる。
「―政宗様!!」
「―殿!!」
―…川が赤く染まる。
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