きらめいて ゆらめいて



あおき夢 舞い放つ



咲き誇れ 遥か高く





第五夜:宿





―とうとうこの日がやってきた。



武田信玄が宿敵上杉謙信との因縁ともいえる戦い…



『川中島の戦い』



そう、ついこの間のこと。

今川に続き、あの戦国最強の武人と謳われる本多忠勝のいる徳川との戦があった。



その戦には出陣していなかったものの、武田軍は見事勝利を納め、ノリに乗っていた。

話によれば、本多忠勝は幸村と佐助の二人がかりで倒したらしい。



―この乱世、卑怯などとは言っていられない。



まさにそれを物語っていた。



―そして今回の戦



信玄は謙信との一騎打ちを望んだ。

にとってもそれは予想の範疇であり、敵総大将・上杉謙信もそれを望んでいるのだろう。



『宿敵』とはよく言ったものだ。



互いが互いを認め合い、負けても悔いはないだろう最高の相手。


あの二人の戦いは、総大将としてというよりも一対一、

『個人』として向かい合っているように見える。



「本当に、困った方です…」



はこっそり苦笑する。



しかし、一生のうち、そんな相手に出会えた信玄を羨しくも思う。




と、少し離れたところの木の上。

弟の世話係りが板に付いてしまった、某忍の姿を発見した。



―佐助……?



いつもならその幸村の側にいるのだが、どうも今日は違うらしい。

しばらくそちらに目を向けていると、そのの視線に気付いたようだ。


一瞬のうちにすぐ側までやってきた。



「やぁ姫さん。そんなに熱心見つめちゃってー、俺に何か用?」



―気のせいだったか?



飄々とした様子はいつもと変わらない。



「…『用』ってほどのことではないの。

 ただ…佐助の様子が、いつもと違う気がしただけよ」



じっと、は佐助の目を見据えた。



いつもなら絶対に崩さないポーカーフェイスだが、その瞳が微かに揺れたのを見逃さなかった。



「あはは、そんなことないってば〜!暇だったから黄昏てただけだけだって。

 けど、一応俺様も心配されてたなんてちょっと感激ー」


「………」



―まぁ簡単に話すとは思ってはいなかったけど。仮にも忍なのだ。



一筋縄ではいかないことは無論、百も承知である。



「…えぇ、一応心配しています。そこはいつもなら―


 『あ、やっぱりわかっちゃった?

  毎回のこととはいえ、今回の戦も旦那が突っ走りやしないかって気が気じゃなくてさぁ…。

  援護する俺様の身にもなって欲しいねぇ、全く。

  まぁそれも俺の仕事なんだけどさ、悲しいかな。中間管理職は…』


 以下省略。って切り替えして乗ってくるところですよね?」



……が佐助のことをどう思っているか、よくわかる一言だった。



「ひ、姫さん…。俺、さすがにそこまでは言わないって」



佐助は思いっきり頬を引きつらせた。



「そうですか?でも、いつもと違うのは確かなようですね」


「……はぁー…ったく、うちの姫さんには敵わないねぇ。

 いつもより気分が乗らないのはホントだ」


「上杉のくのいち、確か『かすがさん』でしたよね?」


「ゴホッ!?…なっ姫さん!その情報一体どこから!?」


「……あなたのとこの鎌之助。上司思いのいい部下ですね?

 『自分のいうことじゃ絶対聞かないから、様どうかよろしくお願いします』

 ですって。よくわってますよねぇー」


「あぁもーっ…戦前に俺様完敗」



ガクリと肩を落とす佐助には満面の笑みを浮かべた。



「私を騙そうなんて十年早いのよ佐助?

 …心配されないようにする心掛けは殊勝ですけど、ね。」


「あはは…恐れ入ります」


「だから、今回もおとなしく幸村のお守りをしてなさい。」


『………』


「……結局それが本音なわけ姫さん?……了ー解っ。」



―まぁつまり。色々と遠まわしな言い方ではあるが、無理はするな。ということだ。



その言葉の意図に気付かない佐助ではない。



「…あ、そうそう。ちなみに、ですけど。

 お館様のためにお膳立てくらいしても罰はあたりませんよ?」


「……精一杯やらせていただきます」







―そして火蓋は切って落とされた。







辺りには霧が漂い視界を阻む。



幸村と佐助は別動隊として動いているため、この本隊にはいない。

そのため、信玄の脇を山県とが固める形となっている。



「霧が立ち込めておりますな」



山県が不安そうに言った。



「これでは敵はおろか自軍の旗も見えませぬ」


「かまわん。このまま進め」



そう言った信玄の口許が、微かに笑っているのをは確かに見た。



「ワシは良い家臣に恵まれておるのう。のう山県!」


「は!?」



―作戦成功、ですか?



が佐助にけしかけた手前、上手くいったことに内心ホッとする。



―ここからは私自身が役に立たなくては。



佐助ばかりにいい格好をさせるつもりは毛頭ない。

うっすらと微笑みを浮かべ、直槍を握り直す。



「お…晴れてきましたな」



その言葉の通り、霧が唐突に薄くなっていく。



「なっ…これは…!!!!」



武田軍の真正面に突如として現れたのは、紛れもなく上杉謙信とその軍だ。



「…そういう仕組み、ですか」



は半ば呆れたように呟いた。



「―……信玄」


「こうなっては策もなにもないのう」



二人の表情が恍惚としたものに変わる。



「山県!隊はお主に任せた!!も存分に戦うがいい!」


「はっ!!」


「畏まりましてございます」



―そして…両軍が雄叫びをあげてぶつかり会う。



それと同時に、この戦を左右する信玄と謙信の一騎打ちが始まった。

















「―退きなさい!!」



の怒号と共に、辺りにいた雑兵が弾き飛んだ。



「―姉上!」


「!…幸村!!」



そこには別動隊を蹴散らしてきただろう、幸村が現れた。



「遅くなってしまい申し訳ござらぬ!」



二人は互いに背中合わせになり、敵と向かい合った。



「大丈夫よ、まだ始まったばかり!お館様のためにも存分に暴れてやりましょう!!」


「承知!!ぬぉぉぉーーぅ!!」



気合いの入った幸村が勢い良く雑兵に突っ込んで行った。



「…結局私は幸村のお守りなわけね」



佐助がここに居ない…ということはつまり、今ごろ例のくのいちと戦っているのだろう。



「これはやっぱり、佐助に貸しイチですね」



久々の戦だというのに、またしてもお守りでは割に合わないではないか。



「流石の私も、いい加減怒りますよ…!!」



そんなの八つ当たり攻撃を食らったのは当然、上杉軍の雑兵諸君である。

武田軍の一兵曰く…ご愁傷様、としか言い様が無かったそうな。


















―そして一方、注目の大将戦



速さで押す謙信と力で防ぐ信玄。

旗色の方はやや信玄が悪いようだ。



「相変わらず速いのう!」


「お前も相変わらず頑丈ですね」



呆れる謙信を余所に、信玄はどこか嬉しそうだ。



「いきますよ」



―神速!!



「くっ…!」



信玄はなんとか武器で受け止めるものの、それがいっぱいいっぱいである。



「こ…こらえきれんわ!!」



その隙を突いて、謙信の刀が信玄の脇腹に食い込んだ。



「―終わりです」


「ふんぬっ!」


「なにっ!?」


「甘いわ謙信!!」



脇腹に食い込んだ刀を腕で押さえ込み、同時に謙信の動きを封じることに成功した。



「―疾きこと風の如く!!動かざること山の如し!!」



その技は確かに謙信を直撃した。



「油断したな謙信!」


「流石、私の宿敵……」



謙信のダメージは相当なもので、立つことすらままらないようだ。



「お前になら討たれても惜しくはない。さぁ首を取れ!」



謙信の覚悟はすでに決まっているようだ。


しかし、信玄が武器を構える様子は一切ない。



「…ワシはなぁ、お主を認めておる」



真っ直ぐと謙信を見つめるその目に、偽りなどあるはずがない。



―宿敵といえど情けの心を持ち、武士としての強さにも目を見張るモノを持つ男。



信玄は一生涯の内、このような男に出会えたことを感謝さえしていた。



「―だから首はいらん!」


「…信玄っ…」



謙信の瞳が驚きの色に染まる。



「しかしなぁ、お主に勝って領土を拡げてもこの乱世じゃ!

 治めるためには甲斐一国では成りゆかん」



「…?」



「尾張の魔王などと戦になれば、さすがのワシもしんどいわい!そこでじゃ謙信!」


「な…なんだ!?」



信玄の満面の笑みに謙信が半ば焦ったように答えた。



「お主が奥州の小僧に目を配っていてくれると、助かるんだがのう…。

 頼めるかのう、宿敵よ」



―信頼、というのには少しおかしいかもしれない。



だが、その一言だけで十分だった。



「フッ…受けよう」






―川中島の戦い







 武田軍 勝利














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