離れても いつの日か 出会えると 信じてる
胸裂く想いを あなたに歌うわ 声が 聴こえる
第三夜:再
―戦が始まった。
相手はもちろん今川軍。
対するは甲斐の虎こと、武田信玄率いる武田軍。
今回の総大将は、武田信玄自らが務める気合いの入れようだった。
「―どぅおりゃあっ!」
前線で斧を振るい、次々と敵兵を蹴散らしていくのは、まさにその人。武田信玄。
「さ…さすがお館様!!」
それに感激し、続くよう槍を振うのは、紅蓮の鬼こと真田幸村。
「少しは落着いて欲しいものね……」
その二人より少し離れたところに、半ば呆れながら雑兵を斬り伏せていく。
「まぁまぁ姫さんいつものことだし、さ?」
そして同じく、苦笑しながら後方支援をするのは猿飛佐助。
常日頃からあの熱血振りを見ているおかげで、すでに突っ込む気力はない。
「慣れって恐ろしい…」
あの二人を見ていると、ここが戦場ということをつい、忘れてしまいそうになる。
しかし、とて場数を踏んだ武田の一武将。
その辺はしっかり割り切り、戦場での集中力を絶やすことは無い。
派手な二人に比べると地味に、だが確実に敵を仕留めていった。
―武田本陣
城に兵を引いた今川軍。
有利に戦況を押していた武田軍も、一度態勢の立て直しのために本陣へと下がった。
「―さあ、どう攻め入ろうかの…。奴らのの士気は下がっておったしのう…」
信玄がニヤリと笑い、幸村に同意を求めた。
「はっ!先ほどのお館様の覇気にあてれたのではないかと。
まこと勇ましゅうございました!」
拳を握り語る姿は、正に感動…という表現が合う。
「フム…では、今川に攻め入る最良策はどうか?」
「―はっ、まずは佐助を送り込むのが良いかと。
飛び道具は厄介ですから、大砲などをあらかた潰させましょう。」
―籠城は少々厄介だ。
中を混乱させる必要性があることを、言葉の裏に隠してあった。
「フム、妥当なところじゃのう。ただ攻め入り、無駄に兵を消耗させるのも惜しい…」
「―殿!!」
と、そこで兵士一人駆け込んできた。
「正体不明の軍が出現しました!!」
「正体不明…!?」
その言葉に皆一様に首を傾げる。
「して、その旗印は?」
「……いえ、それが…」
言葉を濁す兵士がボソリと言った。
「あれはどう見ても大漁旗……」と。
「うん!?」
それは信玄にも聞こえたらしい。
片眉を持ち上げ、表情の険しさが増す。
「あのフザケたナリはたぶん……奥州の伊達軍です!!!」
―…っ伊達!!?
の心臓が一度大きく跳ねた。
しかし、それに反応したのはだけではない。
当然、この間相対した幸村も表情を険しくしていた。
そして、急いでその伊達軍を確認しに行くと、
まず噂の大漁旗を目の当たりにすることとなった。
「本当に、大漁旗……」
半ば呆れるように、ポツリとが呟いた。
戦装束も確かに独特ではあるが、自分や幸村も守られるべき所が守られていない、
規格外の格好なのでそれほど驚くこともない。
―それより何より、一番目を引いたのは……
「あれが伊達の小倅か。」
―そう『伊達政宗』
「このまま三巴になれば面白いが、さあどうくる!?」
とても楽しそうに話す信玄に、はこっそり苦笑した。
この状況を楽しめるその器には、毎度のことながら驚かされる。
―しかし、だからこそ…
お館様に天下を。
そう望まずにはいられないのだ。
「甲斐武田に申す!!両軍代表一名を出し決着をつけたい!!」
―……!!!?
「獲物は今川の首!先に討ち取った者をこの戦の勝利者とする!!いかがか!?」
無謀、というか何と言うか。
無茶苦茶な提案だ。
「ぶっっ!ワハハハなかなかに面白いわっ」
「…お館様」
―…根本的に面白いこと大好きな方だからなあ……。
その反応は、予想通りと言えばそうである。
「幸村!約束であったな。行って参れ!」
「なっ!?ゆき…」
「はっ!この幸村が働きとくとご覧下され!」
―約束って…、あぁ、そういうことなのね。
この真っ直ぐな弟が、彼の瞳とその強さに惹かれない訳が無いのだ。
「…いってらっしゃい、幸村」
馬に跨がり、今川の城へと駆けて行く弟の姿を静かに見送った。
そして残された信玄と、兵士たちのこんな会話…
「…お館様、そういえば佐助―」
―ドカンっ!!
の言葉に被るように城の一部が爆発した。
『………』
「…爆発いたしましたよ…」
少々青ざめたように兵が言った。
「ハハハハハッ!佐助め、すでに潜り込んでおったか。働くのう!」
感心したように信玄が豪快に笑った。
「いつの間に……」
「姿を見掛けないと思ったら…。すっかり幸村のお守役が身に染付いてますね。
幸村の姉としては、大変助かりますが。」
頬に手を当て、が小さく溜め息をついた。
「ワハハハッ!言われて見ればそうじゃのう。佐助も何だかんだと言いつつ世話好きよ!」
「悔やまれるのは、佐助が女子じゃあないことですね。
女子でしたら、今直ぐにでも幸村のお嫁に来て貰いましたのに。」
のちょっとした問題発言。
しかし信玄も全く気にすることなく笑い飛ばす。
…ちなみに、その時今川の城の屋根裏で、佐助がくしゃみをしたかは定かではない。
「お館様!!お館様ー!!今川義元めが首、討ち取りましたぞー!!」
城から大声で報告するのはもちろん幸村。
その一生懸命手を振る姿は、やはり犬のである。
「ハッハッハッやりよるわ!さすがは幸村!
皆の者!!武田の勝利よ!!今川撃破じゃ!!」
兵たちから一気に歓声が上がった。
勝利を喜ぶ者はもちろん、幸村を褒めたたえる声も聞こえた。
「無事みたいね……」
もホッと息をつく。
帰ってきた幸村を出迎え、戦の後始末を一通り終えると、武田軍は意気揚々と引き上げた。
「姉上!お疲れではございませぬか?」
ふと、幸村がの横に馬を並べた。
「フフッ大丈夫よ。私より幸村の方が疲れているでしょう?
帰ったらお団子ご馳走してあげます。」
「本当でござるか!?」
嬉しそうに目を輝かせているその姿は、そこいらの子供となんら変わりはない。
先ほどまで戦をしていた人物には、到底見えないだろう。
「でっできれば拙者、姉上の手作りがいいでござる…!」
「うふふ、わかりました。今回の功労者は幸村ですから。
それくらいの我儘は聞いてあげましょう。」
「ううっ…嬉しいでござる!」
身体をソワソワとさせる姿は、まさに待ちきれないという様子。
「この先に、確か一件茶屋があったはず…あとで少しだけ寄って来なさい?」
「うっ…姉上、かたじけない。」
自分の考えていたことを見透かされ、恥ずかしかったのか顔を微かに赤らめて俯く。
―本当に可愛いわねぇ…我が弟ながら。
そんなことを思っている私も重症ですね、と苦笑しつつ空を仰ぎ見た。
―遠目ではあったけれど…。
確かにもう一度、この目にあの男の姿を捕らえた。
―…何故、こんなにも気持ちが高揚するのだろうか。
この時の私は、まだ…その答えを持ち合わせてはいない。
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