静寂に 落ちる 空 ひとひらの 夢花火
彼方に 旅立つ あなたも 見えたの 同じ光が
第二夜:鮮
幸村、佐助、が揃ったところで、3人は縁側に並んで座った。
「…ところで、佐助織田の様子は?」
が思い出したように口を開いた。
対する佐助の表情は一瞬だが曇る。
これはついこの間、が独自に小耳に挟んだ情報なのだが…。
「風の噂だと……」
「美濃を落としたってよ。」
―やはり…とは眉間に皺を寄せた。
「早かったな。」
「…そりゃ早ぇだろ。焼き討ちだってよ、町ごと全部!」
幸村のみつ豆を食べる手が止まる。
「…非道いな。」
「あぁ……!?マ…マズッ甘っっ!!」
お茶を口にした佐助がうえっとお茶を吐き出した。
「……幸村」
最悪なことに、も丁度口にしていた。
「ああ、茶に砂糖を入れてみた。」
「バカだろアンタ!!マズイわっ」
「……育て方、間違えたかしら。」
「―ってそうじゃなくてさ!!」
すかさず突っ込む佐助に拍手を送りたい。
「本題は…、国境辺りでいやーな動きがあるんだ。」
幸村とがピクリと反応する。
「今川か…」
「あぁ、あの公家ヅラですね。」
「今すぐってわけじゃねーんだろうけど…動いてるぜ。どうする?」
「……調べておく、か。」
不安要素は少しでも減らしておくべきだ。
「もちろん私も行きますからね?」
「あ、姉上!」
「止めても無駄です。」
見慣れたその光景には、佐助も笑うしかない。
とりあえず落ち込む幸村の肩に手を置き、一応慰める。
「まぁ旦那、気にするだけ損だって。姫さんも言い出したら聞かないし…」
「佐助……」
「あん?」
俯いてた顔を上げ、幸村の口が紡いだ言葉は…
「醤油せんべいが食べたい。」
先ほどの落ち込みようはどこへやら。
みつ豆を5杯平らげ、しょっぱいものが欲しくなったらしい。
「知らんわっ!!」
―あーそうだよ、旦那はこういう奴だよ。
と佐助が深く溜め息をついたのを、幸村は不思議そうに見つめていた。
もちろん、落ち込んでいた幸村を尻目に、意気揚々と準備をしに行ったも、
当然のことながら知ったこっちゃない。
―月夜が辺りを照らし始めた頃。
3人は森の中を歩いていた。
「今日は月が綺麗ね……」
が夜空を見上げながら呟いた。
「だねぇー。
ホント今川軍が怪しい動きなんてしてなけりゃぁ、月見と洒落込むんだけど…」
―ざぁんねん。と佐助も夜空を仰ぎ笑った。
「うむ…某も月を見ながら餅が食いたかったぞ。」
「…はいはい。旦那は花より団子でしょう。」
真剣に頷く幸村に、佐助は頬を掻く。
そのやり取りに苦笑しつつ、は軽快に歩いていく。
「ところで姉上、先ほどから気になっていることが。」
「なぁに?」
先を歩くを幸村が呼び止める。
「その…その格好は一体?」
の纏っているものを指しながら、至極真面目な表情で聞いて来た。
「あぁ、これね?」
―現在が着ているもの。
それは町娘が着るような藍色の小袖。
「似合わないかしら?」
「いえっ、そうではなく!」
「あーつまりさ。
旦那が言いたいのは『偵察に来る格好にしては軽装過ぎやしないか?』ってことだろ?」
口下手な幸村に代わり、佐助が簡略に代弁をした。
「あ、それはですね……」
がほほ笑んで説明をする。
「私は女ですから、下手に武装すると怪しまれます。
なのでここはあえて軽装で。
あわよくば今川の兵からうまく情報を引き出せないものかと。」
さらりとその意図を明かし、言葉を続けた。
「今日は戦うのではなく、あくまで情報収集。臨機応変に対応したまでです。」
「あ…姉上…!」
幸村が焦ったように声を上げる。
「あー旦那、もうちょい静かに。今川の奴等に気付かれちまうよ。」
「佐助の言う通りです。静かになさい。」
言いたいことは山程あるが、ここに訪れた目的を思い出すと黙るしかない。
「うっ…佐助め裏切りおって…」
幸村が恨みがましい目で佐助を見た。
「旦那ー。要はさ、姫さんがそんなことしなくてもいいように、
ある程度の情報をその前にしっかり手に入れれば良い話だろ?」
「ぬっ!なるほど。」
「ってことで、機嫌直してね?」
幸村の扱いはお手の物。
あまりに単純な幸村に苦笑しつつ、もう一度月を見上げた。
そんなこんなで。
一行は周囲に気を配りつつ、静かに歩みを進めていた。
すると…
「空気が変わった。」
が静かに呟いた。
「―誰かがやりあっている。」
幸村も足を止め、そこですかさず佐助が地に耳を傾けた。
「…数はおおよそ二百五十」
―多い、と3人は顔を見合わせた。
「ここだとやはり今川軍?」
「こんな夜中に誰とやってるんだか…」
と佐助の顔付きが。険しさを帯びる。
「変だな……行くぞ。」
平常時とは違う幸村の変化に、二人も無言で頷く。
武田信玄の臣として轟かせている『紅蓮の鬼』
その名に決して恥じぬ力と覇気をたった今、正に感じているのだから。
一人猛然と突っ込んで行った幸村を追いかけ、着いた先。
そこには予想していた通り今川軍がいた。
そしてそれを相手にしていたのは、人数にすればたったの2人。
「…情けないことこの上ないわね、今川軍」
そのせいか、は一気にやる気が削がれてしまった。
傍観を決め込んで、木の陰に隠れるように寄り掛かる。
先ほどまで一緒だった佐助も、同じく木の上から傍観しているようだ。
「それにしても…」
幸村は当然のことながら強い。
雑兵では全く刃が立たないのも当然だ。
―しかし、もう一人。
襲われていた二人のうちの、隻眼の方の男。
幸村と同等…いや、それ以上かもしれない覇気を煌々と放っていた。
「……強い」
その表情には笑みさえ浮かんでいる。
そう、それはまるで本能を体現しているかのよう…。
は無意識のうちにその姿に魅せられていた。
ようやく今川軍を一掃し終え、幸村が彼に話しかけようとした。
その時―
なんの前触れもなく、幸村に刀の刃先が向けられた。
その行動に幸村はもちろん、や隻眼の男の連れであろう男性でさえ驚いた。
―何を考えて…!?
咄嗟にだが、男の表情を確認しようと隻眼を見た。
その瞬間―
…ゾクリ、との背筋が震えた。
―あの目、見たことがある…。
いや、正しくは似ているのだ。弟・幸村が戦場に立つ、その時の目に。
「あの男は一体、何……?」
偶然だが、のその疑問に答えるように男が名乗りを上げた。
「俺は奥州筆頭・伊達政宗!!天下を望む武人なり!!」
―あの男が…!?
は思わず目を見張った。
現在は両手に3本ずつ刀を握り、幸村と対峙している。
先ほどの今川軍に対してはたった1本で応戦していたが…。
―つまり。
彼にとって先ほどの軍勢は全力で相手をするほどの敵ではなかった。
ということなのだろうか…。
「……蒼い…竜……」
は無意識にポツリと呟いた。
幸村とは確かに似ている。
が、しかしその属性、質は対極にあるように見えた。
少しして、二人のやり取りは佐助の制止によって中断された。
二人はあっという間に去り、その影も見えなくなってしまう。
……そして、ようやくは木陰から姿を現した。
「―さてと、俺らも帰ります?」
へらりと佐助が笑みを浮かべる。
「うむっ!急ぎお館様にご報告せねばならぬな。」
―それはもちろん、今回の目的である今川軍の動向について。
しかし、他にも思うところがあるようだ。
幸村はその手にある槍を一度、強く握った。
「………」
「―姫さん?」
一言も言葉を話さないを不審に思ったのか、佐助が振り返った。
「…そう、ですね。帰りましょう」
先ほどの喧騒とは裏腹に、静かに言葉を紡ぐ。
「これから慌ただしくなりそうだ。」
二人はそれに頷いた。
「伊達…政宗…」
―その呟きは、一体誰のモノだったのだろうか…?
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