ACT6:実力








 「おどれーた…。

  どーゆーつもりか知らねーが、てめーがこんなトコにいるなんてよ。

  水鏡凍季矢!!」




 花菱たち3人は、助けた水鏡を見た。




 一番後方に控えて居るは、その様子を黙って見守ることを決め込み、

 気配を消して壁に寄り掛かった。





 「しかしあれ程オレを敵視してた奴に助けられても、複雑だ!

  素直に礼が言えん。」





 その言葉には一人苦笑した。




 ―正直だね…花菱君。




 確かに人間、そう簡単に割り切れるものではない。





 「礼などはじめから期待していない、気にするな。

  別にお前らを助けるために来たわけでもないしな。


  『サル』『ゴリラ』『シーモンキー』


  動物愛護の精神だよ。」





 一人一人の顔を見ながら鼻で笑う。


 どう見ても馬鹿にし、見下しているようにしか見えないだろう。




 ―…凍季矢、あなたって…。




 も何とも言えずに肩をガクリと落とした。




 「ぶっっ殺すっ!!」




 風子が激怒し、土門がそれを抑える。


 花菱にいたっては床に突っ伏して撃沈している始末だ。




 ―これは放って置くとろくな事にならないんじゃ…。

  …というか、本当に洒落にならない気がする。




 本末転倒になりかねないと、が壁に預けていた背を離し、数歩前に出た。





 「―――!!」





 先程の少年が水鏡を死角から狙い攻撃を仕掛けた。



 しかし、水鏡はそれを難なく防ぎ威嚇する。





 「去れ!殺すぞ。」




 ―完全な死角を狙う少年も少年だが、それを防いだ水鏡もかなりの腕前だ。




 「あんただね。」


 「?」





 少し間を置いて発せられた少年の言葉の意味がわからない。





 「―柳姉ちゃんの言ってた『強くてかっこいいナイト様』って…兄ちゃんだね!?」




 ―柳ちゃん、そんなこと言ってたの…。





 はそのことをこの少年に話している姿が容易に想像できた。



 その場にいる少年以外の者は皆、それが烈火であることがすぐにわかる。

 が、しかし、それを知らない少年の見当違いな発言に、

 一同はリアクションに困った。





 ―まぁ確かに、花菱君はナイト様って柄じゃないけど…。





 ちらりと花菱を見た後、見比べるように水鏡の方を見た。


 と、ばっちり目が合いは一瞬怯んだ。





 「…さあね。」





 水鏡は不敵な笑みを浮かべ、挑発するように返事をした。



 しかしそれは挑発以外にも他の意味があるようにも取れる。

 はまた、ついつい顔を赤らめてしまった。





 ―重症かも…。




 「そこは否定しろ!」





 花菱が水鏡の意味深な発言に対し怒るが、当の本人はしれっとしている。





 「肯定しなかっただけいいと思え。第一お前に怒られる筋合いはない。」





 と。しかし、にとっては正直意外だった。



 今までの言動や行動ことを考えると、

 もちろん肯定するものだとばかり思っていたからだ。





 「遠慮…したのかな?」





 ―しかし、凍季矢に限ってそんな殊勝な思いやりがあるのだろうか?





 一人悶々と悩みつつ視線を下に下ろせば、今度は小さな女の子と目が合った。





 「…お姉ちゃんだぁれ?」





 この場には不釣り合いなほど幼くかわいい少女に、は少々戸惑った。





 「わ、私…?私は、。花菱君たちと同じ学校の友達なの。

  歳は彼らの一個上。あなたは?」




 そう聞き返すと、その子は一瞬言葉に詰まるような仕草をしたが、

 ポツリと言った。





 「…森川、願子」


 「願子ちゃん、ね?願子ちゃんは、どうしてここに…?」




 すると突然今にも泣きそうな顔になり、手元で何かを握り締めて俯いた。




 「…ごめんなさい」


 「え…?」




 その言葉の意味をは理解することができなかった。




 ―自分が何か悪いことをしただろうか。




 考えてはみたが、そのようなことはしていないはずだ。と再び思い直す。




 どうすべきか迷い、とりあえずしゃがみ込んで視線の高さを合わせた。




 すると、手の中に握り締めている物がちらりと見えた。






 「それは…」





 の表情が一気に強張った。





 「貴女みたいな幼い子が何故それを…」





 それは水鏡の閻水と同じ、火影『魔導具』に違いなかった。





 ―私はこの魔導具を知っている。

  これは確か糸で操る…。





 はしばらく思考を巡らせ、とあることを思い付いた。





 「願子ちゃん、ちょっとこれ貸してくれるかな?」





 それに驚くように願子が顔をあげた。





 「でも…」


 「心配しないで。終わったらちゃんと返すから。

  だから、その代わりにこれを持ってて。」





 そう言って差し出したのは、

 深紅色を宿した小さな玉がいくつも連なる綺麗な簪だった。





 「私の大切な人から貰った物なの。…お守り代わりにお願いね。」





 願子の頭を優しく撫でると、はゆっくりと立ち上がった。







 水鏡たちの方を見れば話しは一段落着いたようだった。

 水鏡も丁度こちらの様子を伺うようにちらりと見て口を開いた。





 「早く行け」


 「お前は?」


 「3匹の子猿の援護をしてやる。」




 ―素直じゃないな…。





 と苦笑しながら重い腰をゆっくりと上げた。





 「…凍季矢」





 が願子の背中を押して先を促す。


 そしてゆっくりと水鏡の元へと歩んで行き、その隣りに立った。





 「―!!」


 「来てたのか!?」


 「全然気付かんかった…」





 上から花菱、風子、土門の順。


 気配を消していたので気付かなくても当然なのだが、

 なんだか物悲しい気がするのはだけだろうか。





 「もちろん来るに決まってるでしょう!

  …3人とも、私を置いて行ったこと許さないわよ?」





 その言葉に3人は弁解する余地もない。



 バツが悪そうな、そんな気まずいオーラを放つ彼らの様子に、

 は数拍置いてから小さく吹き出した。






 「冗談よ!そんなに深く思い込まないで。

  ―とにかく、こっちは任せて。花菱君たちは早く柳ちゃんを。」



 「は一緒に来ないのか?」


 「えぇ、後から一緒に追うわ」


 「…わかった。サンキュ…二人共」



 「誤解するなよ、柳さんのためだ。

  礼ならここの事を教えてくれた影法師に言え。」






 素直ではない水鏡にまた苦笑をしつつも、

 4人を見送ると水鏡がこちらを振り向いた。





 「行かなくて良かったのか?」



 「とりあえずは、ね。こっちを見届けてからでも大丈夫でしょう?」





 は笑顔で同意を求めた。





 「…下がっていろ」





 逆らうこともなくは壁際まで下がった。


 と、少年が驚いたように声を上げた。





 「あれ、姉ちゃんは行かないの?」




 無邪気に聞くその姿は、先程完全に死角を突いた精鋭には到底見えない。





 「私はここで見届けるだけだから気にしないで。手出しは一切しないから」



 「了〜解っ!」





 ニコリと微笑めば、嬉しそうな返事が返ってくる。





 ―願子ちゃんといい、この子といい…。






 何故このようなまだ幼い子供達を戦いの中に置けるのか、

 には理解出来なかった。












―そして、水鏡と少年による戦いが始まる。














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