ACT58:行動が導き出す真実を








 「……嬢ちゃんな。本来なら転校するはずやったんですわ。

 でも柳の嬢ちゃんと同じ高校通うために、兄ちゃんに無理言って一人で残ったそうや」


「柳と同じ高校通うため?」

「そういう約束をしたって、ワイは聞いとります」

「本当?」

「うん……行けたらいいねって私が言ったこと、あるよ」



柳は申し訳なさそうに頷いた。

がそんな無理をしていたことを知らなかった。

それだけに、自分の何気ない一言での人生を左右していた事実が、重たくのしかかったのだ。



「そう、なんだ」


「ワイから言わせますと、嬢ちゃんは友達を売るような子やない。

 紅麗さんへの忠誠心も確かなもんやけど、元々はめっさ優しい良い子です」


「――だよね。じゃないと柳姉ちゃん助けるために乗り込んでなんか来ないよね」

「あ……そっか」



その時は敵として対峙した小金井が笑って付け足した。



「あれ、ちょっと待ってよ。、柳を攫ったのが紅麗だってこと知らなかったのか?」

「そういえば」



今更ながらその事実に行き当たる。



「俺さ、結構小っちゃい時から紅麗のところに居たけど、

 姉ちゃんが麗のメンバーだって知らなかったんだ。

 しかも予備軍って言ったら俺と同じだし、会わない方が不自然なんだよね。

 十神衆の雷覇や音遠はしょっちゅう見かけたのに、姉ちゃんは一度も見たことないんだ」


「ああ、そらしゃあないですわ。

 嬢ちゃん、中学上がる少し前から紅麗さんの傍に一度も寄り付かんかったですし」


「何で!?」

「それはワイの口から言っていいことじゃあらへんので、堪忍してください」

「……なんだよそれ」

嬢ちゃんにも色々あるっちゅうことです」



納得いかない表情をしている面々を余所に、柳は力強く言葉を発した。



「――私は信じてるよ」

「柳……」

「何があっても、私はちゃんを信じてる。だって、親友なんだもん」

「姫……」

「言えないことは誰にだってあるよ。だから、私にできることはちゃんを信じることだよ」

「しゃあねぇなぁ……」



土門が頬をかきつつ、呆れたように笑った。



「俺も信じるぜ。納得したわけじゃねぇが、柳の大切な友達なんだもんな」

「私ものことは嫌いじゃないよ」

「姫が言うんだから間違いねぇ!」

「俺も信じてるよ」



互いに微笑んで頷き合った。

単純過ぎるかもしれないが、不服はない。そう、自分たちで決めた。



を受け入れると





















準備に一段落が着いたところで、烈火がふと顔を上げジョーカーを見た。

そして意を決したように口を開く。



「――ジョーカー、知っていたら教えてほしい。紅麗は……死んだのか?」



烈火は改まった真剣な顔で問うた。

一方、少しの間を置き、ジョーカーは僅かに俯くと重々しくそれに答える。



「今、紅麗さんを中心とした『麗』と言う部隊は……無うなったといってええ。

 裏武闘にて戒、幻獣朗、磁生……三人の十神衆が死亡。

 木蓮を中心とした兵隊達も、ほとんど裏麗に寝返りました。

 そして最悪なんは、姿を見せへんかった十神衆二人のうち一人が、

 裏麗の首領として君臨しとることや!」



―男の名は“螺閃”



「螺旋についてはワイもよう知らん謎の男や。

 あの人は麗を失ってしもうたけどな……命は失っとらんで!! あの人が死んでたまるかい!!」



飄々としていたジョーカーが感情を露に断言してみせた。

直後、ハッとして柄にもないことをしたと笑ってごまかしていたが……

紅麗を慕い、信頼しているからこそ感情的になったのは明らかだった。



「――あと、ここだけの話ですけど」

「何だ?」



少々話しを逸らすようにジョーカーは付け足した。



嬢ちゃんの兄さんの雷覇さんな。決勝戦の途中で姿を消して行方知れずなんですわ。

 音遠さんは紅麗さんを助けるために、自分も海に落ちた」


「雷覇くんが?」

「音遠……」

「そりゃぁ、また」



麗は壊滅的な状況だった。

それは火影の面々が思っていた以上に。



「ワイにも原因はわからんのです。

 嬢ちゃんの話しによると、雷覇さんは裏武闘殺陣の途中でトイレやとかいうて

 いなくなったらしいんですけど」


「行方知れずって、じゃあアイツ――」


「内心、いっぱいいっぱいやと思います。

 少し前よりは大分マシになった方ですけど、精神的に辛い状況なんは何も変わっとりませんし」


「何でそんなことに……」



その疑問にジョーカーは憎悪を込めた声で答えた。



「すべては“森のせい”としか言いようありませんわ。

 ……だから少しでも心労減らしたろ思って、連れてきたんですけど……」



先程まで居た部屋の方角へ思いを馳せるように、視線を向けた。

―大丈夫やろか?そんな声が聞こえてきそうな表情を浮かべていた。



「大丈夫です!きっと上手くいきます」



それに対していち早く事情を察した柳が笑顔で返した。



「水鏡と二人にさせることと何か関係あんのか?」



気持ちは理解できるがその行動の意味がわからず、烈火が眉を寄せた。



「烈火さんニブチンですなぁ。実際どうなんかは知りませんけどあの二人、

 ワイらが話してる最中もお互いメッチャ意識しまくりやったやないですかな」


「んなっ!そう、なのか!?」

「確かに、裏武闘殺陣のときからそれっぽい感じのはあったよね」

「みーちゃんって意外と思ったら一直線だから、わかりやすいんだよねぇ」

「お、おい、いつの間にそんな展開に!?」



驚く烈火を尻目に、他のメンバーは思い当たる節を次々に挙げていく。



「決勝戦前に会ったときだっていい雰囲気だったじゃんか」

「俺たちが邪魔しちゃったんだよね」



ジョーカーは確信を持って大きく相槌をうった。



「やっぱし間違いないようや……あ、話が逸れてしまいましたけど、

 別に同情誘って〜ってわけで言ったんとちゃいますで。

 少し大目に見てくれると助かりますいう話ですわ」



ジョーカーはニカッと笑い、火影のメンバー全員を見回した。



「話はわかった。けど、何でジョーカーがそこまで気にするんだよ?」


「そらなあ?嬢ちゃんに万が一のことがあった場合は、

 あのヒトらに代わってワイがシバき倒さなあかんからです」



それが当然のことのように断言してみせた。



「ワイと嬢ちゃんの付き合いの長さなんて烈火さんたち以下です。

 けど、ワイの知人にそれはごっつぅ嬢ちゃんを可愛がってるおヒトが居りましてなあ。

 “くれぐれもよろしく”言われてますんで、ワイ個人の損得も含めほっとかれへんのですわ。

 まあ何より、嬢ちゃんには他にもこわーい保護者さんが仰山居りますしなあ……

 何気に責任重大な役、任されてるんです」



「“こわーい保護者”ねぇ?」

「いや、冗談やないですって!」



彼らが誰の顔を思い浮かべているのか知らないが、ジョーカーが知る限りでも4人以上いる。

傍目から見る限り、怖い保護者となると音遠が筆頭としてあがるだろう。

幼なじみの彼女のことは知らないだろうから除外するとして。

彼らは紅麗がそこに入っていることなど夢にも思わないだろう。

そして最後に“怖い”イメージとは程遠い雷覇だが、実は誰よりも彼が一番怖いということも。



「前門の虎後門の狼どころか、四面楚歌やないかい」



―ビシッ!とツッコミを入れてみるが、現在の状況が変わるわけではない。

にもしものことがあった場合は絶対絶命ということは確定事項で――



「今更ながら、笑い事やありませんなぁ……」



一人言を呟くジョーカーを余所に、再び水鏡との関係について

盛り上がりを見せる火影のメンバー。

「一緒に顔見せたら冷やかしてやろうぜ!」「だ、駄目だよっ!」

「じゃぁキスしたか賭けようぜ!」「どうやって確かめんのさ?」「本人に聞く?」

「アンタ、みーちゃんに斬られるよ?」「それこそ命がけだね……」「やっぱり……?」

そこから少し離れたところで、ジョーカーの引き攣ったような笑いが虚しく響いた。





―絡んだ糸は、絡んでいても繋がっている



絶対に切れていないことを信じている。

今は、それでいい。



いつか、絶対に解いてみせるから。













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