ACT41:幼き戦士
「にゃろ…っ!」
鋼金暗器を素早く変形し、次々に攻撃を仕掛けて行く小金井。
しかしジョーカーの『レベルUP』という言葉を聞いてからというもの、
その攻撃が悉く失敗していた。
そして、小金井自身の動きにもどこか迷いがあるように見えた。
何度か手元の鋼金暗器を不思議そうに見ることがある。
端から見ている分には、武器の不調か、または攻めあぐねているように見えるだろう。
―しかしそれにしては、何かが可笑しい。
それは直感としか言いようがないが、確かな違和感が間違いなくあった。
―何だろう……何なのだろう一体……?
思考に耽っている間に、小金井がまた攻撃を仕掛けた。
「おサルさんですなあ。同じ事やっとってもしゃーないんに。」
弐之型『龍』の鎖鎌がジョーカーを襲うが、余裕の表情でそれを受け止める。
―しかし、その間も小金井は動いていた。
拳ほどの大きさに砕けたリングの石を鷲掴んで、ジョーカーへと投げたのだ。
「え……?」
「おりょ!?」
「石が…っ、浮いてるーーっ!?」
その光景にも目を見張った。
「そういうことだったんだ……!」
「ちょっ!何よ、アレ…!?」
「音遠、あれがジョーカーの能力ということですよ。」
―魔導具『帝釈廻天』
「……バレちゃいました?」
ジョーカーが浮いていた石をポイッと投げた。
「おまえの力は怪力じゃない!本当の能力の正体は…『重力変化』だ!!」
その言葉に、納得いったと、もコクリと頷いた。
「昔、聞いたことがあります。重力を操る魔導具が存在するという話を」
「じゃぁ、あの三つ叉の矛は……やっぱり魔導具?」
音遠の言葉に二人は黙って頷いた。
一方、リングでは小金井が勢いよく駆け出していた。
「おかしいと思ったんだ!いくらおまえが強そうったって……
その体でJキーパーの一撃を軽くいなせるわけがいからね!!」
「へへえ♪ビンゴや!!」
答えに行き着いてくれたことが嬉しいらしく、ジョーカーは愉快そうに笑った。
そして、帝釈廻天の矛先が小金井へと向けられる。
「うあああ!!」
半透明な球体が小金井を一瞬にして包みこんだかと思うと、
叫び声と共に、小金井の体がリングへと叩き付けられた。
「さすがや小金井くん!!ん〜ナイス♪よっしゃっ、ごほーびに教えたる。」
リングに手をついたままの小金井を見下ろしながら、
ジョーカーが相変わらず楽しそうに話し始めた。
「魔導具『帝釈廻天』!強いでぇ!相手の攻撃の『重み』をゼロレベルまで下げたり……
今のキミのように倍くらい重くしてやったりもできるんや!!」
―帝釈廻天の力を受けるのは限定された時間、限定された一定空間のみ。
いわば一時的な重力の結界を作る。つまり、ジョーカー自身は重くならない。
魔導具の中でも、の『鉄鋼線舞』と同じくらいか、
それ以上に扱いが難しい部類のものだ。
ヨロヨロと立ち上がる小金井は、睨み付けるようにジョーカーを見据えた。
「―なんで最澄を斬った!!」
「『最澄』……?」
「確か、火影の一回戦の相手チームにそんな感じの名前の人がいましたね。」
も少しだけだが、話した記憶がある。
―火影の面々に別れを告げに行ったときのこと……
女の子と見間違うばかりに整った顔立ちをしており、
武芸を嗜むとは思えないほど華奢で儚い印象を受けた青年。
火影には居ないタイプの人間だったが、小金井とはとても仲が良かったのだろう。
―その彼をジョーカーが斬った?
一体何のために……?
「おまえは!!紅麗に“オイラを斬れ”って命令されてたんだろ!?なんでだ!?」
「手もとが滑ったんですぅ♪め・ん・ご☆」
「ふざけんなァーーーっ!」
怒りの形相で小金井がジョーカーに襲いかかった。
「うひゃっ!」
「おまえは……倒す!!」
それは、どこか余裕の無い表情だった。
―それから、かなりの時間が経過した。
小金井はジョーカーの重力場を攻略することができず、決定打を入れることができない。
「……らしくないですね。」
思わず、雷覇がそう口に出していた。
「らしくないって、どっちが?」
「薫くんでしょう?」
は前に、紅麗の館で水鏡との試合を見たことがあった。
今回を入れても3回目くらいだが。
―確信はなかったけれど……
「元来、小金井は子供ゆえ戦闘時にもその無邪気さが現れます。
死と隣り合わせの時すら、どこかに遊び心が出てしまう。
それはいい意味での戦闘の『余裕』となっていた。」
―紅麗が目を掛けていた子供。
雷覇もそんな彼を昔から知っている者の一人だ。
「鋼金暗器は複雑な、パズルのような魔導具です。
それを楽に組むように、戦法も本能的に組んでいたのでしょう。しかし……」
「今の小金井に、その余裕はない?」
音遠が言の葉の先を読んで言った。
「負の感情が、薫くんの『らしさ』を見失わせているのね……」
―凍季也のときと同じように。
紅麗が何を考えているか、またジョーカーの意図もわからないまま。
「持久戦は、小金井にとって不利。」
「このまま潰れちゃうのかしら……?」
それほどに戦況は、良いとは言えなかった。
「参之型…っ、大ばさ……!!?」
小金井が珍しくも変型に失敗したらしい。
その隙を見逃さず、ジョーカーが重力場を張る。
「重力結界!!+(プラス)!!」
「ぐっ…くそっ!」
リングに叩き付けられまいと鋼金暗器を突き刺し、その上で踏ん張る。
「気迫がカラ回りしとった……それが敗因でしょーなァ。
そろそろ自分も疲れてきましたんで……サイナラの時間や。アデュー♪」
ニカッと笑ったジョーカーは帝釈廻天を握り直した。と……
―ガコッ!!
「!?」
「あんぎゃああぁあっ!」
いきなりジョーカーが悲鳴を上げ、地面にのたうち回った。
鈍い音がしたということは、何かがジョーカーに当たったのだろう。
しかしあまり大きなものではなかったためか、観客席からでは
それを肉眼で確認することは出来なかった。
「これは――鶴…折り鶴が…強められた重力で…」
『!?』
審判が、リングに転がった小さな物体をその手で拾って言った。
―つまり、ただの折り鶴が不可抗力ではあるが自身の能力によって凶器と化し、
自滅したようなものだ。
「――朝比奈の……紋を銃ずつ十よせて…百人力の鶴の紋なり!」
観客席へと通じる入口の一つ。そこに立つ人物は……
「最澄ぉおおぉおお!!」
「あれが?」
「ご無事だったみたいですね。」
思わぬ人物の登場に会場もザワめく。
事情はよくわからないが、小金井の憂いはこれで晴れたらしい。
「ということは……」
「よっしゃ!いっくぞーーっ!!」
元気のいい声が、会場に響き渡る。
―そう、火影の……否、小金井の反撃がこれから始まる。
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