ACT3:噂
ここ数日の間、また新たに知ったことがあった。
数週間ばかり前に知り合った花菱烈火。
彼が柳の忍になったということ。
そして何が原因かは知らないが、
つい先日今度は全く柳に関わらなくなった…と。
正しくは花菱が柳を避けているらしい。
―一体どうなっているのだろうか…?
のいない間に話が進み過ぎていて頭が追いつかない。
―花菱君が一方的に避けているのなら、
柳ちゃんに聞いても埒が明かない…。
なら…
「強行手段にでましょうか」
―柳ちゃんが傷ついているのは確かだから・・・・・・
1年生の教室に向かうと花菱の姿は既に無く、
話によると屋上へ行ったらしい。
先程、柳が何故か水鏡と連れ立って歩いているのを見てから、
嫌な予感がしてならない。
屋上に辿り着き勢いよく扉を開けると、
そこには目的の花菱と大柄な男が大の字で転がっており、
頭上のタンクの所には女がいた。
「花菱君、少しいいかな?」
口許は笑っているが目は笑っていない。
…が怒っているとき、特有の表情を浮かべていた。
「あんたは…!」
「誰この女?」
「美人さんだ…!!」
上から順に花菱・女・男がそれぞれに反応を見せた。
「…柳ちゃんのこと、一体どういうつもりなの?」
あえて口うるさくは言わない。
言い訳ではなく、本心が知りたいのだから。
「どうって言われても…」
いきなりのことに花菱は困惑している。
その様子には拳を小さく握った。
「柳ちゃんを悲しませて、あなたは何をしているの?」
真っ直ぐに花菱を見る視線には、半分彼を見下す冷ややかなものが含まれてた。
花菱は、少々返答に困りながら言葉を選ぶように話しはじめた。
「俺は…佐古下、姫の忍になるって決めた。
なのに…それを一度、俺の勝手で投げ出そうとした。」
「つまり簡単な覚悟で忍になって、柳ちゃんを傷つけた…
っていうことよね?」
花菱は頷きそれを肯定した。
「あぁ。けどこの二人、風子と土門のおかげで目が覚めた。
俺は姫に謝りに行く!!」
決意を宿したその目に、陰りは見られない。
はゆっくりと近付きもう一度聞いた。
「覚悟はあるの?」
「あぁ!」
するとは右手を振り上げ花菱の左頬を思いっきり叩いた。
しかしそれは限り無く殴るに近い威力で、花菱は再び床に転がった。
「これは柳ちゃんを悲しませた分。…二度目はないから!」
満面の笑みでそう言うに、花菱は頬を押えたままあっけにとられていた。
同じく他の二人も目を見開いてを凝視していた。
「柳ちゃんたちは遊園地に行ったみたい。早く行ってあげて」
それに花菱は大きく頷くと、勢いよく立ち上がった。
「サンキュー!めっちゃ効いたぜ!!」
そう言うと疾風の如く走り去っていった。
そして残されたのは3人。
土門は少々怯えた様子でを見ており、風子はどこか楽しそうだ。
「綺麗な顔してヤルことは大胆だねぇ〜。
烈火を吹っ飛ばすなんてマジ最高だけど!
風子ちゃん気に入っちゃった☆」
風子がタンクのところから飛び下り、の前に降り立った。
「はじめまして私は霧沢風子!」
突然の自己紹介には目をしばし瞬かせたが、はっとして返事を返す。
「はじめまして私は。柳ちゃんとは中学時代からの友達なの。」
それに風子は納得するように頷いた。
「なるほど!そりゃ烈火を怒りたくもなるわ。
まぁよろしく!ちなみに後ろのは腐乱犬…」
「風子様ヒドい…」
その言葉に落ち込む土門。
も苦笑しながら挨拶をした。
「土門君、だよね?
今年の1年生の中でも花菱君たち3人は有名だから知ってるよ。
私のことはでいいから。」
その言葉に土門は照れたように頭をかいた。
「私のことも風子でいいよ♪」
「了解!風子」
場が和んだところで風子は本題に入った。
「―で、水鏡とやらは柳と遊園地に?」
「えぇ、早くあとを追った方がいいかもしれない…。嫌な予感がする。」
「…も?こりゃマジにヤバイかもね。
あの水鏡とか言う奴、なんかやばい奴っぽいし…」
3人は顔を見合わせると、一斉に屋上から飛び出した。
「風子!土門君!早く!!」
「ちょっ早いっ…!」
「ぜぇはぁ…」
全力疾走し、3人は遊園地に辿り着いた。
「…、あんた化け物?」
風子と土門は息切れをしているが、は呼吸一つ乱れていない。
「日頃から鍛えてるから、ね?」
決して風子や土門の体力がない、というわけではない。
どちらかと言うと平均よりだいぶある方だ。
それはつまり、が尋常では無い鍛え方をしている、ということだが、
今はそちらに気をとられている暇はない。
「一体どこに…」
周りを見回していると、気になる話しをしている二人組がいた。
「ねぇ、なんかミラーハウスの方で大きな音しなかった?」
「あそこ今日閉まってたぜ。何か工事でもしてんじゃない?」
『!!』
「土門、。」
「ほいさぁ!」
「行こう!」
少し走ると、すぐにミラーハウスが見つかった。
―確かに何か音がする…。
工事中の看板を無視し、中へ入ると案の定花菱たちがいた。
「あっ、いたじゃん花菱!!どーやら決着ついたみてーだな。
おーい!はな…ぐふほぉ!!」
「まだだよ土門っ!まだケリはついてないよ。」
風子が土門を殴りその行動を制止する。
静かに様子を見守るが、花菱・水鏡両者の怪我は酷い。
なんとか花菱が勝った、というところだろう。
水鏡が負けを認め、花菱の好きにするように言った。
と、花菱が取り出したのは手裏剣。
「なんちゅー物騒なモン持ち歩いてんだ!!」
「黙ってみとれ!!」
騒ぐ土門をまた風子が制し、花菱の様子を見る。
「いっくぜぇぇぇーーー!!」
手裏剣を振りかぶり切ったものは…、水鏡の長い髪だった。
「姫の髪の仇それで許してやらぁ!!
今度何かしやがったら丸坊主にすんぞ!!」
その台詞には苦笑した。
「情けをかけているつもりか?言っておく!
そんな甘さでは僕の心は変わらない。」
その目は底冷えするような、冷たい目だった。
「俺が姫といちゃいけねーって話か?
ずーっと足りねぇ頭で考えてたけど、いろいろあってやっと決まった…。
やっぱ俺は姫から離れない!!」
花菱の言葉に風子と土門は大きく頷いて同意を示した。
「…たとえ彼女も君といることを望んだとしても…。
柳さんが『何か』に巻き込まれて死んだとする!!
その時君は何をして償うつもりだ!!」
―確かにその言葉には一理ある。けど…
「自分の君主も守れなかった不忠な『忍』は―腹斬って自害する!!」
―本気…、か。
は満足そうに口許を緩めた。
「ふふ…あはははははは!!」
突然笑い出した水鏡に花菱はビクリと肩を跳ね上げた。
「誓いを立てたか。そんな必要はないさ。
その時は僕がなぶり殺してあげるからね。」
「上等だっ!!」
と、花菱が緊張の糸が途切れたかのように倒れた。
「烈火っ!」
「花菱ぃ!!」
風子と土門が急いで駆け寄った。
「…柳ちゃん」
同じく駆け寄る柳を引き止め、が話かけた。
「ちゃん!!」
「…花菱君は柳ちゃんがいるから大丈夫ね。私、ちょっと行ってくるよ」
「えっ?」
「柳ちゃんの綺麗な髪を切ったのは許せないけど、
あの怪我はちょっと…ね。」
その言葉に、柳は気付いたようだ。
「うん!こっちは任せて。」
「…ごめんね。」
そう言ってはミラーハウスの外に向かって走り出した。
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