―最終闘技場
「照明の無い不自由は、もうしばらくご辛抱のほど、お願い致します。
ながらくお待たせいたしました。
…これより……第三回裏武闘殺陣、決勝戦を始めます!!」
その言葉とともに、闘技場に盛大な歓声が響き渡った。
「北口より…麗(紅)チームの入場です!!!」
「『時!』『戒!』『命!』『ジョーカー!』―そして……」
耳に響くざわめき。
マント越しに感じる照明の熱。
目の前は黒が広がるばかり…
―これから、運命の時がはじまる。
はただ、静かに瞼を閉じた。
ACT24:仮初めの言葉
真っ暗な闇。
現在、それが会場を覆っていた。
その中で唯一、審判に当たるスポットライトだけがポッカリと浮かんで見えた。
会場のざわめきは治まることを知らず、選手にエールをかける者や
暗闇に業を煮やした者の怒声など、様々な声が響いた。
―そして、麗(紅)より後に登場して来た火影。
彼らを前に、の心は驚くほど静かだった。
「それでは――照明をお願いします!」
その言葉と同時に、一瞬にして照らし出された最終闘技場。
中央にあるリングは一本の太い柱で支えられており、まるで大きなテーブルのようだ。
ちなみにその周囲は底が見えないほど深い。
―逃げることは許されない…それを体現しているかのように。
「コラ、麗(紅)!!てめぇらの大将はどこだよ!?」
―対岸、とでも言おうか。
だいぶ距離はあるが、真正面に立つ烈火。
不機嫌を露に、紅麗の不在を問うてきた。
―しかし麗(紅)のメンバーは、を含めそれに答える様子はない。
そんな光景に触発されてか、会場全体の緊張感も急激に高まってくる。
「―ハイ!!こちらは実況席!実況は十二支の子美ですっ。
そして本日、三人のゲストをお招きしました!」
観客席の一番前。
リングが見やすい位置にその席はあった。
「空海です。」
「亜希よ…」
「美しい事は罪?月白様だ。」
偶然か…そこには火影と対戦したメンバーが見事に揃っていた。
「空海さんは一回戦で火影と戦った空の大将でしたが、
この試合――どうごらんになりますか?」
子美が仕事熱心に、空海へインタビューを始める。
「…うむ、正直、私は麗(紅)の力を全く知らんがな。
火影は…あのチームの強さははかり知れぬものがある!善戦を期待している。」
火影サイドからの物言いではあったが、ゲストらしいコメントだ。
「甘いわね…」
「何?」
亜希がすかさずそのコメントに反論する。
「甘いって言ったのよ。あんた…『仏の空海』て言うんだろ?
全く『知らぬが仏』ってヤツさ!」
「確かに考えが浅い。学が必要だ。」
その予想を突き放すように月白も加わり、形勢は二対一となった。
しかしその言葉に我慢ならなかったのか、空海は勢いよく立ち上がった。
「聞き捨てならんな…」
「にゃ!!?まっ、まぁ聞いてよ!!」
驚いた亜希は慌ててその理由を話し始めた。
「―麗には、紅麗様に最も近い存在として、十人の近衛兵がいる。
それが十神衆!!当然その十人には、そこらの兵が束になってもかなわない。
その強さはまさに鬼神!」
―この場にいる面子を含め、各ブロックで戦っていた十神衆と呼ばれる存在。
その者達の顔が、順に思い出されていく。
「今まで火影が戦った麗は、私達も含めて3チーム!
そのすべてが、一人の十神衆に兵隊というユニットだった…しかし、麗(紅)は違う!!
紅麗様を中心に、四人すべてが十神衆!!
私も、あの方達がどのような力を持っているのかわからないけどね…予言する
……火影は地獄を見るよ!!」
そう断言する亜希に対し、今度は空海が対照的な反応を示した。
「くっくっ…」
「何がおかしい!!?」
「甘いのはお互いさまと思ってな。」
「「?」」
不思議そうな、けれどどこか怪訝な表情の二人が、この空海の態度を理解するには
もう少し言葉が必要だった。
一方、その十神衆が一人である命が沈黙を破って、一歩前に踏み出した。
「紅麗様は今日、ここには来ないわ。残念ねえ…ホホホホ……」
―…おしゃべりは、これだから。
そんな命に呆れながら、は小さく溜息をついた。
「―…『紅麗様は来ない』
それは今のあなた達に、それ相応の価値があるとは…とても思えないからですよ。」
続けて口を開くは、実を言うとその紅麗から先鋒を任せられていた。
そんな自分の試合前に、あまり好意の持てない命の余計な口出し。
正直、気に食わないの一言に尽きた。
だから、自分に怒りが向けられるよう、意識して挑発を行った。
―…私の試合は私が仕切る。
そして仮面越しにだが、真っ直ぐに火影を見据えた。
「―ってめぇまた!!あの時の…!!」
「嫌味な狐面!!」
「え!?兄ちゃんたち知り合いなの?」
烈火と風子がすかさず声をあげ、小金井が驚いたように尋ねた。
「えっと、この間…助けてもらって…」
柳が代表して答える。
「かなーり、イケ好かない野郎だけどな!」
「はーいはい!私も嫌味連発された!!」
二人の印象はやはり、良いものではないらしい。
「ふーん…アイツも俺の知らない十神衆だ。」
神妙な顔で、呟くように小金井は言った。
「ともかくだ!いくら姫を助けてくれたからと言っても!アイツは敵!」
「違いないな…」
烈火の出した結論に、珍しく水鏡も同意した。
「―結論はでましたか?まぁ私の知った事ではありませんが。
『紅麗様はここに来る必要がない』
その事実は変わりません。」
「―なめんな。」
と、一人沈黙を守っていた土門が、気迫の籠る言葉を放った。
「オレ達はなあ!!!
今まで死ぬギリギリの大ゲンカしてここまで来たんだ!!
ハンパじゃなかったんだよっ!!
なんでか!?
それぞれ理由は山程あるけどよ!!
負けられなかった!!一番にならなきゃ意味なかったんだよ!!!
“来る必要がねえ”だと!?」
土門が勢いよくリングに飛び下りた。
「降りてこい、狐野郎!!オレが火影の底力見せてやらあ!!!」
「……ご指名、ですね。」
チラリと麗(紅)の面々に視線を走らせ、自分が行くことを知らせた。
そして軽やかに飛び上がると…―ストンッ、とリングへと降り立つ。
「―解せないね空海!我々が甘いってどういう事さ!!」
先ほどの言葉に未だ納得いかない亜希が、不満げに空海を睨み付けていた。
「…始めは烈火だけが際立つチークとおもった…八竜を操る烈火がいてのチームだと
……しかし、今はそれが間違っていたと思う。」
それに思い当たる節は、彼らにも確かにあった。
「―閹水の水鏡凍季也、風神使い霧沢風子、鋼金暗器の小金井薫
―皆、一戦ごとに成長していくのが目に見えてわかった!
チームに一人とはいえ、彼らは十神衆と互角以上に戦っているんだよ。
君の主人・音遠も倒された相手は水鏡君ではなかったかな?」
「……!!!」
亜希は不意を突かれて言葉をなくす。
「一人ノルマ十神衆一人!!火影なら不可能とは思わん。
彼らは今、十神衆レベルに立ち向かえるほど強い!!
石島土門…!!
正直、あの男の成長は五人の中で特に大きい!
火影のお荷物的存在だった土門…今では立派に火影を名乗れる男になった!!」
熱意の籠った言葉は間違いなく火影、土門を評価するものだ。
それを聞いてか、先ほどまで批判していた月白も、満更ではなさそうな顔をする。
「そーいや亜希も土門に負けたしね。」
「うっせえよナルシスト!!!」
「勝負は――わからんよ……」
空海のその言葉に、先ほどまで感情的になっていた亜希が、ふっと神妙な顔をした。
「―いや、あの子には……
石島土門じゃ『時』には勝てない……」
亜希は真っ直ぐに『時』を見据えながら、小さく呟いた。
「狙いは『時』を倒して紅麗様をここへ…か?
確かに道理ですが、一つ計算に入っていないわね。」
同じくリングを見据えていた命が、どこか面白そうに見解を述べた。
「十神衆加入がついこの間とはいえ、あの呪を倒した実力
…なめてもらっては困るのよ…。
―何せ『あの男』の血縁……一筋縄でいくわけがない。」
それは間違いなく確信のある予感。
「決勝戦!!
『火影 VS 麗(紅)』先鋒戦!!
『土門 VS 時 』!!!
―始めッ!!」
審判が試合開始の声をあげた。
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