ACT16:前哨戦






―炎の化身となった磁生との再会後。



は紅麗を前に誓いを述べた。



「―紅麗様……。私、は…まだまだ未熟者です。

 けれど、只今より、幼き日の約束を果たしたく存じます。」



は片膝をつき、頭を垂らした。



―幼き日の約束。それは……


あの懐かしき館での、かけがいのない人たちとの誓い。



『兄さんが紅麗様の忍になるなら、私は紅様の忍になるね!』


?それは、何でまた……』



急な話に、雷霸が驚いた表情でを見ていた。



『紅麗様はもちろん一番だけど、その紅麗様の一番は紅様なの!

 だから一人前になったら紅様は私が守る!』



呆気にとられている周りの人々。

そんな中、紅麗がの頭を撫でた。



『……そうだな、頼むとしようか。


『本当ですか!?』



目をキラキラと輝かせるに、雷霸が苦笑した。



『ただ、紅を守るのは私の仕事でもある。そんなに気を張らなくてもいい』


『はいっ!』



着々と進んで行く話しに、お茶を入れていた音遠も微笑ましく笑っていた。



『―うふふ、可愛らしい護衛さんで私も嬉しいわ。』



紅がに向かい合った。



『私も紅様が美人さんで嬉しいです!』



二人でニコニコ笑っていると、紅麗もフッと笑った。



『では、そのためにも修行を怠ってはならないな?』


『そうですねぇ』



釘をさす紅麗と同意する雷霸に、が文句を言ったのは別の話だが……。






「――お前の知っている紅は、もうここには居らぬ。」



長い沈黙のあと、紅麗がそう言った。



「いいえ、いらっしゃいます。

 紅麗様……貴方の存在こそ、紅様が生きている証。


 炎の身となれど、私が仕える主人に違いありません。」



はもう決めたのだ。

兄と同じ、一人の忍としての人生を歩むことを……。



「私は一度……森光蘭の手より、紅様をお守りすることが出来ませんでした。

 しかし、再び紅麗様……御身をお守りさせて頂くことを、どうか、お許しください。」



「……面を上げよ」



紅麗の言葉に従い、はゆっくりと顔を上げた。

目の前には紅麗と、炎の翼を広げた紅がいる。



「――、仕えることを許す。」


「御意……」




―私の忠誠は貴方のために。私は貴方の忍となる。

























―Cブロック決勝



エレキブランVS麗(雷)は、同じく雷霸の5人抜きにより、準決勝へと駒を進めることとなった。



「次は、紅麗様のチーム……」



今まで4回試合があったが、すべては戦うことが叶わなかった。


…それもこれも、すべては兄・雷霸のせいなのだが、

結局、何度抗議しても聞き入れてはくれなかった。


順番を変えるにも、麗のユニットにおいて、その決定権はチームの大将にある。



―今度の準決勝



はそれに賭けていた。



































―そして翌日……



F闘技場


そこで今、準決勝が始まろうとしていた。



「北口より…麗(雷)チーム入場!!!」



審判の牛乃がコールをかけた。

それと同時に黄色い歓声があがる。



「きゃーーっ!!」


「雷霸様よォー!!」



―……はぁ。



黄色い歓声には頭が痛くなった。



「う、麗(雷)は、雷霸選手と時選手の、ただ二人だけのチーム!

 しかも雷霸選手が、たった一人でのべ17人を倒して勝ち上がり、

 もう一人の時選手の実力は、まだ未知数というすごいチームです!」



先に出た雷霸が女性のファンに捕まり、なかなか前に進むことが出来ずにいた。

しかしは我関せずと、一人サクサク通り過ぎる。



「た、助けて下さいよー!」


「………」


「私と貴方の仲じゃないですかーっ!!」



その言葉には瞬時に振り返る。



「誤解されるようなことを言わないで下さい!」



雷霸の頭を一発殴り、後ろ襟を引っ掴んで引き摺っていった。






―そして反対側の入口。



「南口の皆さんっお気をつけ下さい!!うる…麗…麗(紅)の入場です!!」


「出た…ぞ!紅麗のチームだ!!」


「他のメンバーも三人までそろってる!」



雷霸とは、出て来た紅麗を静かに見据えていた。



「いくらお前たちとて、容赦はしない。立ちはだかる者は皆潰すぞ……!」



目を合わせた紅麗が、敵意を露わに言った。



「……」


「怖いですねェ。もすこし力ぬいていきませんか?」



シリアスな雰囲気も台無しに、へらりと雷霸は笑う。



後ろからは、本当にこいつ強いのか?という疑念の声が上がっているが、

同時にファンからも、雷霸を野次るな!と言う声が上がっていた。



そして電光掲示板には対戦カードが表示される。



「はぁ……」



―準決勝だというのに。



それにもかかわらず、先鋒は相変わらず雷霸。

そして対する(紅)の先鋒は呪。


その呪の表示が出たとたん観客はざわついた。



「呪だァ!!」


「前大会の時、ほとんどの相手を奴一人で倒したっていう……っ。」


「本物だ!!あれが呪!!」




「おや。紅麗様は出られないのですか?」


「フフ…気分じゃないんでね。」


「御意。」



クスクスと笑って雷霸は頷いた。



「遊ぶんじゃないよ、呪…。相手は“あの”雷霸だ。」



十神衆の命が、意味深に口を開いた。



「普段は飄々としているが、実力ならば麗の中でも最強の一人とうたわれた男…。

 敵として不足なしのくわせ者よ……」



と、雷霸がリングへ上る際、最後の一段に躓いて転んだ。

そしてギャラリーからは爆笑される始末……。



「……あれのどこがいいの?」


「うるさいわね、ブタ!!」



後ろで揉める声も聞こえるが、それはさておき。

は呆れながらも雷霸に駆け寄り、手を貸した。



「兄さん……緊張、してるの?」


「そう見えますか?」


「全然。怪我、しないでね。」



服の裾を払ってやり、それだけ言うとリングへと送り出した。



「久しぶりですね、呪…」



緊張感の無い声色は、これから戦う者とは到底思えない。



「十神衆は互いに会う事もめずらしい。この武祭も言ってみれば同窓会ですか。」



反対に何も答えない呪は、色々な意味で不気味な存在だった。



「雷霸VS呪……始め!!」



開始の合図と共に二人は動いた。


擦れ違いざまの攻防。

お互いに肩口に傷を負うが、決め手にはならない。


雷霸が手裏剣を投げると、呪はそれをすべて撃ち落とした。



「お見事。」



余裕の表情で拍手する雷霸だが、このたった一瞬の出来ごとで、十分に雷霸の強さが証明された。



「すげえぇ!!初めて見たぜ、麗(紅)の人間と互角に戦う奴!!」


「あのロン毛やるぞ!!」


「オイっ、今の呪、何をしたんだアレ!?」


「しらねぇよ、ドアホ!!」



興奮する観客たち。

しかしそれを尻目に、は至って冷静だった。



「流石…と讃辞を送りたいところだが…。腑に落ちないね、雷霸。」



紅麗が仮面越しに雷霸を見据えて言った。



「なぜ『雷神』を使わない?」



その言葉に(紅)の顔つきが変わる。



「んー…答えねばいけませんか?」



『使わない理由』を知っているは、ただ奥歯をギリッと噛み締めるに止どまる。



「そうですねェ…、今はその刻ではありません、ゆえに――」



―紅麗の纏う雰囲気が変わった。



襲いかかる呪に雷霸は動かない。


そしてあろうことか刀を捨てた。



「っ!にぃ……!!」



腹部を殴られ、地面へと叩き付けられる雷霸。


しかし、トドメを刺そうとする呪を紅麗が止めた。



「待てっ呪!!」



そして鳴る―ゴスッ…!!という鈍い音。



呪の拳は、雷霸の顔の真横に突き刺さっていた。



「雷霸…『今はその刻ではない』と言ったな?

 貴様に限って臆したわけでもあるまい。真意を聞こうか。」



「…正直、私には勝たねばならぬ理由がありません。

 ここへも、紅麗様を見送るために見参したまで。」



雷霸らしい物言いに、は苦笑の声を漏らした。



「私は紅麗様の忠実なる忍…。なぜに今、雷神が必要でしょうか?」



「万一、あなたに危害がおよぶ時は、雷神の封を解く。

 我が戦場はここにあらず!私は昼行灯として、戦線を離れましょう。」



その表情は清々しいほどにすっきりとしていた。



「ああ、牛乃さんでしたか?すみませんっ私、ギブアップします。」


「へ……」



一瞬、何が起こったか分からず、牛乃は唖然としてしまった。



「え…と…雷霸VS呪、雷霸のギブアップにより、勝者・呪!」



呪の勝ちが宣言された。



「な…なんで?」


「雷霸…もうあきらめちまうのか!?」


「あっけないな…」



観客たちは物足りない様子。



「“実力では負けていない”というために最初は力を出したな…。

 デモンストレーションか、はたまた負けず嫌いか…」



十神衆の戒が呟いた。



「げに恐ろしきはあの呪と戦って息一つ乱しておらぬこと。

 奴が本気できたならば、われらもただではすまなかったかもしれぬ…」



「昼行灯か…クク…」



面白いとばかりに紅麗は笑っていた。



―『昼行灯』…



同じくも、その言葉に引っ掛かりを覚えていた。



―大石内蔵助を気取るのもいいけど……。



こっちの苦労も少しは考えて欲しい。と切実に思うだった。















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