ACT12:分かれた道
―Aブロック
火影VS麗(幻)
リングの修復を終え、双方の先鋒が戦いが始まった。
「―薫、君……」
音遠より一足遅く、は会場に訪れた。
そして、急いでリングを見てみれば、あの館で知り合った少年の姿があった。
―どうして……
麗を抜けたという話を聞いてはいたが、まさか、この裏舞踏殺陣に参加するとは
正直、思ってもみなかった。
―確かにあの時、悪い子じゃないことはなんとなく分かった。
……芯を持った真っ直ぐな子。
そういう印象をは持った。
だからこそ、柳をさらったことに対して、何らかのしこりが彼に残ってしまったのだろうか。
―紅麗様を信頼していたから。
それが裏切りに感じられたのか…。
本当の処はわからないけれど。
そういうことならば。この戦いに現れたのも納得が行く。
―彼ともう一度向き合うために。それしかない。
その点、火影に入ったことに関しては妥当な選択といえる。
どんな理由であれ、紅麗の敵になるならば、
微かでも勝てる見込みのある者と一緒にいなければならないのだから…。
「―君も、もう、決めてしまったの、ね……」
たとえ、親しくなった者たちが敵として立ちはだかることになっても。
―己が信じるモノのために。
先に来ていた音遠を見つけ、はそちらへと足を向ける。
……しかし。遠目から見ていてもわかるくらい、その音遠の表情は険しかった。
「…音遠、眉間に皺が寄ってるよ。」
「……『時』」
しばらく間を置いたあとこちらを振り返った音遠に、は思いっきり睨まれた。
「そこまで目の敵にしなくてもいいんじゃないかな…?」
「紅麗様を裏切ったんだもの。万死に値するわ。」
「……はぁー…」
聞く耳を持たない音遠に、は溜息をついた。
―これ以上言っても、どうしようもないかな…と。
諦めて、おとなしく試合観戦をすることにした。
すると、丁度そこで小金井が、鮮やかに麗(幻)の獅獣を切り付ける。
「五つの型を持つ鋼金暗器……。」
今回でまだ、戦っているところを見るのは2度目だが―
―あの凍季也と、対等に戦っていたのだから。
相当の実力の持ち主であることは間違いない。
は無意識に感嘆の声を漏らした。
「武器が変型した。火影にまたとんでもねえ奴が入ったな!!」
「あの気の強え女がいねえと思ったら、こんな隠し玉が…!!」
観客たちも小金井の実力にどよめく。
何せ相手の獅獣は昨日、五人もの人間を食してしまったのだ。
そしてこの場に居る人々のほとんどが、その強さを目の当たりしていた。
「他のメンバーは……」
幻獣朗以外は全員マントで体を覆っているため、性別すら確認できない。
―他人のことは言えないけれど。
あまりにも怪し過ぎる。それは不気味なほどに。
「だが、今回ばかりは奴等も終わりよ。
前回優勝した紅麗の直属部隊『麗』の一つだぜ(幻)は!」
何故か自信有り気に話す客の一人。
「どきな蟲ども!!」
「わっ…」
音遠が八当たりとも言える言葉を吐きつつ、リングの見やすい位置を陣取った。
「なんじゃテメェはっ、殺すぞ!!」
「“その”麗の一員よ、殺される?」
―可哀相に。これは完璧八つ当たりよね……。
呆れているとは裏腹に、音遠はリングの上にいる小金井に話しかけていた。
「どうやら本気みたいね、あなたまるでコウモリみたいよ。
コウモリにはねェ…鳥達には『僕も鳥だ』と愛想をふりまき、
動物には『僕は動物の仲間だ』と言い、結果、どちらからも相手にされなくなった…
て、話があるのよ。麗を敵に回すコウモリ…どんな死に方がお望み?」
「………」
―そんな話初耳だ。
とはちらりと音遠を見た。
―うっわー、すっごい悪役顔……。
本人に言ったら確実に怒られるから言わないが。
悪い人ではないのに、紅麗のこととなると見境がなくなるのがたまに傷。
―そこまで楽しそうに罵らなくても、と切実には思った。
すると、音遠の言葉に気を取られた小金井が、獅獣からの連続攻撃を食らう。
「あ〜らら、ゴメンねぇ〜!気が散っちゃった?でもそれって、集中力の欠落よォ!!」
―音遠……。
「苦しいでしょ?そろそろまた裏切ったらァ?あなたらしくていいわよボ・ウ・ヤ!」
「うるせえんだよそこの醜女!!!」
突然声を上げた烈火は、音遠の言葉にキレたようだ。
女性には絶対禁句の『ブス』と、正面きって罵った。
「ブ…ス?それ……私…の事?」
音遠の表情が思いっきり引きつっていた。
―実際はどうあれ。
いつもならそこでもフォローを入れるのだが……
今回ばかりはやはり、やり過ぎだろうと感じていた。
裏切りと思うなら、正攻法で倒せばいいだけのこと。
この試合を邪魔していいわけではない。
そのため、灸を据える意味を込めて、はあえて何も言わなかった。
「いつまで遊んでんじゃ、小金井!!てめぇまさかその程度じゃねぇだろうな!?」
リング上の小金井に烈火が檄をとばした。
それに心なしか小金井も嬉しそうな表情を浮かべる。
「……へへっ!当然だね。―バッキューン!!」
その小柄な体躯からはからは考えられないほど、思いっきり獅獣を吹っ飛ばした。
―音遠には悪いが、やはり薫君には笑っていて欲しい。
はそう思う。
―そしてこれで決着が着いたと思いきや……
幻獣朗が獅獣の額に指を差し込んだ。
あまりにもグロテスクな光景に、も思わず顔をしかめた。
「……心霊医術。」
―この獅獣の場合は、人間の体に獣のDNAを注入したもの。
「人間も所詮、彼にとっては実験道具に過ぎないのね……」
明らかに人の動作とは異なる攻撃。その数々を繰り出しはじめた獅獣。
小金井はそれに翻弄され、次々とその攻撃を食らっていく。
頬から血を流し、呼吸も乱れはじめてはいた。
しかしその目は決して死んではいない。変わらず強い光を宿していた。
「―あの時、優しい紅麗もいたはずなんだ!!すべてが偽りなのか、確かめなきゃいけない!!」
―薫君……。
「オレはもう一度だけ紅麗に会う!たとえ死ぬことになろうとも……殺す事になろうとも!」
とは真逆の道を選んだ小金井。
その目はとても鋭く冷たい…悲しみにも似た色を宿していた。
―そのためには……生き抜く。
それが今の小金井が出した答え。
天才的な鋼金暗器の変型により、獅獣を見事に倒した。
「―勝者、小金井!!」
喜びにわく火影を尻目に、隣りの音遠はとても苦々しい表情をしていた。
「役立たずめ……」
はこうなった音遠を止める術を持たない。
―兄さんなら上手くやるんだろうけど…。
は小さく息を吐いた。
「…ちょっと頭を冷やして来るよ。」
そう言って音遠は一旦この会場を去った。
―『小金井薫』の存在
それはまた一歩、火影というチームを間違いなく、紅麗の元へと近付けた。
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