――“運命”そんな言葉では決して片付けられない。
【姉ちゃんと彼氏さん】
閑静な住宅街に軒を並べた、とある一件の家では、大きめのテーブルに雑誌を広げつつ、
優雅に紅茶を飲む妙齢の女性がいた。
彼女の名前は『美鞍 』
後に暴風族界に大きな嵐を巻き起こすこととなる『小烏丸』
そのチーム一員としてステルスの異名を得ることになる本名・美鞍葛馬こと、
「カズ」の愛称で親しまれている彼の姉がこの美鞍 だった。
海外に居る両親の代わりに、カズの保護者として世話を焼く日々を送っている彼女。
その傍ら、学生として学校に通っている身であるが、義務教育というわけではない分、
随分と気楽なものである。
そして本日も講義がないため、家でのんびりと過ごしていたのだった。
すると、テーブルの上に置いてあった携帯電話が鳴り、ある人物からの着信を告げた。
「――もしもし?」
『――やぁ、。今日の晩は空いてるかい?』
返ってきたのは男の声。
名乗ることこそしていないが、携帯のディスプレイにはその名がしっかりと表示されていた。
まぁ、つまりはよく見知った人物で――
「昼に電話かけてくるなんて珍しいわね。今仕事中じゃないの?」
『うん、仕事中だよ。ただ今日は早く上がれそうだから、今夜一緒にどうかと思って』
お互い忙しかったせいか、ここ数週間会えない日が続いていた。
仕事中に不謹慎だなと思いつつも、久々に会えるとの電話にの表情は喜色に綻ぶ。
「そうね。おいしいもの食べに連れて行ってくれるんなら、空けておくわ」
今まで会えなかった腹いせとばかりに、少し捻くれた返答を返した。
しかし彼もそれが手に取るようにわかっているらしく、電話越しにクスクスと笑い声が聞こえた。
『おや、それは責任重大だね。自宅にいいワインがあるんだけどそれじゃあダメかい?』
「ふーん、いいわよ。久々にスピの手料理が食べれるってわけね?楽しみだわ」
『……じゃなくて僕が作るのかい?』
の言葉を確認するように聞き返してきた。
いつもは仕事で疲れている相手を気遣ってが作っていたが、
今日は少しだけ我が侭を言ってみたくなった。ということらしい。
「そうよ。おいしいもの食べさせてくれるんでしょう?久々なんだし、構わないわよね?」
『……全く、君には敵わないな』
「仕事で疲れてるのはわかってるんだけど……我が侭言ってごめんなさい」
『これくらい我が侭には入らないさ。ご指名承りました、お嬢様』
「お嬢様は余計よ。余計」
携帯の向こう側ではきっと、いつもの爽やかスマイルを浮かべているのだろう。
想像でしかないが、思い出すと少々憎たらしい気分になる。
『車で迎えに行くから、仕事が終わったら一度連絡するよ』
「あら、わざわざ車出してくれるの?」
『ああ、ちょっと話したいことが……いくつかあってね。
家で一度落ち着いてしまうと、忘れてしまいそうだから』
その声色から真剣なものを感じ取り、はわずかに息を詰め、眉を寄せた。
しかしすぐに気を取り直し、了承の返事をする。
「わかった――のんびり待ってるわ。それじゃあ、仕事頑張ってね」
『少しでも早く上がれるよう頑張るよ。じゃぁ、また後で――』
お互いにクスリと笑うと早々に携帯の通話を切った。
いつもならばこの時間、相手の男は仕事中。
今回もその合間に電話をかけてきているわけで、長電話は禁物だ。
少々名残惜しさを感じながらも、突然会えることになったことで心は浮かれていた。
現金ね。と苦笑を零しつつ、自室へと向かうために椅子から立ち上がる。
――さて、何を着ていこうか。
彼の名はスピット・ファイア
炎の道<フレイムロード>の王の名を冠する暴風族であり、
昼間は人気カリスマ美容師として働く、
正真正銘、美鞍 の彼氏様であった。
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