原作に突入してしまうと、戦争が絶えない。
しかし戦うにしても、女である一人参戦したところでどれほど変わるだろうか。
――そこで、思い立った。
『医術を学ぼう』
フェルナン伯爵は過度の拷問による衰弱で死んでしまう。
出会ったことはないが、は彼を助けたかった。
本を読んでいても亡くすには惜しい人だと、何度も思った。
ウォルが死を乗り越え、いち個人から一国の王たる人へ成長を遂げるためには、
確かに必要な出来事であったかもしれない。
けれどそれはタイミングを計り“死んだ事実”さえ伝えることができれば、
すべてが終わった後に、生きていた事実があったとしても問題はないはずだ。
もちろん原作とは変わってしまうかもしれないが、もとより地方貴族だ。
ウォルが引きとめようと、彼は領地に戻るだろう。
いや、ウォルを思うからこそ領地に戻ろうとするに違いない。
そうならば、そこまで深く原作に関わってくることはないはずだ。
都合の良い憶測でしかないが、これからの自分の動きによっては勝算がある。
何より、彼を治療するのはそのための知識と技術が必要である。
もちろん、拷問されないのが一番良いのだがそれをどこまで抑止できるか不安が残る。
原作ではチフォンがシャーミアンに会うために、度々北の塔に出入りしていたため、
がそれに同行して潜入することは不可能ではないはずだ。
拷問のあと治療をせずに放置されることだけは避けなければならない。
(……決して無駄には、ならない)
前の世界の医学知識がどれほど役に立つかはわからないが、
物語を変える決意は、自分が迎えたい未来のためにした。
そこからどう物語が変化していくかは予想もつかないが、
とりあえず自分にできる限りのことをしようと思う。
悪い方向に転ばないよう、少しずつ、少しずつ、ない脳で策を煮詰めていく。
(この国一番のヤブ医者になってやろうじゃないか)
何故“ヤブ”がつくのか。それは言わずとも察して欲しい。
目指せデルフィニア国のブラッ○・ジャッ○!
……というのは少々、いやかなり無理があるからに他ならない。
そして15歳の時。
引きこもるのもいい加減飽きた。と、置手紙を残し家を出奔した。
そう、世間一般で言ういわゆる家出だ。
本人曰く「若かりし頃の原作キャラ堪能の旅」
原作に突入してからキャラと関わる気は毛頭なかった。
何せ無駄に危険が多いのだ。命がいくつあっても足りない。
雑魚にやられない程度に剣の腕はあると自負している。
それは一重に死にたくなかったから。
ただし、人数にモノを言わせられたならヤバイ。
あくまで凡人が必死に、それこそ死ぬ気で努力したというレベルの話であり、
さすがにファロットあたりが絡んできたらひとたまりもない。
想像するまでもなく即死だ。
(死にたくない)
死ぬとしても大往生がいい。
でも後悔して死ぬなんて嫌だ。遣り残しなんて誰がするか。
ということで、今のうちに楽しんでおこうと思い立ったわけだ。
もちろん、原作突入時に使える材料を作っとこうという打算もある。
しかしここはあくまで、趣味だと言っておこう。
キャラ堪能といっても、遠目に眺めるか、よくて一言二言言葉を交わせればという程度のもので、
下手に深入りして巻き込まれてはたまったものではない。
それでも会わないという選択肢がないのは、尽きることのない好奇心と損得の問題である。
何の因果かこの世界にきてしまったのなら、少しくらい楽しんだって良いだろう、と。
女の一人旅は危険を伴うことは承知しているので、なるべく性別が分からないよう男装をとった。
使い慣れた愛剣と、毎日欠かさず世話をしていた愛馬と共にコーラルを出立した。
まずはロア。
原作1巻の時点で17歳のシャーミアンは、現在10歳ほどのはずだ。
ドラ将軍はもちろん、代替わり前の黒主も見れたら嬉しい。
次は本命のスーシャ。
この時点でフェルナン伯爵とは顔見知りになっておきたい。
理由は助け出すときに下手に警戒心を持たれては困るから。そう、これは打算。
何の因果か、ウォルとは同い年で、イヴンは一個下。
この時期にはまだスーシャにいるはずなため、幼馴染二人組みを是非とも拝みたいものだ。
次にタウの山賊……といきたいところだが、何せ場所が場所。
生きて帰ってこれる自信がないため、悔しいがここは諦める。
主要人物のイヴンはとりあえず見れるのだから、とりあえず良しとする。
なのでそこから南下して、ウィンザ……は興味ない。
ウォルとリィが飛び降りた場所とか、チラッと見れればいいかな。という程度。
さらに南のビルグナの砦。ここはとーっても見たい。
若かりし頃のナシアスはさぞ美少年だろう。
いや……原作で27歳、現在は20歳前後だから最早少年ではないか。
女子禁制なような気がしないでもないが、遠目からでもなんでも絶対に見てやる。
目の保養をするのだ。絶対に妥協はしない。
あと、彼の実家がある村にも立ち寄りたい。
そしてなんと言ってもロザリンド嬢!
さぞかし美人なのだろうとウキウキしてしまう。
ただ、バルロと同じパターンで高位の貴族なため、拝見できるかは不明だが。
ちなみに、バルロはすでにコーラルで遠目にではあるが何度か目撃しているので眼中にない。
(本当に楽しみだな……!!)
こうしては意気揚々と、観光気分で旅に出た。
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