――何の因果だろうか。



私は別世界に来ていた。

ただし気づいたら子供の姿で、明らかに日本人離れした容姿であったけれども。



――前の世界での記憶。

その最後は学校の階段から滑って落ちるところまで。



(……うーん、死んだのかしら?)



だとしたら、なんと間抜けな最後だろう。

個人的には大往生が希望だったんだけれども。それに全く掠りもしない死に様。

――ああ、残念無念。

痛いとか苦しいとかそういった苦痛を一切感じなかったのが唯一の幸いかしら。



正直、自分でもなんでこんなに割り切ってしまっているのかわからない。

もちろん、未練らしい未練はある。

例えばお父さん、お母さん、弟、そして友人たちのこと。

間抜けな娘でごめん。間抜けな姉でごめん。間抜けな友人でごめん。

今更謝ったところでこの声が届くことはないのだろうけど。

私の気持ちを整理するためにも、謝らせて下さい。



今いる場所があまりに摩訶不思議な世界過ぎて、帰れる気が全くしない。

私はそんな特殊能力持っていないし、持っている人を探し出せる自信もないから。

第一帰れたとしても、丸っきり変わってしまった容姿の私を娘と受け入れてもらえるか不安です。

拒絶されるのが怖い臆病者なので、心のどこかではすでに諦めていて、

現状を受け入れつつある自分がいます。ごめんなさい。



――だからね?

泣き喚いても、勝手に死んだことを恨んで罵倒してくれてもいいから、

最終的には笑い話にでもして、こんな私を許してやってくれると嬉しいな。



そうそう。

いい忘れていたけれど私には新しい家族がいたりする。

父と母、そして兄が一人。

見るからに成金っぽい、前の私の家とは似てもつかない家族だ。



父は温和で根っからの悪い人というわけではない(と思う)のだけれど、

金や欲に目が眩む、典型的な権力に弱い性質の人だ。まさに絵に描いたような西洋風越後屋。


母は娘の欲目に見てもそれなりの美人さんだが、

お嬢様育ちでちょっと……いやかなり一般常識に欠ける。

金遣いも荒く、ちょっと無理のある若作りが痛々しい。


兄は私より3つほど年上であるが、インドア派のもやしっ子だ。

イメージとしては某RPGのシリーズ5に登場する貴族の馬鹿息子Y氏か、

アンチヒーローが活躍する某アニメの第三皇子K氏あたりを想像していただくと、

とーっても分かりやすいと思う。(あくまで私のイメージだ)



嫌いではないが、好きというには色々と欠けている。

親しみはあるが軽蔑すべき点もあまりあるほどある。

すでに人格形成がされていなければと考えると、ゾッとしないわけでもない。

……そんな家庭環境。



とりあえず円満な生活を送るために、猫をかぶり続けて数年が経過したある日のこと。

邸に家庭教師を招き、私に教養を身につけさせるための時間が設けられるようになった。



(…………あれ?ちょっと待った。)



見覚えのある国名、地名、人物名。そこからある結論にたどり着いた。



――もしかして、ここ『デルフィニア戦記』の世界ですか?



今更ながら、その事実に気づいた。

自分の住んでいる場所がコーラルというのは知っていた。

けれど国名が『デルフィニア』だとは全く持って知らなかった。

……そして自分が、周りの事に関してどれだけ無関心であったのか思い知る。




(ああ、そうだ。気づく要素が他にないわけではなかった。)




父はタミュー男爵。兄の名はチフォン。

…………雑魚キャラ万歳。



――ええ、そうです。

  第一部で存在が消え失せるキャラのことなんて、すっっっかり忘れてましたとも!


















――そして何故か……兄が死んだ。



原因はなんと落馬事故。

原作突入どころか、魔の五年を迎える前に亡くなってしまった。



兄・チフォン享年12歳。9歳の時のこと。

原作を知る妹の身としては「兄上って馬に呪われてるんじゃない?」としか言いようがない。



――いやでも本当に困ったことになった。

このままだと原作通りに行かないのだ。

なんてったって、あのドラ将軍がウォルの側に解放されないのだから。

第一部でその存在が消えてしまうキャラとはいえ、大変マズイ。



(洒落にならないんですけど、ちょっと……!!)



兄を突然失い、父も母も半ば呆然としていた。

その気持ちはわからないでもない。

跡取りとして、蝶よ花よと育ててきた息子だ。

あまりに唐突な喪失であったことと、それが注意不足からなる不慮の事故であっては、

納得したくともできまい。

も決して嫌いではなかった。死んだと聞いたときは、悲しかった。



――しかし。

白状かもしれないが、冷静な頭で考えたとき。

の脳裏に過ぎったのは“原作”のことだった。

もしもウォルが王にならなかった場合……

後に待ち受ける大局を残された面々が乗り越えられるとは到底思えなかった。



だから、は覚悟を決めた。



「私がチフォン兄様に成り代わりましょう」



長かった髪をバッサリと切り、兄の服を身に纏って両親の前に立った。

勉強はもちろん、反対されながらも剣術・馬術は習得している。

腕前自体はまだまだだが、向上意欲は兄よりある。

元よりインドア派フェミニストの兄より優秀であったため、

父に「お前が男であったなら」とぼやかれたことも多々あった。



この家に男児はいない。

まだまだ成金貴族の域を出ないタミュー男爵家にとってそれは死活問題だった。

女児が跡継ぎとなれば、嫁ぎ先によっては今まで築き上げてきたものすべてを奪われかねない。

どうあっても跡継ぎは必要だった。



つまり、問題は性別のみ。



社交界デビューを果たして間もない兄の顔を知るものははっきり言って多くない。

顔は二人とも母に似て中性的。

体格も成長期は遅めに来る予定だったのか、小柄で華奢な人だった。

3つの年の差を考慮し、あと2・3年も引きこもってしまえば、誰にもわからないだろう。

は自分の幸せのためにその弱みに付け込み、

巧みな話術と説得によって了承をもぎ取った。



そして、改めチフォンは、原作に向けてコツコツと策を練り始める。
















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