第二話:災難来る!





―応接室前の廊下にて



噂の委員長のせいか、応接室という場所のせいか、は妙に緊張していた。



先ほど、ここに来る前に職員室へと寄って来たのだが、

何故か他の先生方にことごとく目を逸らされた。



試しに隣りの席の先生に話しかけると「ごめんなさい」と大まじめに謝られる始末だ。



―風紀委員。



も話しには聞いていたが、実際のところ。

今までほとんど関わりなく過ごしていたため、噂くらいでしか知らない。



生徒のみならず、教師や近隣の不良さえも恐れる存在。

その元凶が委員長のヒバリこと、雲雀恭弥…らしい。



―なるほど…、だからか。



はようやく理解した。

彼らが一人残らず顧問になるのを断り、最終的にそのお鉢が

一番下っ端であるに回ってきたようだ。



仕方がないと言えば、仕方がない話である。人間誰しも自分の身は惜しいものだ。



―しかし、なんでやっぱり応接室?

 応接室とは確か、来客を迎える場所ではなかっただろうか?



その疑問を、先ほども声をかけた隣りの先生に投げかけてみた。



すると…「―あぁ、そう、あなたはまだ知らなかったのね…」と、

何故か哀れみの目で見られた。



―そう思うなら代わってくれればいいのに。



と、敢えて言いはしないが。相変わらず風紀という言葉に怯えるような仕草を見せていたが、

その理由をゆっくりと話してくれた。



「…応接室はね、風紀委員の、委員長の活動拠点なのよ。」


「……はぁ?」


「詳しい理由は聞かないで頂戴ね…。とにかく、彼らに逆らっちゃだめよ!」



―謎が謎を呼ぶ。とはこういうことなのだろうか?



世間一般の話しに、応接室が部室なんて聞いたこともない。

まぁ、校長たちが認めさえすれば有りなんだろう。


…それが例え脅しだろうとも。



―世も末だな…。



などと思いつつ、職員室を出た。


















そして冒頭へと話は戻る。



応接室の扉をノックすると、

「―どうぞ…」という声が中からした。



―どうやら本当にそうらしい。



色々な意味で、だが。

…かなり半信半疑だったが、これで認めざるを得なくなった。



「失礼します…」



―普通は立場が逆だろう。



と、自分に突っ込みを入れつつ扉を開けて中へと入った。


やはり応接室なだけに、日当たりがよく、景色もいい。

革張りの黒いイスがそれをより実感させた。



―で…あれが雲雀恭弥、か。



こんなに近くで見るのははじめてだ。

パッと見た限りでも、同じ学ランを着た取り巻き委員たちとは、格が違うのがわかる。



「―初めまして、委員長の…雲雀君?

 休職中の田中先生に代わって新しく顧問になった渋谷です。」



一応ペコリと頭を下げて挨拶をしてみた。

校長や教頭の手前、出来るだけ不興は買いたくないものだ。



「君が新しい人?へぇ……」



手元の書類から顔を上げ、ようやくこちらを見た。

まるで品定めするような視線に、は正直舌打ちしたくなった。



―敬えとまでは言わないけど、その態度はないでしょう。



早く開放されることを祈りつつ、黙って雲雀を見ていた。



「…知ってると思うけど、僕が委員長の雲雀恭弥。」



そう言いながら、ゆっくりとイスから立上がってこちらにやって来た。



「…えぇ、よろしく。」


「一応言って置くけど……」



―ジャキッ!と、何故か両手にトンファーが握られた。



「―逆らったら噛み殺す。」



その言葉と同時に勢いよくトンファーが振り下ろされた。



「―……っ!!?」



咄嗟に後ろへと跳んでそれを躱すが、驚きのあまり声が出ない。

―いきなり何をするんだ!と、雲雀に目を向けた。


すると何故か彼も驚いたような表情をしていたが、

一瞬にして元に戻ると、今度は殺気を放ちはじめた。



「ワォ……君、ただの教師じゃないね?」



微かに口の端を上げ、楽しそうにトンファーを構え直した。



「―……えぇっと?いたって極々普通の新米教師ですが、何か?

 雲雀君こそいきなり攻撃はちょーっと無いんじゃないですか?」



少々混乱しつつも、この展開がヤバイことだけはわかる。



―『噛み殺す』って…この子、絶対普通じゃない!

 っていうか、挨拶の代わりにトンファーが来るってどういうこと!?



……ということで、すでには逃げ腰である。



「僕に口答えする時点で君、十分普通じゃないよ。おとなしく噛み殺されてくれない?」


「全力で拒否させていただきます!」



そうこうしているうちに、直ぐさま二撃目がきた。



「ちょっ!!まっ待!」



制止も意味無く、トンファーは繰り出される。

いろんな意味で必死だ。が、それをよけ続けるがそれにも限界がある。



―なにせここは初めて来た部屋。



あっという間壁に行き当たってしまった。



「あははは……」



―本気でヤバイ…!



トンファーは二本。片方を受け止めても、もう片方がある。

躱してみてわかったが、この少年…戦闘センスが抜群に良い。

が躱すパターンをいくつか認識して、武器との間にある間隔誤差を

少しずつだが縮めつつあるのだ。



―ただの不良のトップじゃない…。



は自分が普通じゃないことを自負しているが、この少年ほどでは無い、と今思う。



―どうする、か……。



まさか仕込んである銃をぶっ放すわけにはいかない。



―そんなことしたら教師生命の危機である。



他には手元にボールペンが2本あるのみだ。

このトンファーを受け止めるには、絶対的に強度が足りない。



―仕方が無い。



は後ろ手にボールペンを握り締めた。

そんなを追い詰めた雲雀は、つまらなそうに口を開いた。



「何だ…もう終わりかい?じゃぁね…」



左からトンファーが振り降ろされた。

が、それをなんとか左腕で受け止める。



「っ……!!」



―骨はいってない。



それだけを確認する。

今度は右が強襲してくるが、左のトンファーを掴んだまましゃがみ込み、

足払いをかけてやった。



「!!」



そのままバランスを崩した雲雀を壁側に背負い投げ、

その隙に何とか扉のある方へ退路を作ることに成功した。



―が、このまま逃げるわけにもいかない。



あっという間に体勢を立て直した雲雀がまた迫って来る。



―そこで出て来るのが先ほどのボールペン。



一本だけ雲雀の方へと投げつけ―ストッ!と刺さったのは後方の壁。

雲雀の髪が数本、ハラリと床へ落ちた。



もちろんはワザと外したのだ。



怪我をさせて、校長たちから何か言われても正直困る。

かと言って、このままやられっ放しというのも癪だ。



―こんなもので反撃されるとは、思わなかったのだろう。



雲雀の動きがようやく止まった。



「―それじゃぁ失礼。恭弥君」



もう一本のボールペンを手元でクルクルと回しながら、笑顔で去ってやった。










「―へぇ…興味深いね。」



雲雀がこんなことを呟いていたことなどは知らない。



…一番はじめの攻撃。

雲雀は当てるつもりなど最初からなかった。



―そう…いつも教師にやっている上等手段。

 ただの脅しのはずだった。



 それがこんな面白いことになるとは……



「しばらく、退屈しなくて済みそうだね。」



壁に刺さったボールペンを引っこ抜き、躊躇なく握り潰した。






―そう、自らが目測を誤ったことで、墓穴を掘ってしまったことなど……

 本人は知る由もない。












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