ACT1:彼の名は
「カマトトぶんぢゃねぇ!!」
通りすがりに聞こえたのは、とてつもなく理不尽な男の声だった。
「………」
不快に思い視線を向ければ、
そこには無理やり連れて行かされそうな親友とガラの悪い男ども。
瞬時に状況を理解したは拳を握った。
「…柳ちゃんに手をだそうとするなんていい度胸!許さないっ…」
帰宅予定だった足の進路を急遽そちらへ向け、
はそこから駆け出した。
と、横から追い抜くように帽子を被った少年が飛び出し、
ガラの悪い男どもにきれいに飛び蹴りを食らわせた。
「…お見事。」
ついつい口から出てしまったが、
さすがに誰もそれには気付かなかった。
…助けに行ったのはいいが、
結局大人数相手に帽子の少年はあっという間に伸されてしまった。
柳が必死に彼を庇うのを見て、はようやくそこに割って入った。
「―柳ちゃんに手を出すなんていい度胸ですね?」
…口は笑っているが、目は笑っていない。
「え?ちゃん!?」
柳が驚いたようにこちらを振り返り慌てた。
「柳ちゃん、大丈夫?」
心配そうにするに、柳はコクコクと首を縦に振る。
はそれに安堵すると、また男たちの方に向き直った。
「かわりにデートでもしてくれるのか?」
男はズカズカと近付いて来て、品定めをするようにを見た。
―目は逸らさない。
この程度の男に怯える必要なんてないのだから…。
「なんなら、私がお相手しましょうか?」
その言葉に男たちは下品な笑いを浮かべた。
「へぇ〜…、友達のかわりに?
健気だねぇ。じゃぁ早速これからすぐにでも…」
の肩に手をかけようとした瞬間、
その男の意識はブラックアウトした。
一瞬、何が起ったのかわかっていない男たちの顔は、とても間抜けだった。
「…っこの女!!」
「だ・か・ら、私がお相手するとさっき言いましたよね?
さぁ、次は誰が来ますか?」
目に力をこめて相手を見据えた。
逆に彼らはそれに怯み、顔を青くするとそそくさと逃げていった。
「はぁ…良かった」
ほっと胸を撫で下ろすと、ゆっくりて柳の方に振り向いた。
「その男の子、大丈夫?」
柳も困ったように彼を見て、気遣うように膝の上に寝かした。
「『花菱烈火』さんという方だそうです」
「花菱烈火…」
といえば、確か同じ学校の忍者馬鹿で有名な1年生だ。
「柳ちゃんを助けようとしてくるたんだから、
いい人…なんだよ、ね?」
「きっとそうだと思います」
にっこりとほほ笑む柳に、も自然と納得する。
「なにか飲み物買って来ようか?」
がそう聞くと、うっ…と少年が何かを呟き反応を示した。
『?』
柳が頭に手を置くと、彼は驚いたように飛び起きた。
「わわわわわっ!!」
「きゃあ」
「……」
―どうしたらいいんだろう?
仮にも不良?の人に馴々しく接していいのだろうか…?
「さっきは助けてくれてありがとうございました。
私は佐古下柳といいます。」
あっさり挨拶をしてしまう柳に、は逆にあっけにとられた。
何故か花菱までもがほうけているが、それは理由を聞いて納得した。
「―お姫様・・・うん、柳ちゃんのイメージにピッタリ。」
うんうん、と頷くに花菱がようやく気付いてくれた。
「ん?あんたは…」
「私…?私は。柳ちゃんの中学からの友達です。」
ペコリと頭をさげると、花菱もどうもと頭を下げた。
「ちゃんは私たちより一個上なんだよ。
私の頼れるお姉さんみたいな存在なの。」
うれしそうに話し始める柳には内心苦笑した。
―確かに柳も妹のようだな、と。
「でね?花菱君が倒れたあと、
残りの人たちはちゃんが追い払ってくれたの」
「へぇ…さんって強いんだな。」
驚き、意外そうに花菱がこちらを見たので、
はまた苦笑気味に微笑んだ。
「護身程度に少し習ってたから。
花菱君が大半を倒してくれたから、あとはそうでもなかったの。
あ、それと、私のことはでいいから。」
「おう!俺も4人くらいまでは意識あったんだけど、
このザマ…ってあ…れ?痛くねぇ…」
目を丸くして驚く彼に、柳は笑って掌の傷を治した。
「―へんですよね私…」
そう言って柳は過去の出来事を話し始めた。
はその場をそっと離れて、自動販売機の前に来ていた。
「…どれにしようかな」
―柳とは中学からの友達で、とある偶然から知り合うこととなった。
今花菱に話していることも、前に一度聞いた。
「…友達、か」
―普通の生活…この日常…
決して、今ここに居られるのは当たり前のことではない…。
「ありがとう、兄さん…」
はスポーツドリンクを適当に3つ買うと、二人の元へと戻っていった。
「あ、ちゃん!」
柳がうれしそうに手を振った。
「今から花菱君が…」
と、の制服のポケットから携帯が鳴り響いた。
急いで取り出すと、相手は兄だ。
「ごめんね柳ちゃん!」
電話に出ると、そこからはいつもの兄の声が聞こえてきた。
『久しぶりですね、。』
「兄さん、いきなりどうしたの?」
『実を言うと今仕事で近くまで来ているんです。
音遠と磁生がに会いたいらしくて、今日大丈夫かな?と…』
その言葉には困った。
「今日?うーん…」
―ここ1年近く会ってなかったからなぁ…。
「わかった。場所は?うん、今から?はい…じゃぁね」
通話を切るとは柳を振り返った。
「ごめんね、柳ちゃん。
久しぶりに兄さんが帰ってくるらしくて…」
言葉を濁すに柳は微笑んだ。
「それはしょうがないね!楽しんで来てね」
「本当にごめんね!今度絶対埋め合わせするね!!」
そう言うとは公園から足早に去っていった。
不思議そうな顔をする花菱に、柳は少し真剣に話した。
「…ちゃんのお家はね、お父さんお母さんがいないんだって。
だから歳の離れたお兄さんが、ずっと育ててくれたらしいの。
でも、地方を転々とする仕事みたいで、めったに会えないんだって…。
だから、ね?」
その言葉に花菱は少し考えるようにしてから、ニコリと笑った。
「んじゃぁとりあえず、姫だけでも!今度はまたも誘って!」
「はい!」
こうして二人はとある廃墟へと向かった。
―そして、運命が動き出す。
某ホテルの一室に3人の人物が人を待っていた。
「―兄さん!音遠、磁生さん!!」
うれしそうに部屋に飛び込んできた人物に3人は頬を緩めた。
「!」
「久しぶりね」
「元気そうだの」
「本当に久しぶりだね…」
―どうか、この幸せが壊れてしまわないように…。
Menu Next