―えー、本日は快晴なり。
毎日毎日、激務に追われる日々を過ごす、雑務係こと隊長代理。
本日も特別に宛がわれた部屋。
一応『特別室』というなんとも捻りの無い名前ではあるが、にとって曰く、
別名・監禁部屋にて、山のように積まれた書類と顔を付き合わせていた。
「―『欠員補充の優先は十一番隊で』……って。
いやでもあそこに行かせたら、使える隊員が使えなくなる可能性が大でしょ。
こんな繁忙期に木刀振り回してるのは、あそこくらいなものだよ。
脳味噌筋肉集団め……!!
大事な人員をこれ以上減らされたら堪らないので、はい、却下。」
―次。
「―『今後考えられる敵襲に備え、防衛手段をより強化すべく、
十二番隊(技術開発局)の特別資金枠設置、または開発費増額の要望。』
……とか言いつつ、怪しい研究に資金が流れるのが目に見えてるから、却下。
っていうかこれ、私が判断していいんだろうか?」
やれどもやれども、書類は一向に減ってくれる気配は無い。
しかも全く関係ないものまで混じってくるため、余計に神経もすり減らされる。
それはもう、意図的に混入させているのではないかと疑いたくなるほどに。
「……これは嫌がらせか?いや、ここまでくれば完璧イジメだよねー。」
―ウフフフフ……
は一人、怪しげな笑みを浮かべた。
そう、煮詰まっているのも含めて、は限界に達していた。
傍からみれば、なんとも不気味な光景であったことだろう。
「多少のブランクがあれど、この脱走のプロフェッショナルの手にかかれば……!」
「プロフェッショナル」とは言いえて妙だが、経験と年期が無駄にあるのは事実だった。
おもむろに椅子から立ち上がると、背後の格子窓に手をかけた。
すると―ガコッ、と何故か格子がすべて外れていき、
ちょうど、ヒト一人が抜け出せるくらいの窓になった。
「それでは書類くんたち。しばしのお別れです。」
窓枠に手を掛けると、の姿はあっという間に部屋から消えうせた。
一方、机の上に残された書類は、何だかとても空しさを感じさせた。
「久々の自由だー……」
疲れた肩をほぐしながら、ゆっくりと空を仰いだ。
元々、デスクワークはあまり好きではないのだ。
ここ連日ずっと天気が良いにも関わらず、部屋に缶詰状態。
正直、自分でもよく持った方だと思っていたくらいである。
「風が気持ちいいー、太陽最高。今なら光合成出来る気がする……」
―いや、頑張っても出来ないことは知っているが。
この場に幼馴染の一護が居れば、思いっきり突っ込んでくれていたに違いない。
そんな彼の姿もしばらく見ていないなぁ、とは気づく。
こちらに帰ってきてからというもの、ゆっくりする時間はほとんど無かった。
それは藍染たちの離反より以前から。
完全に事後処理が落ち着くには、まだ時間が必要だろうが、混乱の方は大分治まりつつある。
とりあえず、行く当てもないのでブラブラとしながら建物や人々を眺めて楽しみ、
穏やかな時間を過ごしてみる。
そして飽きてくると、適当な建物の屋根の上に登りゴロリ横に転がった。
「平和だなぁ……何より昼寝日和……」
忙しすぎて、昼寝をするのも本当に久しぶりだなと、改めて実感する。
「昔は毎日のようにしてたのになー……」
思い出されるのは、学生時代。
京楽と組んではよく馬鹿なことをしたものだ。
自分たちがしたこととはいえ、思い出すだけで苦笑が絶えない。
その側では、浮竹が困ったような顔でそれを見守っていて……
―若気の至り。
言い表すなら、その言葉が一番相応しいだろう。
「あぁ、それだけ年をとったんだね……」
いつの間にやら、思い出にひたっている自分に苦笑する。
先ほどから瞼を閉じているのだが、何故か一向に眠気が来る気配はなかった。
―若い頃夜更かししてた子は、大人になってからよく眠たくなるらしい。
―その逆も然り、か?
そんなことまで、頭の中を通り過ぎていく。
「―あれぇ?」
すると、足元から声が聞こえた。
―と言っても、ここは屋根の上。
自分ではないだろう、とはそれを聞き流していた。
「うーん……もしかして寝てるのかな?」
声とともに―カタンッ、と直ぐ側で気配がした。
まさか、自分に投げかけられた言葉とは思っても見なかったは驚き、
起き上がってそちらに目を向けた。
「おや、起こしてしまったかい?懐かしい気配を感じたからつい、ね……」
―そう言いつつ、あまり申し訳なさそうな顔をしていないのは昔からか。
は小さく息を吐いた。
「いや、寝てなかったから気にしなくていいよ。」
ゆっくりと立ち上がり、軽く伸びをした。
「あはは、そうかい?」
「うん、そうだよ。」
久しぶりの会話に、は少しだけ緊張していた。
考えて見れば、彼を相手に緊張するなど、これがはじめてかもしれない。
「抜け出してきたんだろう?山じいも、養娘相手に手加減なしみたいだねぇ……」
「しばらくするつもりは無かったんだけどね。さすがに疲れた……
重國様に言わせたら、この程度で済まされてるだけ、マシと思えって。ね?」
「だよねー……」
二人で怒られた日々が、ボンヤリと浮かんでは消えた。
「―で、春水はどうしてここに?」
「あれ、気づいてなかったのかい?」
久しぶりに「春水」と呼ばれ京楽は嬉しく思いつつ、の言葉に目を見開いた。
「君にしては珍しいね、。
ここ、昔から僕がよくサボりに来るお気に入りの場所だよ?」
―昔、君も連れてきたことあったよね?
と、京楽は顎に手をあて、思い返すように言った。
―そういえば。
と、も過去の記憶を辿り、コクリと頷いた。
行き当たりばったりで歩いていたつもりが、昔の習慣が染み付いていたらしい。
無意識のうちに、こちらへと足が向いていたようだ。
「つまり、春水も抜け出してきたわけだ?」
「そうなるねぇ」
顔を見合わせ、二人はフッと笑った。
「「相変わらずだね。」」
見事にハモったことが可笑しく、今度はクスクスと笑った。
「あぁ、そうだ。前から誘おうと思ってたんだけどね。
今度一緒に、酒でもどうだい?もちろん、浮竹も呼んでさ。」
「そうだね。このゴタゴタにひと段落ついたら是非。
ついでに、自慢の息子も紹介するよ?」
「本当かい?いや、一応知ってはいるけどね。の息子と分かればまた別だよね。
あぁでも……彼は、嫌がりそうだよねぇ。」
「ウフフ、春水、そこが可愛いんだよ。」
「いじわるだねぇ」
何十年ぶりに再会したとは思えないほど、テンポよく会話がなされていく。
一応、藍染離反時にも会話はしていたが……あれは緊急と言ってもいい。
こうしたカタチで、またのんびりと話せる現状が、嬉しかった。
それは何もだけではなく、京楽も同じ気持ちであったことは言うまでもない。
元よりお互い、根掘り葉掘り聞くような性質ではないからか。
それでも深いところで理解し合えている事実が、目には見えなくともあった。
「ねぇ春水……『京楽隊長どこにいるんですか……!!』っていう、
とってもこわーい声が聞こえるんだけど、気のせいかな?」
「あはは……気のせいだと思いたいなー、なんて。」
「……本当に相変わらずだね。」
―あぁ、ちなみに庇ってはあげないからね?
何せそんな自分も追われる身なのだから。
きっと今頃、書類を届けに来た可愛い息子が、こめかみを引くつかせているに違いない。
―共犯者であり、心の友。
―昔からのサボり仲間。
―ねぇ春水。今度さ、久しぶりに統学院に顔を出してみない?
『 悪 友 』
(意味:よくない友人。親しみを込めて親しい友人や、遊び仲間に使う。)