「何年振りでしょうかね……」



卯ノ花がほおっと息を吐いた。

見上げた空には綺麗な月が浮かび、漂う雲は多くもなく、

少なすぎるわけでもなく、まばらにゆったりと動いている。

今はちょうど、薄い雲が月を覆っていた。けれど決して暗いわけではない。

薄い雲から覗く月のシルエットが、逆にとても幻想的に見えた。



「―お待たせしたかな?」



静かな空間に、―リンと響く声。

そして薄暗い物陰からゆっくりと姿を見せた人物。

卯ノ花は首を巡らせ、やんわりと微笑んだ。



「そうですね……だいぶ、待ちましたよ。」


「あぁ、そうだろうね。」



卯ノ花とは対照的に、その人物は眉尻を下げ困ったように笑い返した。



「本当に……ずーっと、待っていたんですよ?ねぇ、さん……」



雲の隙間から月がふんわりと顔を見せた。

月光の下、姿を照らされその顔が、卯ノ花の目に明瞭に映し出された。



「知ってる。自分でも呆れるほど大遅刻だよ。」



その顔は、卯ノ花の記憶にあるものより、寸分歳を重ねていた。

―当然といえば当然。

自分も、それだけ歳を重ねたのだから。

しかし、それでも変わらないと思うのは、月光に照らされキラキラ輝く金色の髪。

彼女を探すときは、いつもそれを目印にしていた。



「ごめんね。遅くなって……」



は申し訳なさそうにしつつ、卯ノ花の隣に腰を下ろした。



「いいのです。こうして、ちゃんと来て下さっただけで、十分ですから。」


「……ありがとう、烈。」



そして二人は、無言のままゆっくりと月を見上げた。



「とても、長かったですね……」



―何が?

それは言わずとも、わかっていた。



「そうだね。とても、長かった……。

 こうして振り返ってみるとさ、烈にはいつも本当に迷惑をかけてばかりなんだよね。

 ごめん、ありがとう。」



そんなの言葉に、卯ノ花は小さく首を横に振った。



「迷惑だなんて……思っていません。

 むしろ、私はさんの手助けが出来て嬉しいですよ。」


「烈……」



その目は偽りなく、真っ直ぐとに向けられていた。

―護廷十三隊を辞すとき、真っ先に相談しにいったのが彼女のところだった。
 
精神的に参っていたを励まし、叱り、導いてくれた優しい女性。

辞した後、つらいことがあっても乗り越えられたのは、

彼女がくれた言葉のお陰だとは思っている。



「あぁ、そうでした。

 実際、何も言わず姿を消されたときの方が、何倍も迷惑、いえ心配でした。」


「……も、申し訳ない。」



卯ノ花の的を得て吐かれた毒舌に、の頭は下がる一方。

卯ノ花自身は、に頭が上がらないというが、それはお世辞か。

または下がりもしないという意味ではないかと、密かに疑っている。



ともかく、彼女に余計な迷惑と心配をかけたことには違いない。

はもう一度、謝罪の言葉を口にした。



「絶対に、もう二度と……何も言わず勝手にいなくなったりしないでください。

 私とそう、約束してくださいますか?」


「……うん、約束するよ。」



そう言ったときの、卯ノ花の目元は少し潤んでいたような気がした。



「おかえりなさい。さん……」


「ただいま。烈……」



今度こそ、二人はしっかりと微笑み合った。





















月見酒ではなく、月見茶で夜のお茶会を楽しむ二人。

本来ならば、昼のうららかな日差しの中、のんびりとしたいところなのだが、

何分昼間は隊務に追われ、そんな時間を作る余裕さえなかった。

方や、四番隊隊長。方や、臨時雑務係もといい隊長代理。

怪我人の多さもさることながら、隊長の欠番が3人もでてしまったその損失は大きい。

特に五番隊にいたっては、隊長・副隊長の両方が欠員している。

その穴を埋めるべく他隊にも皺寄せが行っているため、

二人で優雅にお茶する時間は、どう頑張っても作れそうに無かったというわけだ。

そして結局、月を愛でつつお茶することに落ち着いた。



昔話に華をさかせつつ、いつの間にやら話題は二転三転し、自身のことにうつっていた。



「―そういえば烈、いつから『 』の正体に気づいてたの?」



唯一、が正体をバラしたときにほとんど驚かなかったのが、この卯ノ花である。

が所属していたのは言うまでも無く、四番隊。

その長たる卯ノ花は、一体いつから気づいていたのかは気になって仕方が無かった。



「……さんだと、いうことにですか?」


「そうそう。いや、バレるとしたら多分、真っ先に気づくのは烈だろうな。

 とは思ってたんだけどね?」


「そうですね。はじめて見たときから、似ているとは思っていました。

 でも他人の空似ということもありますし、確証もありませんでしたから。

 本格的に疑いを持ったのは……あの事件のとき、ですね。」


「『あの事件』って……まさかアレ?」


さん、いいえ四番隊隊員のが起こした事件といえば、アレしかないでしょう?」


「いや、でも事件って……」



が起こした事件(※詳しくは「ACT.14.5」参照)は、結果だけいえば

自身が現世へ戻るきっかけとなった事件だ。

起こした当初は腹立たしかったが、今では結構感謝していたりする。


 
「あなたと縁のある方々の中でも、あの霊圧を一番近くで感じたのは私ですから。

 牢に拘束し尋問した結果、確信しました。」


「なるほど……確かに、あの時が一番『』として烈と一番長く話したかもね。」


「そうですね。あなたの能力は最初から買っていましたけれど……

 中々話す機会はありませんでしたね。」


「しょうがないよ、隊長だし。四番隊は特にね。」



そこまで言って、はふと思い出した。



「ねぇ、烈。そういえばさ?あの時の奴らって今なにしてるの?」


「……うふふ。知りたいですか?」


「……烈、まさか何かしたの?」


「えぇ、まぁ、ほんの少しばかりですが。」


「……少し?」



どこか含みのある黒い笑みを浮かべている気がする……卯ノ花に、

は少々引きつった表情で聞き返した。



「元より、いけなかったのはあの方々です。

 四番隊の隊員に手を上げた時点で言語道断なのですが……

 それだけでは飽き足らず、折角戻ってきたさんを長期に渡って追いやるなんて……

 さんの友人である私が、許せるはずありません。」


「そ、そう……?」


「はい。ですから、さんはお気になさらず。

 もう二度とさんに害が及ぶことなどありませんから、安心してください。」


「あ、ありがとう。烈……」



それから気を取り直して、は話題を別のものに切り替えた。

彼らのその後はとても気になるが、残念ながらそれを聞く勇気などにはなかった。

とりあえず、彼らの冥福は祈っておくことにする。











彼女が腹黒いことは知っている。

知っているが、それを差し引いても彼女はとても頼りになる友人だ。

過去、その腹黒さに助けられたこと数知れず、ただしそれ故に被害も被ることもあった。

まぁ結論として、愛すべき友人に変わりはない。





―ということで。





『私はとても素敵な友人を持てて、とても幸せです。』