別れ出会い、そしてはじまりへ








 父も母も死神だった。



とは言ってもただの平隊員で、貴族の出というわけでもない。

身分から言えば一番下。流魂街出身の死神だった。







―ある日のこと。



現世へ赴く任務のため、両親ともに家を空けた。

その時、は12歳。



外は雨が降っていて、薄暗い空と激しい雨音が、両親不在の寂しさを駆り立てた。



―そう、なかなか寝付けなかったのを今でも覚えている。



そんな時に突然戸を叩く音が聞こえた。

恐る恐るそちらに出向くと、何度か見たことのある死神の青年がいた。



―後で知ったのだけれど、その青年は父と同じ隊の後輩だったらしい。



顔色がやけに青白く、目はどこか虚ろで、

そんな彼の口から振るえた声で父と母の死を告げられた。



―死因は大虚との戦闘による戦死。



その戦闘で亡くなった死神の総数は五十を軽く超えた。

大半は護廷十三隊所属の隊員で、席官も数多く亡くなったらしい。



異常ともいえるその事態に、当時の瀞霊廷全体が混乱した。



―けれど、そんなことを12歳のは知るよしもない。
























―4年後



は流魂街にいた。



両親のいないに、あの家を維持していくことはできない。

頼れる知り合いがいるわけでもなく、死神でもない。



せめて貴族であれば違ったのだろうが……。



行く宛てもなく、ただ野良犬のように流魂街を彷徨っていた。



両親が死神だったこともあり、霊力の素養があった。

だから当然のごとくお腹は空いて、何度も倒れ、何度も死にそうな目に遭った。



―それでも生き延びたのは、本当に、生への執念としか言い様が無い。



そして…そんなに転機が訪れた。



橙色の夕暮れが家々を照らし、一日の終わりを告げようとしていた。

その日は空腹と疲労のあまり、人気の無い林の少し奥へ行ったところで生き倒れていた。



辺りは閑散とし、鳥の鳴き声さえもしない。



―お腹、空いたな……ぼんやりと草地に頬を押し付け、ただそこに居た。



「とうとう…死ぬのかな……」



走馬灯のように昔のことが思い出された。

あれから4年、こんな世間知らずの小娘がよくここまで生きて来れたなと心の底から思う。



「疲れた……」



声も掠れて、ただの雑音のようだ。

父と母には悪いが、ここであなたたちの可愛い娘の人生は終わりを告げるらしい。



自分でも短いなぁとはつくづく思うが、

全身から気力という気力が抜け落ちていくのがわかる。



―間抜けな最後だ、と自嘲気味に笑いつつ、焦点の合わない目をゆっくりと静かに閉じた。
















『主は、それで良いのか?』



―いいわけないでしょ。

 さっきの未練たっぷりの件から悟ってよ……



声が聞こえた。



―何となく腹が立ったので言い返してみたが、所詮は夢の話。意味などないのだが…



―…『夢』?



驚いて目を開ければ、そこはあの林の中ではなかった。



「ここ、どこ……?」



思わずそう呟いてしまう。

だたっ広い和室の中央に敷かれた、真っ白いふかふかの布団。

そこには丁度寝ていたのだ。



「夢……?」



夢を見ているということに驚いて起きたはずなのだが、まだ夢の中ということもある。



試しに頬をつねってみた。

が、間違いなくその頬に痛みを感じる。



―尸魂界自体死後の世界だけれど、そのさらに死んだ後の世界が存在するのか悩むところだ。



いや、やっぱり面倒臭いから単純に、しぶとく生きてたってことにしておく方が無難だ。



そうして一人で納得していると……



「……何をしておるのだ。」


「―――!!!」



驚きのあまり声が出なかった。

自分しか居ないと思っていた室内に、他に人が居たのだから当然の反応といえばそうだろう。



「あ……あの、えっと…っ!!」



は混乱のあまり声が詰まって出てこない。



「…落ち着け。病み上がりじゃ、急に動くのは身体に良くない」


「……あ、あなたは?」



―何故気付かなかったのだろう……これだけの存在感を持つ者に。

明らかにただ者ではない雰囲気を纏ったこの老人――



「儂の名は、山本元柳斎重國。主の両親の元上司にあたる…」


「重國、様…」



は口内でその名を繰り返し呟いた。

何度か、両親の口から聞いたことがあったはずだ。



―そう確か、両親が共に尊敬していた死神の名。



「ふむ……その顔は知っておったようじゃな。」



元柳斎の言葉にコクリと一つ頷いた。



「どうして、あなた様のような方が……」



現状をいまだよく把握できずにいるは困惑した。



「この4年、ずっと探しておった。」


「え……?」



思いがけない言葉に目を瞬かせた。



「お主の両親を失ったことは、儂にも責任がある。ほんに惜しい者たちを失った…」



はそう口にした元柳斎をただ黙って見つめていた。



―父と母は、報われたのだろうか。



4年も経ってしまった今。

両親のことを思い出してくれる人が自分以外にも居てくれたという事実が、嬉しかった。



「主に霊力があってよかった。

 見つけたときはかなり弱っておったと聞いて肝が冷えたがのぉ…」



「…あ、ありがとうございました!」



―ようやく謎が解けた。



行き倒れていたところを助けてくれたのはやはりこの元柳斎らしい。



「礼はいらぬ。直接見つけたのは部下の者。

 元はと言えば儂がもう少しはやく主の存在に気付いておれば、

 流魂街を彷徨うことなどなかったんじゃ…」



「そんなことは…」



―風の噂で聞いた。



の両親以外にも多くの死神が亡くなったと。

死神の中でも多分、偉い人部類に入るだろう元柳斎も事後処理で大変だったに違いないのだ。



こうして4年も行方不明の自分を探していてくれただけで、頭が下がる。



「しかし、あ奴の話から察するに少々急いだ方が良さそうかの…」



「あの、何を……?」



「『死神統学院』儂が創設した死神になるための学び舎じゃ。

 主にはそこに入学してもらいたい」



「私が死神、に……?」



唐突な話に驚くしかない。



「お主がこれから生きて行くことを考えると、それが最善の道じゃ。

 両親譲りかのぉ…霊力の素質は十分ある。」



「素質、ですか……」



―そんなもの本当にあるんだろうか。



お腹が空くので多少はあるようだが……比較する対象がいないので甚だ疑問である。



「しかし現段階の統学院ではある程度の身分か、

 あるいは現役の死神からの推薦が無くてはならん。



 そこで提案じゃが、儂の娘にならんか?」




―娘?




「はい……?」



一瞬、聞き間違いかと思いつい、聞き返してしまった。



「学院在学中には何度か、しばしの休暇がある。主にも帰る家が必要になるじゃろう」


「重國様……」



『家』その言葉が酷く懐かしいモノのように感じた。



「こんな老いぼれで良ければ『義父』と呼んではくれぬか?」


「はい、義父上…」



―1人になった私に家族ができた。この喜びを何と言ったらいいのだろう。



「―誰よりも、己のために死神になるのじゃ…よ。」










―翌年の春





日番谷、改め、山本



死神統学院へ入学することとなる。