63:キラキラ
― 春
それなりに仲良くなったものたちが一定の人数で固まりはじめ、
学院にも慣れて来た頃――
悪目立ちしていたにも、一応、友達ができた。
中流貴族出身の子で名前は立花麻美という女の子。
自分の身分というものを鼻に掛けない、どこか貴族らしくない子だった。
臆することも見下すこともしないので、傍からみていても清々しい好感のもてる人物である。
……しかしどこか大雑把な気質の持ち主でもあった。
のことは入学時から噂で知っていたらしく、どんな人物が興味があったという。
「―ねぇ、貴女が山本?」
「……そうだけど」
―ズイッと、顔と顔がくっつきそうになるほど近くに寄って来た。
「コネで入学したって本当?」
「……はい?」
そう……本人に真正面から直接問い質してきた兵であった。
その後、日が暮れるまで顔を突き合わせ話し合い、和解。
そして何故か意気投合し友達になったという、ちょっとというかかなり変な経緯で
知り合ったのであった。
まぁ何にせよ。
友達が出来たことは、の学院生活に、大きな変化をもたらしたことには間違いない。
「ー!」
と、名前を叫びながら走り寄ってきたのは、入学一か月にして
悪友とも呼べるような仲になった麻美だった。
「……何事?」
「そこで変な奴にナンパされた……!」
「……な、ナンパ?」
予想外の言葉に、は間の抜けた顔をした。
「そう!しかも女の子と見るや節操なしに声掛けまくってんの!」
「……何それ」
―っていうか、何がしたいんだその男。
思わず心の中でつっこんだ。
―ただの女好きなのか……?
その行動が理解できず、は低く唸った。
「どっかで、見たことある気もするんだけど……」
眉間にシワを寄せ、麻美も考え込んでしまう。
も困ってしまい、ふと、先ほどより騒がしくなった教室の入口へと視線を向けてみると……
何故か嬉々としてこちらへ駆け寄って来る人影が。
「―さっきの可愛子ちゃんじゃないか!そっちはお友達?」
「―ゲッ!!さっきの変な奴!」
顔を上げた麻美は即座に考え込むのをやめ、の背に隠れるように後ずさる。
必然、とその変な男が顔を突き合わせることとなるのだが……
「…………」
―ジッと、は恥ずかしがる素振りも見せず、その目を真っ直ぐに見返した。
その人の本質を見抜こうとするとき、まず人の目を見ること。
は失礼にあたらない程度にだが、初対面の人物には出来るだけそうするように心掛けていた。
―ただのナンパ男か否か……
とりあえずそれを見極めようと思ったのだ。
しかし予想外というか、驚いたことに。
この男とある人物との意外な共通点を見つけてしまった。
―重圀様の目に似ている。
一見して、下心満載の助平にしか見えないのだが……
この目は、間違いなく何を考えてるのか他人に悟らせない瞳だ。
誰よりも数歩先の未来を見据えている者の目。
ただのナンパ男が持ち合わせているものにしては、不自然すぎる。
―本人は気付いているのかいないのか……
それも合わせての結論は――
「……君、面白い人だね。」
真顔でそう返したためか、そのナンパ男は驚いたように目を見開いた。
「……面白い、かい?」
「うん、面白い。君、何を考えてるのか分からない、って言われたことない?」
ちなみに……
―初対面の人物に普通、そんなこと聞かないだろう……
と、その周囲で聞き耳を立てていたクラスメイトたちは、
突っ込みたい気持ちでいっぱいだったのだが。
「うん。ある、ねぇ……」
何かを思い出したのかもしれない。苦笑気味に男は答えた。
「あぁ、やっぱり?」
もそんな男に微笑み返した。
「あのさ、そういう時は口に出して言わなきゃダメなんだよ?」
またしても突然言われた言葉に、男の笑みが消えた。
「そんでもって、しっかりと順序をおって面倒臭がらずに根気よく、ね?
大切にしたいと思う人なら尚更諦めちゃだめだよ?
確かに自分と同じ目線で見られる人の方が楽だけどさ、
自分とは違う人の話を聞くことも大切なんだから。まだ若いんだしね?」
ケラケラと笑うとは対照的に、男はポカンとしていた。
後ろにいた麻美は、意味がわからないとに視線を送っていたが……。
「君、は……」
唖然としている男を嘲笑うかのように、授業開始のベルが鳴った。
「あー、残念。時間切れ……またね?」
そう言うと、は麻美の手を引っ張りその場を離れた。
男は何かを言おうとしていたが、ちょうど席に戻る他の生徒の波に遮られ、
その言葉を紡ぐことは出来なかった。
名残惜しげに何度かこちらを振り返っていたが、諦めたらしい。
おとなしく席へと戻っていった。
「……?」
麻美が訝しげにを見た。
「―彼とは、いい友達になれそうな気がするんだ。」
定位置となってきている窓際の席に座り直すと、は柔らかく笑った。
「……はあーいうのがタイプなの?」
「いや、違うから。」
妙な誤解されたことに、ガクリと肩を落とした。
学院に入学してすぐだった。
浮竹の所属するクラスに、彼が入学前から尊敬してやまない人物……
『山本元柳斎重圀』
その人の養娘がいると聞いて驚いた。
だいぶ前から噂になっていたらしいが、そういうものに少々疎い質なので、
言われるまで全く知らなかったのだが。
「元柳斎殿の娘……」
―さぞ、しっかりした人物なのだろう。
と期待に胸が膨らんだ。
そしてクラスメイトに教えられた人物は、教室の窓側……
差し込む日光に照らされた、薄い金色の髪がキラキラと輝く、綺麗な女の子だった。
「……っ…」
無意識のうちに息を飲んだ。
それは小高い丘に登ったときに見た、夕焼けに似ていて……
先ほどまでいろいろと考えていたことなど、吹っ飛んでしまった。
―そう、見惚れてしまったのだ。
今思い出しても、恥ずかしい。
きっとその時、とてもまぬけな顔をしていただろうから。
次に印象に残ったのは廊下でのこと。
擦れ違い様にふと、その顔を見た。
……強い意志を宿しているのだろう。
その真っ直ぐな瞳に引きつけられた。
辺な噂がたくさん流されているらしいが……
しかし、彼女のその瞳を見て、それが所詮噂でしかないことを理解した。
―そう最初は『元柳斎殿の養娘』だったから。
興味を持ったきっかけは、周りと変わらなかった。
―今度、話しかけてみようか……
教室の、いつもの席で気持ち良さそうに眠る彼女を少し遠目に見つめながら、
浮竹はそっと心に誓った。
「浮竹ー…」
「…京楽?」
授業の始まりを告げるチャイムが鳴ってから少しして……
友人の一人である京楽春水が声をかけてきた。
―彼から話しかけて来るのは実を言うと珍しい。
何せ暇さえあるば女子生徒の尻を追いかけ回しているため、
ゆっくりと話した回数も片手で収まるほどしかないからだ。
―悪い奴ではないのだが……
自分とは全く違うタイプの男だ。
そんな彼が自ら声をかけて来るとは…―
「どうかしたのか?」
「あぁ、うん…今さっき、ちょっと珍しいこと言われてね……」
「珍しいこと?」
苦笑する京楽に、浮竹は不思議そうな顔をした。
「そう、だからさっそく実践してみたんだけど……」
「なんのことだ一体?」
こちらをジッと見る京楽を少々訝しげに見た。
「そう、つまりは、人生観を少し変えてみようかな?って思ったんだよね。」
「……そうか。まぁ、いいんじゃないか?」
「……そうかい?」
浮竹の意外な応答に、京楽は微かに片眉を上げた。
「あぁ。つまらなそうな顔しているよりかは、百倍はマシじゃないか」
「!……違いない」
―……うん、好きになれそうだ。
京楽の口元が嬉しそうに弧を描いた。