渋谷さん家の三姉弟






長女:渋谷。

職業:教師。

趣味:語学。

備考:地球産魔族代表(魔王)の片腕。



長男:渋谷勝利。

職業:大学生。

趣味:ギャルゲー。

備考:地球産魔族代表(魔王)の次期後継者。



次男:渋谷有利。

職業:高校生。

趣味:野球。

備考:眞魔国第27代魔王陛下。






そんな三人の共通点は言わずもがな、揃って魔族であるということ。

地球産魔族に限っていうと、それは実に珍しいことだったりするのだが、

今そのことについては割愛しておく。






ある晴れた日の午後のこと。



渋谷夫妻は揃って不在で、姉弟3人が全員家にいるという珍しい日だった。

茶の間では有利が野球中継を見ており、は台所で昼に使った食器の片付け。

勝利は自室に引き籠もりギャルゲーでもしているのだろう。



この歳になると、同じ家の中には居ても特別一緒に何をするわけでもない。

各々、好きなことをやるのが当たり前となっていた。



―つまり言いたいのは、別に仲が悪いというわけではない。ということ。



が片付けを終え、ゆったりとした足取りでリビングへと足を向けた。

その気配に気付いたのか、今まで熱心に野球中継を見ていた有利がふと顔を上げた。



「片付け終わったんだ?」


「うん、量も少なかったしね。野球の方は今、どっちが勝ってるの?」



エプロンを外してソファに腰を落ち着けつつ、有利に聞いてみた。



「…………」



しかしその有利から返事が返ってこない。



―ということは、つまり。

有利が応援している方が負けているらしい。



とても分かりやすい反応に、はこっそり苦笑した。



8回表で後攻、点差は3点。

サッカーでの3点ならば厳しいところだが、野球ならばまだまだチャンスはある。

シリーズも始まったばかりであるし、負けたとしても悔しくはあるが、

そこまで引き摺ることもないだろう。



そこでは、あたかも唐突に思い付いたかのように話を切り出した。



「ねぇ、ゆーちゃん。今度一緒に、ドームに試合観戦しに行こうか?もちろん私の奢りで」


「……えぇ!!本当に!?」



すかさず有利が食いつく。



―本当、野球馬鹿というか。

少々沈んでいた気分もあっという間に吹き飛んでしまったようだ。



「ホントホント。試合日程はゆーちゃんの方が詳しいだろうから、

 ゆーちゃんの観たい試合でいいよ。その代わりしっかりと私の試合解説係をするのよ?」


「うん!するする!!ちゃんとします!」



―はいはーい!と真っ直ぐ手を挙げ、目をキラキラさせている姿はとても可愛らしい。

さすが我が渋谷家のアイドル。

高校生になってもまだ垢抜けていない容姿は、十分可愛い部類に入る。

勝利ではないが、つい構いたくなってしまうのだ。

ここまで良い反応を見せる理由がとてもよくわかるだけに、尚更。

ブラコンでなくとも甘やかしたくなる。



バイトもしていない学生にとって、ドームのチケット一枚はとても高価なもの。

それはも経験したことだからよくわかる。

たまに父・勝馬が会社でチケットを手に入れてくれたりもするのだが、

さすがに良い席はあまり望めない。



行けるだけよし、贅沢を言ってはいけないと、有利自身も頭ではわかってはいるのだが、

人とは真に欲深いものである。

目の前にぶら下げられた人参に、見事に食いついた。



実を言うと、と有利の二人は今までにも何度か一緒に観戦しに行ったことがある。

母の美子と出掛けるのは渋るのだが、姉のと出掛けるのは気にならないらしい。

そんな微妙なお年頃。

シスコンとまではいかないものの、お姉ちゃん子に育ってくれた有利。

からすると嬉しい限りなのだが『ちゃんばっかりずるい!』と美子にはよく愚痴られる。

そんなこんなで、過去の経験から何を『解説』すればいいのかすでに心得ている有利は、

何も気負う必要などないというわけだ。

むしろとてもおいしい話以外に他ならない。












「―ちょっと待て!」


「勝利……?」



突然現れた、弟または兄に二人はキョトンとした。



「二人っきりだなんてお兄ちゃんが許さん!」


「……はぁ?」



いきなり話に介入してきたかと思えば、いきなり意味不明なことを言い出す。



「『許さん』って、何で勝利の許可がいるんだよ?」


「羨まし…じゃなくて、セコイぞ姉さん!」


「ちょっと、一体何がセコイのよ?」



何故か責められる。

本音が見え隠れする……否、丸出しの勝利にただ呆れた。



「とにかくダメったらダメだ!どうしても行くのなら俺も行く!」


「はぁ?勝利、野球興味ないじゃん!」



有利の鋭い突っ込みが入る。



「確かに。というか、勝利は自腹だからね?」


「なにぃ!?」


「当然でしょう。」



突然割り込んで来た上、何故か一方的に責められ、

さらにはチケット代諸々を出資してあげるほどは優しくなかった。

姉弟だからこそ、そこは辛辣なのである。



「……姉ちゃん?」


「……なぁに、ゆーちゃん?」



何ごともなかったかのようにニコニコと笑い返す。

その笑顔には妙な迫力があって……

有利に、某異世界の御年約120歳・爽やか青年を連想させたのは内緒だ。

そんな有利を尻目に、こっそりと勝利にだけ聞こえるようはボソリと言った。



「……羨ましい?」


「くっ……!!」



―何が。

と言わずとも、それはすでにわかりきったこと。

悔しそうに拳を握り締めている勝利に対し、はふっと勝ち誇った笑みを浮かべた。



「ゆーちゃん!!なんで姉さんのことは『姉ちゃん』と呼ぶ癖に、

 俺のことは『お兄ちゃん』と呼んでくれないんだ!?」



有利に問い質す姿は何故かとても必死。

いつものことながら、いきなりその話題を振られたこともあり、有利は疲れたように溜息をついた。



「何だよいきなり?」


「何故なんだ!?ゆーちゃん」


「……人徳の差?」



ポツリとが言った。



「あはは…つーか、そこにこだわる勝利が変態くさい、というかむしろ危ないから……?」



目の前の勝利から視線を外し、有利は遠くを見た。

オタクなのは重々承知しているが、しかし。

それに自分を巻き込まないで欲しい…という心境が隣にいるにもありありと伝わってくる。

それでも言い寄る勝利と、ウザがる有利。



そんな二人を傍観しつつ、は何となくこれからのことを考えてみた。



「3人で行くと知ったら、お母さんも来たがりそうよね……」



まぁ彼女の場合は、野球観戦に行きたいわけではなく、子供と一緒に出掛けたいだけなのだが。

そしてそこで有利と同じく野球好きの父を一人、仲間外れにするわけにもいかず、

結局家族全員で行くことになるのだ。



……あ、あとついでにゆーちゃんのお友達の健君、

有利曰くムラケン君もきっと美子が誘うだろう。

そこの理由をあえて問う必要がすでにない。

お客さん扱いしつつも、家族同然。

強いて言うのなら、美子が気に入っているのが一番の理由だ。



―……大所帯。



はそっと息を吐いた。

勝利が居ないときを狙って誘ったのも、すべて水の泡。



―今度は家に居ないときを狙うべきなのだろうか?とは肩を落とした。



そもそも、昔は可愛いらしかったのになんでああいう風に育ったのか、甚だ疑問であった。

何故かいつも敵意をむきだしにして突っ掛かって来るし、嫌味も絶えない。

こと有利に関しては特にだ。



―『ちゃん』と呼びながら、後ろをついて回っていた頃が懐かしい。












―まさか勝利が……姉に対してはツン(ツン)デレ体質だったなど、は夢にも思わない。


―何故ならも、対勝利に関してはいじめっ子気質を発揮するからである。


―そして愛され末っ子の有利は、そんなことなど米の粒程も知りはしない。







長女:渋谷。

職業:教師。

趣味:語学。

備考:地球産魔族代表(魔王)の片腕。

性質:基本苦労性。人によりS属性発揮。でもやっぱり苦労性。



長男:渋谷勝利。

職業:大学生。

趣味:ギャルゲー。

備考:地球産魔族代表(魔王)の次期後継者。

性質:弟萌。ツンデレ。自己中心的。妄想癖有り。自業自得が代名詞。



次男:渋谷有利。

職業:高校生。

趣味:野球。

備考:眞魔国第27代魔王陛下。

性質:天然。野球馬鹿。末っ子ならではの大器晩成と思われる。










―そんな渋谷さん家の3姉弟。