【図南の翼編】

 第四話:責‐せき‐





 昨晩の襲撃から一夜明け、人々は荷を取りに

 もう一度あの野営地へと足を踏み入れた。



 昨夜、先頭集団よりあとから追いかけてきた者達のほとんどが、

 必要最低限の荷さえ持ってきていなかったのがその理由だ。





 …辺りにはいろいろなモノが散らばっており、

 昨夜起こった出来事を彷彿とさせる妖魔の残骸や、

 中央で火を囲んでいた唯一の死者である男達3人分の遺体などがあった。



 なるべくそちらを直視しないよう、そわそわしながら彼らは荷を取りに行き、

 すでにそれを終えていた者達はただ黙ってそちらを眺めていた。




 昨日襲撃してきたのは巨鳥一体のみ。

 他にも数体の大小様々な妖魔の死体があることから見ると、

 あとから餌を争ったようだった。


 それに恐怖の念を抱く者、

 改めてここが黄海という人外の場所であることを再認識した者、

 様々ではあるが、中には真っ先に逃げ出した頑丘らを遠回しに責める者もいた。




 『死んだ3人も、あのときに助けてやれば息があったかもしれない』と。


 『それを確かめずに逃げ出すのはいかがなモノか』




 それを言ったのは雁国で商売をしているという羽振りのよさそうな男で、

 名を聯 紵台というらしい。


 …普通に考えればまず、筋違いもいい所だということが

 すぐにわかるはずなのだが、本人はそれにまったく気付いていない。



 そして、その男に反論したのは昨夜話しかけて来た男、

 名を『近迫』という彼だった。



 「あの場に残っていれば、危険なことはわかりきっていたから逃げただけだ。

  あいにく、俺たちの仕事は金を払ってくれた主人を守ることで、

  あんたたちを守ることじゃない。」



 それは一理ある。

 彼らは慈善事業をしているわけではないのだから。



 「では、何のために我々はなんのためにこうして集団となって

  蓬山へ向かっているのか」


 「臆病だからだろう」



 その言葉に紵台は眉間に皺を寄せた。



 「臆病と言うなら、不幸な者を見捨てて真っ先に逃げた

  お前たちのほうが臆病であろう。」



 尚も反論するその男に近迫は言った。


 「…別にそういうことでもいっこうに構わないがね。

  ―そう言うお前さんは、最後まで踏み止どまって3人を守ってやったのかい?」



 ―もちろん結果は既にでているわけで…



 言葉に詰まった紵台は、顔を真っ赤にして暴言を吐いた。



 『狗尾』と…。



 それに近迫は激怒し、利広との側にいた珠晶は、止めなくていいの?

 と頑丘に聞いた。



 しかし答えは否。



 確かにその必要はないとも内心同意する。


 が…その暴言の意味を珠晶を知らない。


 そっけない頑丘の態度も合わせて、

 珠晶までもがその“侮蔑の名前”を肯定した。


 それに頑丘は眉を上げて珠晶を見た。



 「逃げ出したのは事実でしょう。

  おまけに頑丘は火が危ないことを知っていたのに教えなかったんだわ。」


 「…俺が言って、聞くような連中か」


 「聞くわよ―…」



 その後も二人の口論は続き、収拾が付かなくなりそうだ。

 とうとう珠晶は頑丘を卑怯者呼ばわりし始め、利広も苦笑せざるを得なかった。


 と、が重い腰を持ち上げるようにゆっくりと口を開いた。



 「……珠晶。親切とお節介は紙一重のものだから、

  相手がそれをどうとるかは当人の人格がとわれる。


  …ただ、彼は頑丘を朱氏だからと言って認めてはいない…それが事実だよ。

  剛氏ならば、という者もいるけれど、その剛氏でさえ雇った様子もないし、

  あの暴言は最低だ。


  知識や力があるのにそれを実行しないのは、

  勇気ではなく愚かなこととしか言いようがない。」



 「……」


 「…それに頑丘も昇山者を護衛するのが本業ではないしね。

  もし、本当に教えなければいけなかったのなら

  剛氏の誰かがやっていたはずだよ。」


 「でも…!」


 「そう、誰もいなかった。

  …黄朱には黄朱の事情というものもあるしね。

  中途半端に教えることが一番始末に終えない。

  だから言う必要は尚更なかったんだよ。頑丘に非はない。」



 そう言い切ったに珠晶はまだ何かを言いたそうな表情をした。


 …納得はしていないらしい。


 もそれには困った様子を見せ、利広が助け船を出した。



 「のいうことに私も同感だ。珠晶は何が納得いかないんだい?」



 それに珠晶はしっかりと答えた。


 「…言っていることはわかるわ。

  でもそれと火を使うことが危険だと教えてあげなかったことは別だと思うわ。

  頑丘は死んだ人達を助けることができたの、その気にさえなればね。

  それをしなかったんだから、卑怯者だという言葉は不当じゃないと思うわ。」



 その言葉に利広は苦笑した。



 「…そうかな。」


 しかし二人の制止の言葉も聞かずに珠晶は言いに行こうとした。

 頑丘が止めたことでやめはしたが、『最低・卑怯者』という言葉で罵られた。


 ふと、利広の表情から笑顔が消え、も哀しそうな表情をした。


 「……君は幼い」


 そう小さく呟いた利広に珠晶が反抗する。


 「私が子どもだって言いたいんでしょ!?

  それくらい自分でもよく知っているわ!」



 ―…そうか、な?



 「私が王になったら見てらっしゃい!」



 そう言って怒る姿は、本当に子どもとしかいいようがない。



 ―駄目だよ、珠晶…。



 一瞬、苦しそうな表情をしたが腰にある短い刀を握った。

 それに気付いたのは隣りにいた利広のみ。



 ―…失ってから気付くのでは遅すぎて

  …自尊心は前を見えなくしてしまう。



 ―何が正しいのか、そんなことは誰も知らないけれど、

  答えは誰しも心の中に持っていることの方が多い。



 ―…時には間違うことも大切かもしれない。

  本当に大切なモノを守るときに後悔しないように…。














 その後、珠晶は普通ではあったがやはりどこか頑丘たち黄朱を

 批判することがあった。


 だからと言って、前に彼らを侮辱した人々に賛同するわけでもなく、

 ただ彼らの行動に対し『変』だということと、

 その行動の理由についての疑問を投げ掛けていた。





 一方頑丘はというと…前回、聯紵台とやりあった、近迫の所へと行っていた。



 珠晶が言うには、今後の道筋についてを聞きに行っているらしいが…


 「大丈夫だろうか?」


 ふとが呟くように言った。

 珠晶は頑丘を呼びに行ったので、その場には利広しかいない。



 「…は心配かい?」


 「まぁそれなりに、ですけど…良くない予感がするんです。」


 冗談なんかではない。昔から何度かそういうことはあったのだから…。


 「…杞憂ならばいいんですけどね」

 
 「…なるようになるさ、きっと。

  例えそれが最悪の結果になろうとも、

  私たちは私たちの限界までそれを見届けるしかないからね。」


 「利広らしいですね、でもこのままでは…」


 「いけないだろうね。」


 ―やっぱり……と、

 話しが一段落したところで珠晶と頑丘の二人が戻って来た。


 いつものように食事・後片付けを終え、4人は眠りについた。











 ―そしてその夜妖魔の襲撃が来た…