―過去
―現在
―未来
…時は戯れ、蓮が舞う
そして今…
新たな時が刻まれる
【図南の翼編】
第一話:巡‐めぐる‐
―前王が崩御してもう何年が経ったのだろうか?
妖魔が頻繁に出没し、人々が怯えながら生活を送る国『恭』
そんな中を一人、宿を探し歩く人物がいた。
蓬莱でいう虎に似た風体の騎獣を連れており、
それはどこか威厳に満ちた風格があった。
そして、そんな騎獣を連れている人物は大抵
厳つい男だったりするのだが…
しかし、それを連れている人物が眉目秀麗で中性的な雰囲気を持ち、
かつ、長い黒髪に濃紺の瞳、身体の線は全体的に細く、
それが更に人目を引き、半見せ物状態となっていた。
身なりはそれほど華美ではないがどれも上質の生地で、
それが不思議と似合い容姿を際立たせていた。
これがまだ奏や雁なら少しはマシだったのだろうが、
生憎ここは傾きつつある恭。
仕方あるまい、と当人も諦めているらしく、
周りの目を気にすることなく往来を活歩していた。
しばらく歩いていると、ようやく納得行く宿を見つけることができた。
そこの主人に声を掛けようと店の前に近付くと、
それより先に後ろから声を掛けられた。
「やぁ、じゃないか、奇遇だね。」
振り向くと、その先には数十年前に柳で出会った男、利広がいた。
「な、利広、なんでここに……。」
は疑問を投げ掛けつつ彼を見た。
利広はほほ笑みながら言葉を返す。
「その話は後でゆっくり話すよ。
ところで、はこの宿に泊まるつもりなんだろう?
私もここに泊まっているんだ。
丁度よくはないかい?」
「…了解
私に拒否権はないみたいだしね。」
そう言うとは騎獣を利広に一旦任せ、店の中へと入っていった。
―そして宿の利広の部屋…。
も別に部屋をとったのだが、積もる話もあるわけで、
猪口を片手に酒を飲み交わしながら話を始めた。
「こうしてゆっくり話すのも“あの時”以来だね。
で、恭に来た目的は?」
先程、宿の前でが聞いたことを利広がそのまま聞いてきた。
―先を越された…。
と、苦笑しつつは答えた。
「…黄海に行こうかと。
蓬山の様子が気になるのと、ちょっとした用事も兼ねて…。」
その言葉に利広がほほ笑んだ。
「奇遇だね。私も黄海に行こうかと思っていたところなんだ。
実を言うとここに来る途中で面白いお嬢さんに会ってね、
その子が昇山するって言っていたものだから…。」
「止めなかったんですか?」
「言っても聞かないよ。
それに子どもが一人、家出してまで昇山するなんて
興味がわかないかい?」
―……ダメだ、この人。
溜め息をつきそうになるのを押さえながら、は利広を再度見た。
「で、私にも協力しろ…と?」
―理由を聞く前に自分から話したということは、
つまりそういうことなのだろう。
とは利広を見据える。
「…さすがにそこまで図々しくはなれないよ。
ただ私は黄海に行くのが初めてだから、
経験者がいてくれると助かるなぁ…と思ってね」
…結局、言っていることは同じ意味なのだが、
あえてそこは突っ込まないでおこう。
も…道程は同じだし断る理由もないのだから。
と…
「わかりました。どうせ一人で行くつもりでしたから、
ご一緒させていただきます。
安闔日までまだ日にちもありますから、その間に準備もしてしまいましょう!
…これでいいですか、利広?」
―どうも昔からこの手の人種には弱いらしい…と諦め、
溜め息をついた後に利広の目を見た。
すると彼は先程とはまた違った笑みを浮かべ、コクリと頷いた。
「助かるよ。」
「…ついでといってはなんだけど、
その昇山すると言っていたお嬢さんのことを教えてもらえる?」
「もちろん。
確かまだ12才で大きな商家の末娘らしいね。
騎獣を一匹連れていて、確か猛髷…。
一人で昇山するなんて、本当にあっぱれなお嬢さんだよ。」
「…そんな良いとこのお嬢さんがどうしてまた。
しかもこんな得体の知れない男に……」
「『本当のことを話したのか』って?
酷いなぁ…、まぁ確かに最初は身分を偽ってたけどね。
その嘘もいいとこのお嬢さんとは思えないほど完璧だったし…
私に言わせればまだまだだけど。」
―確かにそうだな……。
と、この男だからという限定の意味では納得した。
なぜならも騙し合いで利広に勝てる自信はほとんどない。
―過去にも一度騙された経験があるため、その事実は受けいれざるを得ない。
というのもあるが。
「…そういうことですか。
で、肝心な利広にあっぱれと言わせたお嬢さんのお名前は?」
「真珠の珠に水晶の晶と書いて『珠晶』」
「珠晶…。」
「案外…彼女が玉座に座ることになるかもしれない。」
利広が珍しくまだ先のわからないことを楽しそうに言った。
「…そう、私はまだ会っていないからわからないけれど、
利広がそう言うのなら可能性はある…かな?」
「おや?それは私をそれなりに評価してくれている、ということかな?」
「まぁ一応…。年の功という意味では。」
「…それは喜んでいいことなのかな…?」
「さぁ?長生きは良いこととは聞きますけど。」
「微妙だなぁ…」
困ったように笑い利広は窓の外に目線を向けた。
それに気付いたもその視線を辿るように窓の外を見た。
闇が空一面に広がり、人々の話し声があちらこちらから聞こえる。
ただそれは、賑わいなどとは程遠いものだった…。
『この国を変える新たなる風を』
―夜は静かに更けてゆく…