―Side:水鏡 凍季也







―遊園地の件から数日後のこと。





―ピンポーン……



とある家のインターホンが来客を告げた。


今の時間帯は丁度、奥様方が夕食を作っている時間帯。

外を歩いていると『この家はカレーかな?』などと、無意識に連想することが出来たりする。


―……一体、誰だ?


この家の、いやマンションの一室を借りている人物、水鏡 凍季也は顔を顰めた。

なにせ、この水鏡の家を訪ねてくる人物など久しくなかった。

ほとんど天涯孤独の身に近い彼には当然、親戚などの思い当たる人物も居ない。

ましてや友達など。彼の家を訪ねてくるほど親しい間柄になった覚えも無い。



―となると、あとは勧誘の類。



居留守を使うか迷った挙句、結局玄関へと向かった。

彼には珍しく、顔ぐらいは拝んでやろう。という仏心からだ。



ドアのチェーンはもちろんそのままに、ドアをゆっくりと開いた。



「………」


「……あ、凍季也。今、平気?」



水鏡は、何と言っていいかわからなかった。

先ほど、家を訪ねてくるほどの親しい間柄の友人など覚えが無い、と言ったが……



―いた、のか?



という心境だ。

彼女の場合、友人というよりは同志という印象が水鏡の中にある。

多少お節介な人物であることは、この間の件で分かったのだが……

まぁ、それは隣人で、クラスメイトだから。

個人的な興味こそあれ、あの事件以来、特に接触は持たないままだった。



―それが急にどうしたのだろうか?



水鏡はの脳内で疑問符が浮かんだ。



「えーっと、その……よかったら、うちでご飯食べませんか?」


「は……?」


「いや、その……色々と事情がありまして、作りすぎちゃったんです…。

 で、食べてくれそうな心当たりが、凍季也くらいしか思いつかなかったので……」



しどろもどろに話す彼女は、どこか落ち着きがない。



「あ、もう晩御飯食べちゃった後とかなら、いいんですけど……」


「……作りすぎた原因を聞いても?」


「……あ、えっと…ホントは、ね。

 兄さんが帰ってくる予定だったんだけど……ダメになっちゃって。

 一応、柳ちゃんも誘ってみたんだけど、花菱君たちとの先約があって……」


「―で、次は僕?」


「…あ、うん、無理に……とは言わないから。

 突然ごめんね?久しぶりに誰かと一緒に食べれると思ったら、なんかはしゃいじゃって……

 いい歳して恥ずかしいよねー……」



俯いているため表情こそ分からないが、水鏡にはその気持ちが分からないわけではなかった。



「いただこう、かな。」


「……え?」



彼女は驚いたように顔を上げた。

その目は、こちらが零れ落ちるのではないかと思うほど、まん丸に見開かれている。



「……食費がうくのなら願っても無い話だから、ね」



自分でもちょっとこれは、無理のある言い訳だな、と思う。




「所帯染みてるね、凍季也……」




憎まれ口を叩いているように聞こえるが、その頬は微妙に赤みを帯びていた。







自分に似ている、と思っていた。



―あぁ、確かに似ている。





けれど、こうして寂しさに耐える彼女が、不覚にも可愛いと思ってしまったのも……確かだ。












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